第104話 農園で元手をゲットです
ポールント男爵が捕縛された事で軍への食糧供給は、一時的にでもメリブランシェ家1本に任せなくちゃいけなくなった。
ただ、それはあまりよろしくない―――ポールント男爵が狙った権益の独占をメリブランシェ家が獲得する形になってしまう。
かといって単純にポールント男爵の代わりの貴族を取り立てるのは、メリブランシェ家としてはなかなか首を縦に振りづらい話だ。
「旦那さま、それはどうしてなんですか??」
僕は今アイリーン、エイミー、クララ、そしてセレナと200人の兵士さん達に、30人の獣人さん達とヘカチェリーナ、メイドさん20人、そして何故かじいや&ばあやまで伴って、大所帯で王都郊外にある大農園に来ていた。
「アイリーン様、かのお家は今回の事件では " 被害者 ” になりますの。にも関わらず、これまでの御役目を共に行っておりましたポールント男爵が抜ける事になってしまい、その穴をメリブランシェ家のみで埋めなくてはいけなくなりました。ですので、それに伴う益を享受いたしますのは、あちらの立場からすれば当然になるんですのよ」
クララの説明にアイリーンとエイミーが ほぁ~ と感嘆し、分かったのか分からないのか判断しづらい反応を返した。
負担が増大する―――なのにリターンなしは許容できない。
これはメリブランシェ家が強欲なわけじゃない、当然の主張だ。
「かといって、メリブランシェ家にのみ軍の兵糧を依存することは現実的ではございません。万が一の時、食糧供給に問題が生じてしまえば全軍が瞬時に餓える事態と成り果てます。ですので、分担して行ってもらわなくては困るのですよ」
セレナに説明を重ねてもらって、ようやく理解の色が二人に浮かんできた。
「(まぁ、軍だけじゃなくって貴族間のメンツだとか権力問題だとかも絡んでくるから、事情としてはもっと複雑なんだけども)」
その辺りは多分、セレナの方がずっと詳しい。いち将官でも貴族の令嬢、軍部に張り付きっぱなしの毎日でも貴族社会の深い情報は普段から耳にしてるはず。
実際、説明する前にクララと軽く頷き合ったり目配せし合ったりしてた。この二人の貴族淑女のレベルは高く、かつ同等のものを有してる。
僕としてはとっても頼もしい。
「さて、それで今回この農園に訪れた理由なのですが、メリブランシェ家に対する折衝案と致しまして、僕のルクートヴァーリング地方と、エーポル家のハイポリクス地方で段階的にメリブランシェ家の増加した負担の分を請け負っていくことになったんです」
エーポル家は今度の事件でポールント男爵に、危うく黒幕役にされそうになった貴族だ。
家柄は中堅であまり力もなく、内気で日和見勢な貴族男性が当主だったと記憶してる。
あと一歩で罪に問われるところだった彼に、同情の意味も込めて宰相の兄上様が白刃の矢を立てた。
そして僕のルクートヴァーリング。
そんな王室の権益が増すような話、またぞろ大臣たちに猛反発されるんじゃないかって思ったんだけど、意外にも大臣たちの反対は少なかった。
理由はやっぱり自己保身だ。
「ルクートヴァーリング地方は、メリブランシェ家、エーポル家の領地よりも王都に近いですからね。王都近くでまた魔物の軍勢が出現した場合、王都に近いところから食糧供給ができれば緊急時に重宝するということで、兄上様が計らってくれました」
僕が綿花をはじめ、紡績関連の産業をルクートヴァーリング地方に立てようとしてるのは兄上様達も知っていた。
その上で、軍の運用の観点から考えても有用だと考慮して、僕に任せてくれたんだ。
「ってことはさ。この農園での今日の用事って、作物の徴収?」
「ヘカチェリーナさん、殿下の御前ですよ。そのお言葉遣いはなりません!」
じぃや と ばぁや がついてきたのは、僕がアイリーンを連れ出すことにしたからだ。当然ヘカチェリーナ以下メイド達も、僕達のお世話のため、ばぁやが引き連れてきた。
セレナ+まとまった数の兵士さんは、作業のお手伝い+アイリーンの護衛もかねている。
獣人さん達はここで徴収した作物をまとめ、ルクートヴァーリング地方へと送る手はずを整える。
ちなみに " 収穫 ” ではなく “ 徴収 ” なのは、この大農園は本来、ポールント男爵の所有だからだ。
罰せられた彼は、所有していた土地を王家預かりで没収された―――で、彼が密かに、食糧の大量供給体制を整えようとして準備していた農園や農地の作物の種や苗を、僕達で頂いて、活用することになった。土地そのものについてはまだしばらくは王家所有で、今後のことは未定らしい。
「失礼いたします。殿下、大変なことになりましたね」
「クリンツ、よく来てくれました。もう農地の方は良いのですか?」
「はい、メルブランシェ家の作業員総出で種と苗を接収しています。父上から、殿下のお力になるようにと仰せつかって参りました。あと―――」
クリンツが軽く片手をあげてお供に合図を送ると、続々と大き目の背中に背負える感じに仕立てられてる編みカゴが運び込まれてきた。
「こちらの苗や種は、おそらくは殿下の所の方がよく育つであろうと、持ち寄って参りました。ルクートヴァーリングへご一緒に運び入れてください」
「ありがとうございますクリンツ。お父上にもよろしくお伝えください」
こうして僕は、ルクートヴァーリングでの農業拡大の元手と命を受けて、たくさんの苗や種を獲得することができた。




