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第七話:ヒトリモのセンスは若い。

前回のあらすじ


お嬢様を殴ったアラシェ。報連相を怠られ、またもや盗聴犯に救いの手を差し伸べられることとなる。



 クラン立ち上げの契約後は、金縦ロ嬢もヒトリモって子もほっぽってマイホーム、つまりセンカさん家に帰ってさっさと寝た。特にこれといった事件はなかったけど、そろそろベッド買わせて、センカさん。



 さて。


 実はプレイヤーらしいヒトリモさん。 特に確認も無し、勢いで入ってもらったはいいけれど、実力というものが分からなければどうしようもない。


 と言っても三人しかいないクランだし。そこまで身構えるものでもないのかもしれないけれど。

 とはいえ、NPC救済が目的のクランなのにまともに人がいないのも考えもの。

 NPCのみなさんは理不尽レフジーズのクランに入っちゃったらしいし、もうこの街に私たちのとこに入ってくれるNPCなんて存在するのか……? と疑ってしまいたくはなるけれど。

 まあ、それはおいておいておいおい考えることにしましょう。


 なぜなら。

 レフジーズのクランがあっちで勝手に強くなってくれれば、NPC冒険者救済の一助を担った的な感じで評価されるかもしれないので。

 運営さんからも苦情が来てはいないので案外どうとでもなるのかもしれないしね。



 まあ、うん。過ぎたことはどうしようもない。気にしない方向でいこう。

 というわけで、新入りのヒトリモさんを連れてレベリングへ。

 いつもの犬っころが出る平原にやって来たところだった。


「回想は終わりか? (あらし) 結会(ゆえ)


「あはは、回想って程では……ん?」


 まて、こいつなぜ私の本名を知っている。

 刺客か? 的な訝しげな目を向けつつ、弓を取り出し脅しをかけておく。

 すると怪しげな顔をしていたヒトリモなる謎の人物は何やらしてやったりといった顔で話し出した。


「もう一度自己紹介をしておこうか。私は、異聞(ことぎき) くまき。ヒトリモという名でプレイしている」


 さて、私にとってその告白は青天の霹靂。旧友の名前をこんなところで聞くなんて思いもよらぬお話だった。

 ので。彼女に対するアダ名という名の弄りが口をついて出ていってしまって。


「えっ、まじ? あんたドグマなの?」


「その呼び名は辞めてくれと何度言ったらわかるんだ!」


 そしてその反応はまさしく彼女のものに相違なく。


「たはーっ! 怒られた!」


「反省しろ!」


 とば、このような関係性の私たちなのであった。


「渾名はどんなのがいい? ヒトグマ?」


「いい加減にしろっ!」


「じゃあリモリモね」


「別に渾名などなしにヒトリモでいいだろう!」


「嫌だった? じゃあヒトヒトとか」


「だからなあ! ヒトリモでいいと言っているんだ!」


「……わかったよ、ヒトリモリモリ」


「やめろッッ!!!!」



 というわけで、ヒトリモちゃんの実力を測っていきたいと思います。


「ほらヒトリモ、見せてみなさい! あなたの実力を!」


「はぁ、仕方ないな……」


 ヒトリモたそが外套を脱ぎ捨てる。

 そこには、一糸まとわぬ艶姿が……とはならなかった。ゲームだし。


「邪念を感じる。だから嫌なんだ、お前の相手は……」


「知覚過敏では」


「いいから黙ってろ」


 外套を脱ぎ捨てたヒトリモちゃその装備は、はっきり言ってよく分からん感じだった。まあ、むっかしから中二病の気が抜けてないヒトリモたんのことだし、自作かなんかでしょう。

 まず両腰の横辺りに一枚ずつ、縦になった円盤が付いている。円盤には何本かの取っ手がついていて、顕微鏡のレボルバーみたいな見た目になっている。

 腰の右には取手が四つの円盤。直径は20センチと少しくらいかな。鉄製らしく独特の光沢があって結構硬さもある。

 左には30センチ。取手は五つ。こっちも鈍色をしているので鉄製かと思ったけれど、後に聞くところによると木製でメッキを塗布していただけだったらしい。

 そしてよく目立つ、膝上辺りににホルスターで固定してある拳銃……にしてはちょっと砲身が太い感じの銃。某空飛ぶ海賊が飛行石を追う少年に渡したかの銃をかっこよく小さくしたみたいなの。が、両足に一本ずつ。

 そして他の装備は、いくつかあって選べる初期装備のうち、Tシャツとジーンズパンツ。Tシャツはわざわざ黒染めしてあり、さらに金糸で龍が刺繍されている。うっ、寒気が。


「どうだ、私の装備は! 自作だ!」


 とまあ、すばらしくご機嫌なようす。


「すごいね!」


 私の適当な相槌にもにこりにこりと嬉しそうだ。


「だろうとも! 特にこの銃は大変だった!」


 それにしても、この美少女がかの(・・)旧友とは。……とても思えない話だ。

 身長(タッパ)は私より少し高いくらいだったのに、今は頭一つ分も下になってしまっているし。


「へー。どう大変だったのかなー」


 気になり始めると、なんだか返事もなおざりになってしまう。

 現実とは唯一変わらないつやつや艶やかな黒髪の、ボーイッシュなショートボブだった髪型も見違えて、編み込みのハーフアップと化している。


「聞いてくれるか! この銃はだな、パーツを全部削り出しで作ったんだ!」


 ドヤを含んだにこにこ笑顔の顔つきは、現実の面影はなくもないけれどもあどけない美少女然としている。

 ……あの旧友にあどけないなんて使う時が来るとは思わなかったよ。


「削り出し? ……なんで?」


 なんたってこの異聞(ことぎき)くまき、もともとヤンキーだと思われるような存在だったので。

 まあヤンキーではないのだけれど。まあ見目やら態度やら口調やら、そういう見方をされやすい子だったのだ。


「細工スキルのレベルが足りなかった! 素材のレベルが高すぎたとも言うがな。やけにランクの高い骨素材があったもんで、思わず買ってしまったのさ」


 と、またも回想を繰り広げていた中聞き捨てならない単語が。

 高ランク骨といえば私、というのはギルドで常識らしい。センカさんが言ってた。


「それと削り出しに何の関係性が?」

「ん? あぁ、アラシェは生産やってないんだったか。……スキルレベルの全く関係ない加工法なんだよ、削り出しは。時間はかかるがな」

「ほー、なるほど。ところで、これいる? 最上位の狼骨」


 といって美犬っころの骨を取り出し見せびらかす。

 ギルドには卸したが、市場価値と数を鑑みられて出回る数はまだまだ絞ってあるはずの品。


「な、なんだと……! これは……!」


 ヒトリモの顔が驚愕と憧憬となにやらとそして欲目の入り交じった色に染る。

 私としてはその顔を見られて気分が良いものでよいもので、さらにとばかりに先に話題に上がった骨の出処も私だと教えてさしあげる。


「ちなみに言うと、ヒトリモの買った高ランク骨も私が卸したやつ」


 どやぁ。

 ヒトリモきゅんは、地面に膝をついて──


「ナマ言ってすんませんでした!!!」


 キレイな土下座を繰り広げた。

 ヒトリモのそういうノリいいところ、好き。



 気分よく武勇伝を披露していたところ、聞き上手でおだて上手のヒトリモに美犬っころの骨を数本かっさらわれた。

 あまり調子には乗るものじゃないね。


 ……脱線しすぎた。

 ヒトリモの実力が見たいんだったよ。


「という訳で、よろしく」

「了解した」



 ヒトリモはふともも・ホルスターから拳銃を一丁抜き取って構える。狙いは子犬っころ。

 ヒトリモは銃を両手で構え、片目を瞑り、フッと息を吐き。

 そうして私は彼女が美少女であることを思い出して、そして。


 こぶし大の火の弾が犬っころを焼いた。のを、完璧に見逃した。


「アラシェ? ちゃんと見ていたのか?」


 と、ヒトリモに声をかけられるまで、放心していたのである。

 それはそれとして、身長差のせいか上目遣いの美少女に『私のことだけ見ててね♡』と言われる破壊力よ。美少女が可愛いことしちゃったらもう、それは兵器。


 気を抜くと意思表示をしかねないかよわい顔面に力を入れつつ継続の旨を伝えると、ヒトリモも第二射の姿勢へと移っていった。

 右の円盤を四半分回転させて、そののち弾倉らしき部位に魔力を込め。


 次もかわいい顔で狙いを定めるのかと思ったら特にそんなことはなかったけれど。


 ヒトリモが大雑把な狙いで引鉄を引くと、ビームが出た。さらにもう一度引くともう一本。

 しばらくガチャガチャ連射して、目標物だった別個体の犬っころは穴だらけになって掻き消えた。

 赤っぽいので先程と同じく火属性だろうけれど、やはり右の円盤をぐるっと回したのが出てくる弾丸の切り替えなんだろうか。


 ヒトリモはまた右の円盤を回転させ、これは空撃ちになるが、と呟いてから引鉄を引く。

 するとヒトリモの前方で空間が爆裂した。

 対至近距離の切り返し(バースト)手段的な感じ?


 髪をなびかせ振り返るヒトリモは美少女なのにかっこいいね。


 そして次、第四射は火炎放射だった。特に言うことはない。

 確か先程見た時は右の円盤についていた突起はよっつ。これで弾丸の切り替えは終わりのはずだけれど。


 と、いったところでネタが尽きたのか、製作者による解説が始まった。


「この通りだ。右の円盤では射撃型が切り替わる」


「おぉ、凄いじゃんヒトリモ! で、左は?」


「……まだ完成していない。属性を変えられるようにするつもりだが、こっちはこっちで魔法のスキルレベルが足りない」


 と、悔しそうな顔。このアラシェが力になってあげましょうではないか。


「ふむ、なるほどね。ヒトリモの目下の課題はレベル上げ、っと。ちょっと乱獲してく?」


「手伝ってくれるか、ありがたい」


「じゃあもうちょっと森の奥まで行こうか!」


 奥も奥のゴブリンライダー辺りまでにね!



 途中でギブと言ったきり倒れて起きてこなくなったヒトリモを背負って、カイハージ街に帰ってきた。


 門番の二人に手短に挨拶してから門をくぐる。こういうところから信用は産まれるってどこかで聞いたことあるので。愛想良くいこう。


 うむむ。この眠りヒトリモを置く場所に悩む。……ギルドに行くべきか、マイホームに帰るべきか。


 ま、かわいいかわいいヒトリモちゃんをギルドにほっぽるなんて手は無いのですが。

 マイホームで匿ってあげましょう。私のマイホームというよりセンカさんのマイホームだけど、まあね。



 人っ子一人担いで歩き、衆目を集める……なんてこともなく。

 ここは冒険者の街カイハージ。ぶっ倒れた人間を担いで歩いていても余程怪しくなければ気にもされない。


 しばらく歩き、曲がり、そして到着。


「センカさん、ただいまー!」


 ……無音。

 まあそうだよね。まだ昼前だしセンカさんも働いてる頃だ。


 とりあえずリビングのソファーにヒトリモをぶん投げて適当に見繕った布を布団代わりにかけておく。


 ダイニングテーブルについて呼吸をしていると、腹の虫がスタンバイを始めた気がしてきて。

 昼ごはんを適当に作ることにする。

 アイテムボックスのインベントリから適当に見繕い。



 食パンを焼き、卵を目玉焼き、お好みで胡椒をふりかけて。お手軽な昼食だ。

 ……ヒトリモはまだ寝てるみたい。


 ひとりで食べちゃおう。

 もぐりこもぐりこ。ごちそうさま。お粗末さま。


 冷めたら不味いのでヒトリモの分は皿ごとアイテムボックスに仕舞ってしまって、でヒトリモの様子を見に行くと。


 起きていた。半寝だけれども。

 横たえて寝かしておいたのが、ソファに対して順な姿勢になって眠そうにしていた。


「ヒトリモ、起きた?」


 と聞けば、うんにゃらかんにゃら言っている。


「洗面所はそこの扉出て右に曲がって四つめの扉ね」


 と教えてやると、眠気眼を白黒させていた。美少女は何やっても映えるねえ。




 まあ、会話している相手が信頼できると言えど。

 見知らぬだだっ広い部屋の馬鹿デカいソファに寝かされて、部屋もいっぱいあるよ(意訳)と言われてしまえばよく分からなくなってしまうのは必定。

 いままでは眠気が勝っていて、そういう異常にまで思考が行かなかったんでしょう。


 で、しばらく待つこと二分弱。ヒトリモは覚醒した。



「おはようヒトリモ。ちょっと私のホームに連れ込ませてもらった」


「なるほど。……ところで、腹が減ったのだが」


「そういうと思って作ってあるよ」


 ダイニングテーブルに先程しまったばかりの目玉焼きパンを置いて、振り返ると。



「アラシェさま? そこのお方は何様ですか……?」


 センカさんも帰ってきていた。ジト目で。

 ヒトリモは怪しい人ではないのです。私のお友達です。許して。


「お、おかえり。彼女はヒトリモ、渡界人(とかいじん)の子だよ」


「ただいま帰りました! ……ところでそのご飯は食べてもいいものですか?」


 センカさんが指さすのは机の上のパン。


「あー、それは──


 と、説明しようとしたところ、ヒトリモがお得意のドヤ顔でドヤりつつ言った。


「それはアラシェがわたしの為に作ってくれたものだ」


 なんて喧嘩腰。


「なっ、なんです!? 新参風情がアラシェさまのご飯をいただこうとでも!?」


 そしたら売り言葉に買い言葉。センカさんにも(何故か)譲れぬものがあるようで。


「なに、わたしはアラシェと狩りに行ったことが──


 というヒトリモの反論を遮ってまた別の声が。


「そうなのでしたら、一度手合わせをしたわたくしにも食べる権利があるのでは?」


 金縦ロ嬢の子だ。そういえば名前を聞いてない。



 酷いことになった。

 親友枠vs正妻面vs面白がって参加しただけの一般人、三方睨み合いの絵面に。

 厄介事は御免こうむる。隣接のキッチンへ避難。


「アラシェさま! アラシェさま!?」


 フランクフルトを焼きつつ、センカさんの追及を避け。

 パンに切り込みを入れ、ヒトリモの反駁を聞き流し。

 トマトとレタスと先のフランクフルトを挟みマスタードとケチャップをかけながら、金縦ロ嬢の煽り文句を半目で牽制して。



「はいはい、お昼ご飯三人前お待ちどおさま」


 ふふん。私はできる女なので諍いから目を逸らしながらも調理ができる。

 ついでに冷えきった目玉焼きパンを食べる。


 三方(さんぼう)一食得(いちしょくとく)の結末を迎え、落ち着きを取り戻した食卓。


 そんな中、センカさんが思い出したかのように話し始めた。


「そういえば、アラシェさまにお話があるのです」


「んむ。どうしたかな?」


 センカさんから頼み事なんて珍しい。

 今までで一度もなかった……いや、そういえば。出会ってから大して時間たってないや。あはは。


「私の部屋とアラシェさまの私室を共同にして欲しいのです!」


 ……。

 どういうこと?


「うーん、もう少し詳しく話して貰えないかな?」

「分かりました──」



 まとめると、この家はクランの拠点、すなわちクランホームらしい。


 クランにはクランホームがあるべきらしいんだ。

 けれど、もともと空いてたホーム予定地はレフジーズのクランが持ってっちゃったみたいで。


 さてどうするか。となった時に白羽の矢が立ったのがセンカさんの持ち家、つまりここらしい。


 クランホーム経営の補助金やら何やらは普通通り支払って貰えるらしいし、あとは本人の気持ちひとつって所で、センカさんがある条件を提示した、と。


 それが、私とセンカさんで一室を共有すること。


 ……何故そこで私を引き合いに出すのか。


 まあ、別に、センカさんと共有するのに、そんなに悪い気は、うん。しない。吝かじゃない。

 いいんじゃないかな。


「まあ、そのくらいだったら特に問題は無いかな」

「本当ですか!? でしたら早速ギルドに行きましょう!」

「まあまあ、ご飯食べたらね」


 みんながホットドッグを食べ終わり、特にすることもないらしいヒトリモと金縦ロ嬢を連れてギルドへと向かう。




 ギルドに到着。センカさんが裏で制服に着替えてから戻ってきた(可愛い)


 ギルマスのドター氏は談合室で仮眠をとっていたらしく、少しばかり待機することに。

 センカさんが起こしに行ってくれるらしい。

 といったところで、金縦ロ嬢が声を発した。


「そういえば、わたくし自己紹介をしていませんでしたわね?」


 あ、忘れてた。

 金髪縦ロールお嬢様呼びがしっくり来すぎて。


「わたくしはライ。ライ=キスタドルと申します」

「私はアラシェ。よろしくね」


 ぐっ、と握手をする。

 ……にぎにぎするな。はやくはなせー。握り込むな。待ってだんだん力が強うなってきた。

 くそう、こっちからも握ってやる。ぐぐぐぐぐ。


「いたたた……。このわたくしの握手(・・)に対抗してくるお方は初めてですわ」


「ごめんヒトリモ、回復ポーションちょうだい」


 街中で部位破壊状態に陥るとは思わなんだ。型破りにも程度というものがあるでしょう?


 こちらの手にはダメージが入っているというのに、あちら側は手をヒラヒラさせる余裕すらあるようなのがまた気に食わない。


 けれど、筋力と耐久力に優れるステータスなのだと改めて実感することになった。



 抗議の目で睨めつけていたところ、ライ金縦ロ嬢(敬称)はバツが悪そうに目を逸らし、ついでにヒトリモに話しかけ話題も逸らした。


「ところでそちらのフードの方、一応同じクランでしたわね? お名前は?」


「私か? ……私か。私はヒトリモ。これと言って嫌いなものは無いが、握手は遠慮させてもらう」


「あら、そう。よろしくお願いしますわ、ヒトリモさん」


「よろしく頼む」


 とまあ、こんな感じで一歩引いたやりとり。初対面だし仕方ないか。これから仲良くなろうね。



 と、なんとも微妙な雰囲気は普段よりテンション二割増なセンカさんの声で掻き消えた。


「アラシェさま! ギルマスが起きましたよ。早速済ませてしまいましょう、契約を!」


「わかった、今行くよ」



 とりあえず、言われた通りセンカさんについていき、この前も来た談合室へと通された。

 ちなみにヒトリモとライ金縦ロ嬢はついてこなかった。


 ギルマスの半目で書類を眺めるのを眺め、待機。

 ……私は待機していたのだけれど。


「ギルマス! こことここはこうです! それからそこはこのように。あ、ここも少し変えておきましょう。ええ、これはこのままでも良いです」


 センカさんが乗り気も乗り気、書類の内容をどんどん改変していく。

 存在している全ての文章に手を入れたのではないか、みたいな勢いである。


「はい、完了です。ギルマスはここに判をくださいね!」


 そうして、ギルマスは開放されると同時に机に突っ伏して、寝ていた。


 センカさんはすごく嬉しそうに契約書を見せつけてくる。


「アラシェさま、契約完了です!」


 そして部屋を出るときに、


「……あ、ギルマスはあと寝てていいですよ。業務お疲れ様でした」


 なんて言っていたけれど多分もう聞いてないよ。寝てるから。ギルマス。


「センカさんもお疲れ様。それで……今日はこれからどうする?」


「とりあえず、今日のうちにライさんとヒトリモさんの家具一式を揃えてしまいたいです」


「わかった。予算はいくらまでになる?」


「あ、気にしなくていいですよ。全部ギルマスにツケられるよう契約書を作りましたから!」


 ……ちょっと、というか結構。かなり。この上なく、申し訳ない気持ちになった。


「そ、そうなんだ。それじゃあ、二人と合流しようか」


 なんとなくウザったそうなプレイヤーに絡まれていたヒトリモとライ金縦ロ嬢を救出し、着替えて出てきたセンカさんとギルドを出る。




 所変わって専門店街へ。

 巨大ロータリーを中心に東西南北へ大通りが走る形状のカイハージ街、その南南西──南西ブロックの南大通り沿い区画にある。


「さて、センカさん。個人の部屋は何が足りてない?」


 手始めに計画を立てようと、センカさんに聞いてみる。


「華ですね」


 すると、ちょっとした冗句が返ってきて。センカさんも冗談言うんだね。

 とりあえず頭のてっぺんをわしわししておく。わしわし。


「あとは?」


「クローゼットとカーペットしかないんですよ。ベッドやら机やらなんかは置いてないです」


「ふむ。それじゃあ色々必要になるかな」


 専門店街、なんて言うと想像が付きにくいかもしれないけれど。

 まあ、家具から食器、武器防具。それに高価な嗜好品みたいな専門的知識の要る売り物は一括してここで取引されている。


 いろいろ入用なのだし、ここに来て粗方揃えてしまおうという魂胆だ。


 そういうわけで、専門街にヒトリモとライ金縦ロ嬢を解き放ったのだけれど。



 うん。性格が出るね。

 ヒトリモは部屋をイカスミパスタにしたいのか黒い家具しか買わないし、ライ金縦ロ嬢はヤケに品の良い物を買う。


 あ、ヒトリモが黒以外のを買った。緑の布団一式だ。イカスミパスタに乗ってるバジルにしか見えなくなってきた。

 ライ金縦ロ嬢は相変わらず良い物を買う。目がいい? 値段が高い訳でもないのに出来が良い物品をごりごり集めていく。


 そんな中、私は家具店の前で足を止めていた。


「センカさん、ほら、新しいベッド買っていい?」


「ダメです。私もアラシェさまもあまり大柄ではないのでいいのです。無駄な出費はいざと言う時枷になりますよ」


 ……反論したい。お金を出すのはギルマスだろう、と。

 だけれども。センカさんの目は有無を言わさぬときの目。


 抗議の意を込めて頬を膨らますと、センカさんが両手でそっと頬袋を潰してきて。

 ぷひゅっと間抜けな音がして、そうして笑いあって。この話はおしまいだ。おわってしまった。



 酷い契約のせいでギルマスの財布から引き出され続けるお金さん。せめて、まともな用途に遣われるようスキル・千里眼で二人を監視している。


 ライ金縦ロ嬢が人目を盗んで筋トレ用具を買った。まあ、これは生活用品扱いで大丈夫だろう。

 さらにヒトリモがデカいスライムのぬいぐるみを買った。うーん。ギリギリセーフ?


 ヒトリモが武具屋に行こうとしたのは流石に阻止したし、ライ金縦ロ嬢が買おうとして値段を見て躊躇した調度品は買っても大丈夫だと唆しておいた。



 とまあ、色々あったけれど。みな自らの欲しいものを(ほしいまま)にしたわけですよ。ギルマスのお金で。

 ギルマスのお財布さんでね。


 頭が痛くなってくる。

 もし拠点をカイハージ街の外に移すなら、それはギルドにしっかり貢献してからになるだろう。




 専門店街から北へ向かい|巨大ロータリー(冒険者ギルド)に出て、そこから北東・東通り沿いブロック区画の|西通り沿いブロック(隣の区画)との境界辺りにあるセンカさん家まで歩く。

 家に着いたら玄関で靴を脱ぎ、揃えてから入る。


 ライ金縦ロ嬢が靴、というかブーツ型の防具を脱ぐのに手こずりながら言った。


「そういえば、センカ嬢。こちらの地方では家の中で靴を脱ぐのが主流ですの?」


「いえ、そうでもないですよ。うちのパパ……いえ、お父さんがこの方式を好きなんです。ここには無いですが、実家に行けば畳という床もありますよ」


 へぇ。まあ別に割とどうでもいいことなのだけれど。

 ……なんかフラグがたった気がする。いつかはセンカさんの実家にもお邪魔することになるのかなぁ。


 さて。ヒトリモとライ金縦ロ嬢は家具の配置に行ったので、夕食の準備。


 今日はセンカさんと一緒に作っていく。

 食材は任せて欲しいと言われ、任せてみれば。センカさんのアイテムボックスから、まあ高級食材が出るわ出るわ。


 言うにも、独り身(ヒトリモじゃなくてね?)の頃は食にしかお金を使いようがなかったんだって。

 それに彼女は量を食べる人ではないものだから、いつからか高級食材の余りがたまりたまって手に負えない量になってしまったとか。


 まあ、そんな量を永年保管しておけるアイテムボックスという機構に感謝しておこう。なんて、そういう話だ。


 合作した豪華な豪華な晩御飯を食べて、そうしたら、揉めた。各々の主張が混在して揉みくちゃだ。


 ヒトリモが声高く宣言して、


「私は一番風呂がいいし、一番風呂以外ありえない」


 ライ金縦ロ嬢が澄ました顔で紅茶を飲みつつ、


「わたくしは昨日、湯浴みを済ませておりますの」


 そしてセンカさんは|一人用の椅子の半分(私の隣)を占拠しつつ、至近距離で。


「アラシェさま一緒に入りましょう!」



 ……うーん、混沌。

 とりあえず流儀的にライ金縦ロ嬢は毎日入ってもらうことにして。一番風呂がいいヒトリモはさっさとして欲しい。

 で、センカさんなんだけど。


「いや、私は最後に一人で入るよ。終わったら教えて」


 逃げるが勝ちとはよく言ったものだ。君子危うきに近寄らず、なのだよ。ちょっと違うか。



 ライ金縦ロ嬢のダンベルを借りて筋トレをば。

 なんでか私のステータス、全部平均的に伸びるんだよね。押し並べてっていうか、出る杭すらないっていうか。バランスタイプっていうか。

 他の人もこうだとするなら、じゃあどうやって差別化するのかなーって考えた時に、戦闘行為以外の修練で差がつくのではないかな! と思いまして。やっているわけですよ、筋トレを。


 とりあえず呼ばれるまで筋トレをした。

 筋力値は変わっていなかった。

 ま、まあね。まだ始めたばっかだし。



 一風呂浴びてこの前買った寝巻きに袖を通す。

 そしたらどうしようか。とりあえず自室に戻る。まあセンカさんも居るんだけど。


 大してすることも無く、そのまま就寝と相成った。


 部屋を暗くして、寝転がって、そしたらセンカさんがおもむろに言った。


「アラシェさま。……アラシェさまはどうして──男装なさっているのですか?」




 ゔぇ!?



【用語解説】


異聞(ことぎき) くまき

 本名。現実では親しみやすいヤンキー委員長的な存在だった。


〇「えっ、まじ? あんたドグマなの?」

 主人公、アラシェは素が出た。


〇ドグマ

 異聞 くまきの渾名。の一種。

 最初についた渾名であるコトクマから派生を繰り返し、コトグマ、コト、コグマ、コマ、コドク、ドグマなど多種多様になった。


〇ヒトリモリモリ

 一人盛り盛り……ではない。


〇知覚過敏

 本来は歯周辺に関する症名。

 ここでは『気にしすぎ』などの意を持つ。


〇うっ、寒気が。

 何らかの要因で寒気がした。


〇ちょっと乱獲

 辞めたい。と申し出ないと終わらない。

 謙虚さは捨てろ。良識は棚に上げろ。いつだって、囚われの姫君を救うのは、姫君自身の覚悟なのだから──。


〇昼飯

 カイハージ街ではあまり米が出回っておらず、基本はパンや芋となる。


〇親友枠vs正妻面vs面白がって参加しただけの一般人

 親友枠(ヒトリモ)

 正妻面(センカ)

 面白がって(金髪縦)参加しただ(ロール)けの一般人(お嬢様)


〇談合室で仮眠

 サボなんとか。


〇ライ=キスタドル

 キスタドル流斧術の今代継承者にしてキスタドル家当主。

 なお、キスタドル家は魔力の発露が弱く、爵位剥奪の憂き目を見ているため戸籍上は一般庶民。

 名前の由来は、コンキ(今季)スタドールから連想して来季スタドールより。

ややチョロ目。


握手(・・)

 いたい。

 筋力ステータスだけで見れば、アラシェとライは同等程度。


〇契約を!

 このチョロイン、契約を結婚か何かだと思っているのでは。


〇半目で書類を眺め

 寝起き。


〇ライ金縦ロ嬢(敬称)

 正式にいえば、ライ=キスタドル金髪縦ロールお嬢様。この場合、金縦ロ嬢と金髪縦ロールお嬢様が敬称に値する。


〇私は一番風呂がいい。

 このヒトリモという女、学生時代から一番風呂ガチ勢である。


〇わたくしは昨日、湯浴みを済ませておりますの。

 これは貴族的な隔日風呂習慣……という訳ではなく、没落後の貧乏生活の癖。

 このライ=キスタドルという女、貴族の目と貧民の習慣を併せ持つ。

 貴族と貧民が両方そなわり最強に見える。


〇私のステータス

 主人公、アラシェは説明を読み飛ばし気味である。

 すなわち、(MMORPGでありがちな)ステータスポイントの存在を知らない。


〇筋トレをした。

 あまり意味は無い。


〇男装なさっている

 チョロイン、センカは初めて共寝した日に気づいた。

 もっと言うならその日の夜に。

 さらに言えばアラシェが寝た後に気づいた。

 どうしてかは言うまい。

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