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第13話 理外魔法・救理の銀彗星


「ガルァぁぁぁぁァァッぁッ!!」


 再びの咆哮。理性はなく、本能で動くソレは先程までとは比にならない速度で動き出す。


 狙いは当然、シルビィ。どうやら理性がなくとも、彼女が危険だと本能が理解しているらしい。


「速い……けど、力に任せただけの攻撃なんて私には通じません」


 暴走によって力と速さが上がったとて、元から速度に差がある以上、シルビィにとっては攻撃をかわす事なんて容易い。


 まして、理性がないなら尚更だ。


 駆け引きも何もない力任せに攻撃を振るうソレに対してシルビィはその全てを見切ってかわしていく。


「ガルァぁぁっ!!」


「っまずい……!」


 当たらなければ意味がないを体現していた彼女だったが、理性のないソレの標的が気絶していた魔皇国の兵士達にまで及んでしまい、守るために攻撃を受けざるを得なくなってしまった。


 振り下ろされる爪とそれに付随する炎をシルビィは真正面から受け止めるも、凄まじい膂力と体重差がそのまま彼女へと降りかかる。


(ぐっ…………)


 衝撃と威力によって地面はひび割れ、漏れ出た炎はシルビィの衣装と肌を焦がす。


「っ……炎獄のローガ!部下ごと巻き込むつもりですか!」

「グルぁァァッ!!」


 敵である魔皇国の兵士を庇うのは偏に魔法少女としての矜持があるから。


 押し潰されないよう耐えながら、ローガへ必死に呼び掛けるシルビィだったが、その声は届かず、ただ獣のような咆哮が返ってくるだけ。


 もう、彼には理性の欠片も残っておらず、敵も味方も判別がつかないのだろう。


 それを悟ったシルビィはギリリと歯を食いしばり、真っ直ぐローガに見つめる。


「どうやらもう言葉は届かないみたいですね。貴方は倒すべき悪……それは変わりません。けれど、それは理性をなくして苦しむ貴方を見捨てる理由にはならない――――だから、私は全力で()()()()()()()!」


「ッ!?」


 敵だろうとなんだろうと、助けを求める誰かの手を振り払わない。


 それは彼女が自ら課した魔法少女としての矜持。


 他人から見れば偽善、あるいは馬鹿な事をと笑われるかもしれない妄想のような理想だ。


 しかし、その矜持こそが彼女に力を与える。


 理性をなくしたローガを救うと宣言した瞬間、シルビィは思いっきり地面を踏みしめ、少しずつソレの爪を押し返し始める。


「やあぁぁぁぁぁぁっ!!」


 そして、気合の込もった雄叫びと共に爪を掴んだまま、一歩前に踏み出した彼女はその勢いでソレの巨体を力いっぱい放り投げた。


 放物線を描いて飛んでいくローガだったソレ。


 もしも、彼に理性があったのなら空中で態勢を立て直せたのだろうが、本能で動くソレは地面に着くまでジタバタと暴れる事しかできない。


 そうして生まれた猶予の時間。シルビィは右手を天に掲げて詠唱を口にした。


「――――輝け、闇を照らす銀の星!紡ぐ祈りは天へと駆け、降り注ぐ光は奇跡を生み出す!」


 彼女の右手に集まる魔力は眩い銀色の光を放って収束し、やがて空に巨大な魔法陣を描き出す。



「これで……終わりです――

 ――『理外魔法(シルビィ)救理の銀彗星(プレキュシルコメット)』!!」



 魔法陣から降り注ぐのは白銀の煌めきを孕んだ蒼穹の星。


 まるで空がそのまま堕ちてくるような錯覚すら覚えるほど、絶え間ない星の雨が理性を失ったローガを呑み込む。


 それはマギアシルビィ……ミラキアが考えた魔法少女としての決め技だ。


 彼女に揺るがない理想がある以上、必殺技とはいかないが、この魔法にはそれ相応の効果があった。


 蒼穹の星々が降り注ぐその光景はローガを消し飛ばしたようにしか見えない。


 けれど、星々の輝きはローガの身体を一切、傷つけず、纏った炎と魔力で構成された魔人装のみを消し去り、白銀の魔力光が彼を優しく包み込んでいく。


 やがて、光が収束し、魔力の残滓が漂う中、元の姿に戻ったローガが意識を失ったまま横たわっていた。


 先程までの激闘が嘘のような静寂と共に、一騎当千の猛者である魔皇国〝八神将〟炎獄のローガとの戦争を賭けた戦いは〝白銀の魔法少女〟マギアシルビィの勝利で決着を迎える。


 決まり手は天才少女が編み出した理外の魔法。


 望んだ結果を現実にするその魔法はローガの理性を奪った魔族としての本能を鎮め、戦闘続行に不可欠な魔力や気力、戦意さえも奪って彼を無力化したのだった。


「――――っここは……確かボクは魔人装の暴走に呑まれて…………」


 倒れたまま、指一本動かせない状態で意識を取り戻したローガは状況を確かめるため、かろうじて動く首を少し傾け、シルビィの姿を見つけると、諦めたような笑みを漏らす。


「ああ、そっか。ボクは負けたんだ……それも、君に助けられるなんてオマケ付きで…………これは完敗、だね」


 どこか憑き物が落ちたような表情を浮かべるローガ。それは全力を出した末に勝てなかった故の諦観か、それとも敵に助けられたという無様を晒した自分への自嘲か、なんにせよ、彼にはもう一切、戦う気力は残っていない。


 それを悟ったシルビィもまた、戦闘態勢を解いて彼に近付き、その顔を覗き込む。


「……一応、確認しますが、まだ戦うつもりは?」

生憎(あいにく)と、そうしたくても指一本動かないよ。ま、動いたとしても何もする気はないけどね。真正面から戦って負けた上、情けまで掛けられた。これ以上の抵抗は恥の上塗りにしかならないし」


 動かないながらも肩を(すく)めるような仕草を見せつつ、ローガはそう(おど)けてみせる。


 その言葉に嘘はないようで、煮るなり焼くなり好きにしてくれと言わんばかりの様子だった。


「そう、ですか。反省しているのなら私の役目は終わりですね。後は国の法に(のっと)って罪を償ってください」

「……反省してるかって言われると何とも言えないけど……いや、ここで言及しても仕方がないし、君の言う事には大人しく従うよ」

「素直なのは良い事です……それと、付きましてはもう一つ、この()と約束して頂きたい事があります」


 頷きながらシルビィの変身を解いたミラキアが含みのある顔でローガへと言葉を向ける。


「約束?……まあ、勝者は敗者を好きにできる権利があるし、好きにしたらいいんじゃない?」


 彼女の言葉に一瞬、怪訝な表情をするローガだったが、どんな約束にしても、負けた自分に拒否する権利はないと割り切り、少し投げやり気味にそう返した。


「……その返事、了承と受け取りますね。それでは約束です。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「?それは別に構わないけど――――」


 何だそんな事かとローガが了承の旨を口にすると同時にミラキアを中心に魔法陣が展開され、二人の間に見えない魔力の糸を結び付かせる。


 それは結んだ誓約を遵守させる魔法。破れば命を失う……といった恐ろしい罰などはないが、その代わり、その誓約は強制的に遵守されるという強力な代物だ。


「……これで契約成立です。貴方はマギアシルビィの正体について()()()()()()()()()()()()()

「…………やられた。まさか誓約の魔法とは、ね。どのみち話すつもりはなかったけど、これで文字通り、喋れなくなったって訳か…………そこまでして隠す必要あるの?」

「決してその正体を知られてはならない…………それが魔法少女のルールですから」

「……ふーん、ボクには理解できないや。あそこまでの力をひた隠しにするなんて」


 力は示してこそ正義という思想の下、成り立っている魔皇国の〝八神将〟であるローガにはミラキアの掲げる矜持が全く持って分からなかった。


「……別に理解は求めてません――――お喋りはここまで。そろそろこの空間も崩れます。どう立ち回るにせよ、ご自身と部下の皆さんの命を大切にしてくださいね」


 ローガの言葉に対して僅かに目を伏せたミラキアがそう答えた瞬間、空に(ひび)が入り、空間全体が静かに崩壊を始めていく。


(本物の魔法少女を知っているのはあの夢を見た私だけ……でも、あんなに素敵で素晴らしい存在を独り占めになんてできない。だから――――)


 彼女が求めるのは魔法少女の布教。


 マギアシルビィの名が広まり、魔法少女が認知されて人気になるのなら、むしろそこにミラキアの存在は要らないとさえ思っている。


 それを誰かに理解してもらおうなんて考えていないし、押し付けるつもりもない。


 言ってしまえばただの自己満足だ。けれど、それこそがミラキアの根底にある理由であり、彼女にとって魔法少女という存在に対するの究極の推し活だった。



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