第五話:アラシェ、就職します!
前回のあらすじ
美犬っころを乱獲してレベリング!
二周目は少し苦戦したけれど、コツを掴んだら周回だ!
第五話:アラシェ、就職します!
疲いだ。
とても、つかれた。
ゲーム内時間にして八日ほどの乱獲はここに終わりを迎えた。
毎回ひとつ消費した王冠も、ここまで続けるうちにほとんど枯渇してしまった。
それに、そろそろ貰える経験値が0に近くなったのだ。レベルアップに必要な経験値と比べて。相対的に。
しばらく周回するうちに最適化は進んでいって、処理方法も確立された。
仔犬サイズは、左団扇でダウンをとったあと追い撃ちと連撃でシメる。これはかわらず。
その次の祠オオカミは、母矢と矢降雨でダウンをとって『スキル・無心の殺戮』の『一気呵成』を使ってから倒す。敵を倒したときに自身の攻撃力を少し上げるという平凡な効果に似合わぬ刺々しい名前のスキルだけど、これで自己強化まですませておいて、そして。
美犬っころ成体戦が大変なのだ。
まあ、そんな中で編み出した試行錯誤の至りが、
『不可矢 +《炸裂射撃》+《拡散射》』からの
『重矢 + 《纏火》 + 《矢降雨》』
の、畳み掛けなのである。
幾度もの観察によって、美犬っころは必ず背後から襲ってくることは分かった。
けれど、露骨な迎撃を背後に置いておくと普通に避けられてしまう。
そこで、不可矢だ。不可矢のインビジブル感に美犬っころもびっくりだ。
そうしてそこへさらに重矢をメインに据えた重火撃を加えることで、美犬っころはたいてい大ダウンをする。
そうしたら、もうこっちのものだ。
あとはもう流れに任せて気の赴くままなすがまま、自然の摂理にしたがって撃ちまくれば勝てました。
最後の方は持ってるだけで使ったことのないスキルを試し打ちとかしたりしなかったりしていた。
と、このようにして。私は八日間もの長期間この森にこもっていたのである。
街への帰り道。
まあ奥地の奥地なわけで一時間くらいかかる。
暇つぶしに何かないかとメニューをいじくり倒していると、なにかすごく久しぶりな気がするアナウンスさんが。
〔メールボックスに新着メールが一件あります〕
とだけ言って帰って行った。
まあ実際メールボックスにメールが入っているので読んでみますけれど。
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業務提携の協力願い
プレイヤー:アラシェ様へ
送付:運営一同
NPCへのご協力のおねがい
正式サービス開始からまもなく一週間が過ぎようとしております今日この頃、時候の挨拶が弱い気がしますので金一封を添付しております。ご了承ください。
さて、本題に入りましょう。
アラシェ様にNPCとして振舞っていただきたいという相談になります。
──詳しく説明をいたします。
そもそも計画として、プレイヤーの流入によるNPC冒険者の相対的デフレを避けるための施策がございました。
NPC向けクランを構築しプレイヤーとNPC冒険者の間に緩い対立を作ることで活性化を狙ったものです。
そこで、その頭領として高レベルのNPCを送り込む手筈となっておりました。
しかしアラシェさまは件の高レベルNPCよりも高いレベルになっていらっしゃる上に、NPC向けの正規手順でギルドカードを受け取ってしまわれたため、カイハージ街ギルド側からもNPCと勘違いされております状況に、部内で『なんかもうアレに業務委託すればよくね?』と言った雰囲気が蔓延しているのであります。
業務条件、事項は以下の通り──
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と。下の方につらつらと事項が書かれていたがまあたいしたことはなかった。
勘案するに、悪い話ではない。
それにすごく楽しそうだ。公式ロールプレイなんて夢があるよね。
というわけでこの話を受けることに。
〔承諾を確認。これよりプレイヤー:アラシェの偽装を開始します〕
暇つぶしがてら現状把握に努める。
そもそもNPCへの偽装とはなんなのか、とかね。
そもそもこのゲーム、そこそこのリアリティを標榜しているので頭の上に名前が浮かんでたり壁に向かって走り続けられたりはしないのだ。そもそもプレイヤーとNPCの区別すらつきにくいはずなのだが。
聞くところ、プレイヤーとNPCの間に実際大きな違いはないとのこと。
NPCはノンプレイヤーキャラクターと言うだけあってAIが載っているのはその通りだけれど、その人口知能だって今や権利を獲得するまでには発展しているのだ。まあ、人口知能に権利が認められてない時代なんて私が生まれるより前だからあんまり分からないんだけどね。
で、NPCへの偽装ってなにするのって話。これは内部的な制限を取っ払うだけの処理らしく、私にはあまり関係ないとかなんとか。
独り言ぶつぶつ呟くのは人が増えてくる森の入口付近までにして、カイハージ街の門へたどりついたのは昼前だった。
さて。門番さん、一週間ちょいぶりですね。
「アラシェ、ただいま戻りました」
と挨拶すれば、ちゃんと返答してくれる。
ま、少し前にちょっと話をしたくらいの仲だけれど。
「おう。おかえりさん。逝ったかと思ったよ」
「と、とんでもない! 待ってましたよ、アラシェさん! ……おいモーバン、なんてこと言うんだお前」
そんな門番はモーバンさんとシュエイさん。
昼の東門の警備はいっつもこの二人だ。
東側は森にさえ入らなければ街道もない安全な土地が広がっているだけ。門番の二人もいつもだべってて親しみやすい感じもある。
農村と地方都市の中間みたいな街、カイハージ街。
門番の二人が守る門(言うほど門じゃない。壁の切れ目とかそういうレベル)を抜けると大通り(言うほど大じゃない。馬車二台がすれ違えるレベル)に出る。
この道をまっすぐ進んで、街の四方にある門から続く大通りが合流する地点。街のど真ん中は巨大ロータリーみたいになっている。
ただしロータリーの中心には冒険者ギルドが。その周囲には出店がズラリと並んでいる。
さて、やっと帰ってきたよ。冒険者ギルド。
扉を開けると、カランコロンと鈴がなる。
私が見ていない八日間も、特には何もなかったようで。
何も代わり映えしない、いつものギルドだ。
まあ一回しか来たことないんだけどね。
こちらを向いた理不尽レフジーズの面々がニィッと笑うので手で挨拶しておいた。
あれ、センカさんが居ないね。どこいった──ゴフっ!?
横から突撃してきた影が、私の脇腹へ突き刺さってきた。
「どこに行っていたんですかアラシェさま!」
横からタックル&ホールドしてきた影は、センカさんだった。
お腹の辺りにぐりぐりと顔を押し付けられている。
ちょっとちょっと、お腹のにおいを嗅ぐのはやめたまえよ。
「……変なにおいはしませんね。むしろいい匂い。……私を置いて何処か別の人のところに泊まりにでも行ってたんですか!?」
私が根無し草で持ち家もないだろうに、のわりに狩り帰りとは考えられない程臭わないので、他の女を誑かして(私はイケメンなので)そのひとの家に泊まりこんでいた。という理論らしい。
確かに家は持ってないけどね。それは言いがかりってものですよ。
「いや、そんなことは無いよ。ちょっと森まで狩りに行っていただけだから、ね」
「そんな事言って実は他の女の家で泊まってたりしてるんじゃないですか?」
何でこんなに彼女面なのこの子……。
私だからいいものの、悪い男に引っ掛けられたらどうするの。おねいさん心配だぞ!
……あ、それで理不尽レフジーズがカバーに入ってるわけか? あの脅し掛けにも納得。
「本当だってば。ほらほら、証拠を見せてあげよう。とりあえず買取カウンターまで行かせて」
というわけで、美犬っころの素材を売りに出しましょうか。
一人抜けたせいか滞っている受付を後目に(その抜けた一人を引き摺りながら)買取カウンターまで歩いていく。
骨は数えるのも億劫なほどドロップしたので適当に売り捌く。
毎度迷惑かけるけれど、鑑定員の人お願いしますね。
まあ紆余曲折あったが(多分)無事に売れた。
一方のセンカさんは。
「待ってください。あれだけの価値の素材がこうも大量に搬入されてしまえば市場価値の暴落は必至っ! しかし救いは骨であるゆえの保存のしやすさ……ふむこれは、神……いえ、アラシェさまが我々に儲けどきとお与えになったボーナスタイムですねっ!? 稼がなければ! そしてお給料がアップしたらアラシェさまを養ってあげますからね!」
職員モードと一般乙女モードが混ざって大変なことに。
職員は皆てんやわんやだ。売却処理は無事に終わっても素材の処理が大変らしい。
と、そこに救いの手が。
受付奥の扉から出てきたのは、おじさんだった。
甲子園の入場の時のプレート(でかでかと『ギルマス』って書いてある)みたいなのを持って──!
場は収められた。さすがギルマス、職員のあしらい方を熟知なさっている。
ところで、私といえばギルマス、ドターさんに連れられ談合室に来ているのだった。
「話というのは他でもない、アラシェさんへの頼み事であります。こちらに目を通してくだされば」
ふむ。
渡界人の流入に対抗して我々原住の者で対抗勢力を作り上げよう、ということらしい。
うん。さっきアナウンスさんに聞いた以上の情報はない。
「受けていただけますかな?」
「問題ありません」
「おお、ありがとうございます。たすかります。いやはや、渡界人の方々は成長ペースがたいそう早くてですね、今はまだいいとしましても、来年頃になれば地元冒険者の食い扶持が危ういかと思いましてねぇ」
ははーん。話長いタイプだな?
「ああ、ところでアラシェさん。住まいは決まっていますかな? ……ならば、ギルド直営店に──「待ってください!」
この声は、センカさん?
談合室の扉を叩き開けて突っ込んできたセンカさんだ。
「アラシェさまは私の家に来てもらいます!」
と、発言爆弾を投下した。
「おぉ、そうかそうか。それは名案ですな」
しかも私の意見を聞かぬままつつがなく進行していく会議!
「では決定ですね! アラシェさま、今日は帰りましょう! 早速!」
「片付け次第帰ってよいですぞ。わしはセンカくんの出勤状況に細工をしてくるので」
あれよあれよの間に決まってしまった半強制同棲。
にっこり笑顔のセンカさんが秒速で私服へと着替えて戻ってきて、腕を引かれ談合室を後にする。
ちょ、ちょっとまった。
腕は組まないで!
ほら人もみんな見てるからさ!
レフジーズも生暖かい目で見てるから〜!
豪邸だ。
流されるままギルドからセンカさん家まで、腕を組んだままの凱旋だ。
カイハージ街東北東ブロック、大通り側にある一軒家。一人暮らし用にしてはやや、いやかなり大きめの家だった。
「ようこそアラシェさま。ここが私とアラシェさまの拠点になるのですよ!」
かわらずにこやかな笑顔で家へあげてくれるセンカさん。
「うん。これからよろしくね」
抵抗は諦めた。
だってセンカさん、ちょっと度の過ぎた恋する乙女なのを除けばいい子なんだもん。
「少し遅いですがお昼ご飯にしましょう。ちょっと待っててくださいね、アラシェさま!」
上機嫌でキッチンに立つセンカさん。
吹っ切れてみれば役得感すらある。黙っていなくともセンカさんは美人なのだ。
お昼ご飯をいただいて、で、思い出した。
「あの、お風呂を借りてもいいかな?」
一応八日間出ずっぱりの狩り帰りであったことを。
「勿論よいです。というか、ここはアラシェさまの家でもあるんですから遠慮なさらないでください!」
いや、そうは言われてもねぇ。
と思ったのが態度に出ていたのか、センカさんがたたみかけてくる。
「もう、アラシェさま。そんな人の家に来てそわりそわり、みたいな顔をされましても、今夜はベッドがひとつしかないので寝る時は一緒ですからね! 覚悟しておいてくださいね!」
そ、そんな。
心の準備が終わってないよう。
風呂から上がって、センカさんが用意しておいてくれた服に着替えた。そしたら、またしてもセンカさんがにおいを嗅ぎに来て、「やっぱりいい匂いがしますね、アラシェさま!」なんて言われて。
センカさんはわんこっぽいな、と絆されそうになった。スキル・ウルフ殺し(EX)持ちの私が負けてはいられまい。
そうこうしているうちに、晩御飯の時間となって。そしてまたしても厄介になってしまった。
よし寝よう。となった所でセンカさんが寝間着を貸してくれたのだけど、目の前で着替えさせようとするものだから、断るのが大変だった。
で、着てみたら着てみたで、この服自体センカさんの予備みたいで可愛らしいのなんの。
私はかっこいい系の顔なんだ。似合わない。
と、思ってたんだけど。センカさんは絶賛してくれた。いや、女物が似合う男って、いいのかそれで! いや私は女だけど!
おはようございます。いや、ゲーム内でまともに朝を迎えるのははじめてで。
すっかり寝こけているセンカさんを起こさないように気をつけてベッドから抜け出す。
さて、センカさんを驚かせてあげましょう。
伊達に一人暮らしをしていない。自炊スキル位はあるのだ。勝手に食材使って申し訳ないとは思うけど、まあ後から買い足せば問題はない。でしょう。
もーちょいで完成、ってあたりでセンカさんが起きてきた。眠気まなこが微笑ましい。
「おはよう、センカさん」
「お、おはようございますアラシェさま!」
うむうむ。挨拶は大事。偉いぞセンカさん。
午前中は生活用品の買い物。食料だけじゃなく私は服とか買わにゃならないので。
ベッドを買おうと思ったら、センカさんに渋られた。気持ちは分かるけど。
午後は一緒に出勤と相成りました。
センカさんは通常業務。
私は契約の細かいとこを詰める作業。以前も来た談合室で。
どうも、このギルド中のトップランカーは私と理不尽レフジーズらしいんだけど、私のクランに所属してやって欲しいって話をしたら、対抗してクラン建ててやるぜって理論に飛躍してしまったらしく。
このギルドに元いた冒険者的にも顔なじみのがいいよねって皆そっちに所属してしまったらしいのだ。
クランは少なくとも一人の所属者が必要らしいから、どうしようかと悩んでいたところであった。
……このとき、私はまだ思いもしていなかったのだ。
──「話は聞かせていただきましたわ!」
関係者以外立ち入り禁止の部屋に、関係者以外の声が響くことになろうとは。
【用語解説】
〇ゲーム内時間で八日
現実時間で二日。
〇アレに任せる
主人公、アラシェは寛容である。
……のを見抜いて砕けた口調を用いている。はず。
〇業務
業務条件:連続ログインに必須である箱型VR機の料金全額負担、月払いでの給料支給等々。
業務事項:NPCの育成、NPCプレイヤー間の取り持ち、その他NPCに有益となること。
〇悪い話ではない。
主人公、アラシェはお金に目が眩んだ。
〇モーバンさんとシュエイさん。
門番。名前の由来は門番と守衛。
ちなむと、アラシェに落とされることは無い。
〇変なにおいはしませんね。
いわゆるゲーム補正。
〇むしろいい匂い。
むしろいい匂いがした。
◎理不尽レフジーズによるアラシェ人物評
はじめ:イケメン男。要注意。
ギルドカードを取られる辺り:何も分かってないように見える。演技か? 要注意。
会話してみて:人畜無害な気弱モヤシ男。センカちゃんの尻に敷かれるタイプ。
〇ギルマス、ドターさん
ギルドマスター。名前の由来は"ギルドマスター"の省略される方。
〇話長いタイプ
めどい。
〇私の家に来てもらいます!
理不尽レフジーズが居なかったらどうなっていたのか。このチョロ娘。
〇豪邸だ。
大きい家。
〇まともに朝を迎える
今までは夜通し狩り、もしくは小休憩で越していた。
〇「おはよう、センカさん」
いわゆる顔面宝具。
主人公、アラシェは顔がいい。
〇「話は聞かせていただきましたわ!」
このセリフは多分パツキン縦ロールお嬢様(武装は重斧)とかそういうキャラのものと相場が決まっている。




