第八章第三幕 正義の悪党
すぐに、振り返って帰ったのなら、
何もなかったのかもしれない。
だが、蛇に睨まれた蛙が動けないように、
静香も足がすくみ、すぐ動けなかった。
「お嬢ちゃん、迷子か?」
男が聞いた。
静香は下を向いて何も言えなかった。
「人が話しかけているのに無視とは失礼だなぁ」
「おまえ、なめているのか?」
もう一人が静香の手を握った。
「やめてください」静香は小さな声で言った。
「はぁ?」
「聞こえないなぁ」
男達は静香をどこかに連れて行こうとしていた。
「やめとけ」
その男は頭をかきながら現れた。
親父から、商店街の本屋の店主に、バイクが動かないと連絡があった。
見て来いと言われたから来ただけだった。
若い女の子が、地元の人間でもあまり近寄らない裏通りへ歩いて行くのが
見えた。
無視しようかとも思った。
しかし、
亡くなった親友の言葉を思い出した。
「やれやれ。」
翔太、お前のせいだぞ。
藤三郎は裏通りに行き、今に至る。
「なんだお前。」チンピラが言う。
「俺はただのバイク屋だ。」
「お前には関係のない話だ。あっちに行け。」
「それができたらやっている。」
静香はただそのやり取りを見ていた。
一人の男が藤三郎の素性に気がついた。
「おい、あんた、あの霧島組の」
「霧島の親父さんは俺とは関係ない」
「おい、やばい、逃げろ」
男達は去っていった。
「ありがとうございます。」
静香はお礼を言った。
「あの・・・ヤクザ屋さんですか」
つい、興味本位で聞いてしまった。
藤三郎は頭をかきながら
「バイク屋だと言っている。」と言った。
「こんな危ない所に一人で来るなんて、正気か?」
そう言うと藤三郎は静香の手を引いて、表の商店街まで出てきた。
静香は、引かれる手を見ながら、
心臓が高鳴っていた。




