第103話 兵糧を掴もうとした愚者です
兄上様たちの調査の結果、やっぱりというか僕をダシに使ってメリブランシェ家を陥れようとしていた貴族がいたのがわかった。
「それで、犯人はそのエーポル家なのです?」
「犯人という言い方をすると、正確にはそのエーポル家に依頼された一般市民ですね。エーポル家が関わっているというのはまだ疑惑の段階です」
また届くだろうからって、配達員1人1人にそれとなく私服の兵士さんを張り付かせ、彼らの配達中に近寄ってくる人を現場で取り押さえ―――3人いたけど内2人は、配達員の知り合いで世間話をしに近づいてきただけ、残り1人が実行犯だった。
取り調べによると実行犯は最近職を失った一般市民で、お金に困っていたら知らない男に声をかけられ、報酬を貰って請け負ってたらしい。
「条件は託された物の中を開けたり見たりしないこと。実行犯は文字の読み書きが出来ない方で、封筒がどこに送られているのかも知らずに犯罪の片棒を担がされていたようですね」
「少し可哀想なのです……でもでも、殿下に毒の入ったモノを届けちゃったのですから、仕方ないですよね」
エイミーとしては同情の余地ありだろうし、僕もいいように末端として使われたその人は可哀想だとは思う。
けどお咎めなしとはいかない。
「厳しい処罰はされませんが、今後二度と同じようなことに手をつけないよう、罪の意識は持っていただかないといけません―――ですが、ちょっとばかり僕に考えがありまして、兄上様達にお願いしています」
・
・
・
「! こ、これは殿下、この度は知らぬ事とはいえ、おらぁとんでもないご迷惑を」
僕の姿を見るや否や衛兵さん達に囲まれてるその男性は、一目散に石畳の上で土下座した。
どうやらこの人が実行犯らしい。
「頭をお上げください。……もしあなたに罪の意識があるのでしたら、今回の働きで報いていただきます、覚悟はいいですね?」
「は、はい、おらぁ何でもやらせていただきます!」
やや田舎のなまりっぽいイントネーション。王都に来てまだ日が浅そうな感じだ。
彼にやってもらうのは、これまでと同じように毒入り封筒を受け取る事。もちろん衛兵の皆さんが密かについていって現場を確認し、封筒を彼に渡す者を追跡する計画だ。
「(黒幕の方は母上様に任せておいて大丈夫と言ってたし。ならこっちは現場の実行犯から逆に紐解いてくっ)」
根っこと先端の両方から黒幕の貴族を追い詰める。
特に実行犯から封筒を渡した者、さらにその先と人を辿っていけば、多くの証拠が手に入るはずだ。
いかに母上様でも、多くの証拠がないと黒幕を締め上げきるのは難しいだろうし。
「(白を切りやすくするために何人も人を挟んでるわけだしね。…こういう事はしっかりマメに準備するのに、なんでその熱意を真っ当な方向に向けられないかなー)」
そして僕の思った通り、1人抑えればまたその先に1人と、封筒は多くの人づてで扱われてた。
しかもそのほとんどが何も知らない運ぶ専門要員。証拠を抑えるためには、物証や詳しい事を知ってる人を抑えて証言を取る必要がある。
十数回に渡って毒入り封筒リレーをさかのぼる捜査が続いた先で、ついに致命的な現場を確認することが出来た。
「殿下、御報告いたします。” 協力者 ”と次に接触した者は、貴族の男でした」
「! ついに来ましたね。てっきり執事などの侍従が直接接触の終着だと思っていたのですが、まさか貴族本人が接触……どこの誰かはわかりましたか?」
「ハッ、ポールント男爵でほぼ間違いないかと」
ポールント男爵。一応は王室支持を公言している貴族だけど、完全に胡散臭い系なオジサンだったと記憶してる。
「……ポールント男爵ですか。そういえば彼は最近、多くの食糧拠出を申し出ていましたね」
戦力の再編で兵士さん達の配備替えが行われる事が決まった時、やたら各地の新拠点へと食糧を供給する役目に立候補してた人だ。
拠出といえば献身的な態度で関心できそうに思うけど、実際は国による買い取りだ。
しかもこの食糧は平時から軍の兵站に入る―――つまりポールント男爵からすれば、安定かつ継続してお買い上げしてもらえる顧客をゲットできる。それを自分一人で一手に担えれば利益独り占め、というわけだ。
「(もっと言えば、食糧を出してやってるっていう軍に対して上の立場作りもできるとかもありそう)」
独占的に自分の領地から食糧を供給し続けてそれが長期間に渡れば、伝統的に軍の食を担っている者っていう箔と立場が獲得できる。
すると将来、軍の足元を見て食糧の値段をふっかけたり、権力争いにも影響力を持つことも可能―――男爵の算段はそんな感じだったに違いない。
ところがそこは優秀な兄上様達だ、そんな思惑は見透かしてた。あの時、軍の食糧供給をポールント男爵だけじゃなく、もう一人にも申し付けてたんだ。
「なるほど……見えてきました。食糧拠出役を独占するための同僚潰しというところですね、今回の事件は」
そう、他でもないメリブランシェ家だ。
ポールント男爵の領地も農業に力を入れてるっぽいけど、メリブランシェ家には逆立ちしてもかなわない。
実際、比率的には7:3でメリブランシェ家の方が拠出量は多かった。仮にポールント男爵からの食糧供給が止まったって、軍はそれほど困らない。
それだとただ食い扶持のお世話をするだけで、美味しい思いは何一つ出来ない真っ当なお役目でしかない―――そこでポールント男爵は、メリブランシェ家を陥れて食糧拠出の役目を、自分に一本化させる方向にもっていこうとした。
「……と、いうことでポールント男爵。そなたの所業はまことに陰湿である。何より我が王弟に毒物を送りつけると言う差配した時点で、あまりに許されざる大罪。覚悟はよいな?」
宰相の兄上様が、とても怖い顔でポールント男爵を睨みつける。
罪状と処罰を申し渡された男爵は、ガックリと頭を下げて連行されていった。
「(結局、エーポル家はスケープゴートに利用されかけてた、と)」
もし兄上様達や母上様などが優秀でなかったら、あるいはポールント男爵の目論見通りに切り抜けられてたかもしれない。
身内が本当に頼もしくって、そのありがたさが改めて身に染みた事件だった。




