第三話:冒険者ギルドを覗く時、冒険者ギルドを覗いているのだ。
前回のあらすじ
美犬っころ、死す。
第三話:冒険者ギルドを覗く時、冒険者ギルドを覗いているのだ。
美犬っころを討伐したのち、街に戻ってきた。……のだけれど、よく考えると街の施設を全く知らないのだ、私は。
というわけで、結局例のカフェに直行することと相成りました。
相も変わらずグラスを磨くカフェの店主の前へ座り、報告する。
「──ってことで、祠は確認した」
たまたま入っただけだったカフェが情報屋みたいな施設だったことは、きっと結構な幸運だし僥倖だ。
ということで『いろいろ案内ありがとね料』代わりに美犬っころの骨を一本、カウンターに置く。五本落ちたうちの一本だから、まあそんなに痛手ではないしね。
店主は何か驚いた顔で言った。
「ほう、ただの噂じゃなかったのか。……で、この骨はなんだ? 新手の嫌がらせか?」
なんだって言われても。美犬っころの骨だけど。
あ、美犬っころの本名なんだっけ。えーっと、確かなんたらウルフだったはず……。
「狼の骨」
「そ、そうなのか」
店主は困惑した顔のまま、骨を手に取ってしげしげと眺めている。
「感謝料だ。受け取ってくれ」
と声をかけたが、店主の渋い顔は直らない。お気に召さなかっただろうか。
「武器ならまだしも素材を貰ってもなぁ……」
とかなんとか言っていた店主がひらめきの顔でこちらを向いた。
「そうだな、兄ちゃんが持ち帰った噂の真相と、俺が受け取るべき感謝料で相殺って事にしよう。こいつは仕舞っていい」
そう言って、骨は突き返された。
「……そうか」
そうなのか。まあ、いいならいいけど。
じゃあ、ついでに今までの狩りの戦利品を整理したいし、何処でできるか教えてもらおうかな。
……実のところ、私のアイテムボックスはもう満杯直前だ。
「そうなら、素材を売れる場所を教えて欲しい。そろそろ埋もれてしまいそうだ」
店主は聞くなり一度裏方へ戻って、地図を手に戻ってきた。
・・・
へー、ここが冒険者ギルドね。
木造平屋建て。役所のエントランスが酒場。賑わいと整然。うーん、独特の雰囲気。
半裸の大男が酒を酌み交わし、少年か少女かも分からない小さなフードが籠満杯の草を売る。
まあ、とりあえず受付に行こう。
入口入って直進すれば、すぐそこだ。
キッチリ制服を着こなした女性が座っている。
カウンターを挟んで向かいにあった椅子に座る。
「い、いらっしゃいませコンニチハ! わわわ私に御用ですか!?」
話しかけられた。が、なにかものすごい挙動不審な受付さん。これが漫画なら、きっと目はぐるぐる巻きだ。
……とにかく、女性に用事がある訳では無いことを分かってもらおう。
「ギルドに御用なんだけれど」
「……ギルド? えっと、どなたですか? 私の名前はセンカですよ」
どうしたんだろう、この子。すごく挙動不審だ。
私の用は冒険者ギルドに対するものです。わかってください。
「だから、冒険者ギルドに用事があるんだけど」
「冒険者、ギルド……? はっ、取り乱しました! 申し訳ない! こほん。こちらは冒険者ギルド受付です」
センカ、というらしい受付の女性は顔を赤らめたまま咳払いをしたのち、頬を赤らめたまま平常運転の受付に戻った。
こうも具体的な反応を見せつけられると、なんというかこちらも気恥しいものだ。
……まあその、すごく可愛い娘なのでこちらとしても仲良くなりたくはなくもないなあというところではあるけれどそれは今すべきことではないだろうし結構衆目集めてるような気もしてきたので今は落ち着いてお話がしたいなあというこころもちであります。
自然と上がる口角を押え付けるのは大変です。
まあ、さっさと用件を済ませてしまって、これからの事はそれから考えよう。
「敵のドロップ品を売りに来たのだけれど、ここで合ってるかな?」
「えぇ。ここで売却していただけますよ。ギルドカードの提示をお願いしますね」
ふむふむ、ギルドカードね。
えーっと、その、それがですね……。
「……すみません、持ってません。出直してきます」
悲しいね。出鼻をくじかれるって。
と、身を翻そうとしたところで声がかかった。
「あっ、お待ちください。いま作成できますよ」
なんだって。
渡りに船とはこのことか。
「そうなんですか……! すみません、お願いします」
……正直なところ、予想外の事態続きでまともな応答が出来ている気がしない。勘違いしないで欲しいのは、私はコミュ障ではないということだ。絶対にちがうのだ。
というわけで、ギルドカードを作ってもらうことにした。
「かしこまりました。では早速、こちらの機器に腕を通してください」
と言われ出てきたものは、血圧計みたいな機械だった。
腕を通す。金属製なのか、すごくひんやりした。まる。
しばらく待つと出来上がったらしく、私の名前が載ったカードがカウンターの上に差し出された。が。
「こちらがアラシェさまのギルドカードになります。紛失すると面倒なので預からせて頂きますね」
が、そのままセンカ受付嬢の胸ポケットへしまわれた。
預かっててくれるもんなんだ。
まあ、とにかく売却だ、売却。アイテムボックスの整理をしに来たのです。
「分かりました。これで売却できます?」
と聞くと、あまり芳しくない顔でセンカ受付嬢は言う。
「出来ることには出来ますが、最低ランクであるアラシェさまは危険度の低いモンスターの素材のみの買取受付となっています。……薬草とか、スライムジェルとかをお持ちであるなら買取いたしますが……」
ふむん。やっぱり低ランカーがジャイアントキリング狙いの無謀に挑まないように、なのかな?
がさごそとインベントリを探せば、スライム瓶がいくらばかりかあった。
カウンターに数本差し出す。
「はい。これでいいですかね」
「ええ。多分問題ないでしょう。少々お待ちください」
センカ受付嬢……なんかこの呼び方距離感じませんか。私は感じます。
センカ受付嬢改めセンカさんがカウンター下で何かを弄ると、平凡な男職員が来て瓶を持っていった。品質調査でもするのかな。
さて、待つ間は何しようか、と思案していたところ、センカさんに話しかけられた──
「お時間もあることですし少しお話でも──
「おら! 新入りの坊主! こっち来て話聞かせろよ。な?」
瞬間に椅子ごと引っ張られ、おじさん四人衆にプチ拉致された。
すごく絡まれた。ズリズリと椅子ごと引っ張られておじさん四人衆の居座っていた机にまでやってきてしまった。強制的に。
「おう新入り。俺たちは『理不尽レフジーズ』ってパーティーのモンだ」
この中で一番ガタイのいいおじさんが言う。
「理不尽レフ翁ズに改名しようって話もあるがな! ガハハ!」
この中で一番髪が白いおじさんが続いて言う。
「おれはまだ爺って程じゃねえや!」
この中で一番肌にハリツヤがあるおじさんが叫び、
「一や二違えくらいで逃れられると思うなよ……。髪は逃げていくぜ」
この中で一番髪を綺麗に剃っているおじさんがトドメを刺した。
「髪の話はやめろォ!」
これはハリツヤのおじさんの断末魔。
「は、はい」
ものすごいテンションだ。私にはとてもでないがついていけないよぅ。
爺に片足突っ込んでるおじさん共四人衆のわりに陽キャ臭がつよすぎる……。
と身を縮こませてお話を拝聴させていただいておりますと、一通りお決まりの流れが済んだのかガタイのおじさんが結構な剣幕で言った。
「とまぁ、自己紹介はここらにしてだな。……新入りィ、うちのギルドの宝、センカちゃんに手ぇ出すんじゃねぇぞ! ──と、言いたかったところなんだがなぁ……」
はじめは結構な剣幕だったのに、最終的にため息交じりに肩を落としていうものだから、面食らった。
「は、はい?」
何が何だか分からない私に向けて、おじさんは話し続ける。
「災難だったな。ギルドカード持ってかれるなんてよ……」
「は、はぁ……」
未だに状況が掴めない私の生返事に、おじさんは訝しげに言った。
「ん? まさか分かってないのか、ギルドカードを持ってかれる意味が」
なるほど、ギルドカードを持っていかれたのが問題なのか。
なにがいけないんだろう。
「すみません、何分不慣れな物で……」
「じゃあ説明してやる。そもそも、ギルドカードってのは冒険者にとっての身分証明書みたいなもんだ。……分かるだろ?」
「えぇ、まあ。これが無いとギルドで素材の売却が出来ないって……あっ」
そうか、ギルドカードがないと別の街では素材を売ることすら出来ないんだ。
「やぁっと気付いたか……。それが今あっちの手元にあるってこたぁよ、分かれよ? このギルド……もしくはセンカちゃんが、お前さんを手放す気がないってことだ。分かるな?」
「分かりました……分かってしまいました……」
「……まあ、その、なんだ。頑張れ、新入り。なんか俺たちに出来ることがあれば言えや」
なんてことだ、センカさんや。
こんな周到に囲いこまれるとは思わなんだ。
と、このような感じで地元の冒険者パーティーと友好的な関係を築いていた(聞き役に徹していたともいう)時のこと。
「ぬおわぁあ!?」
受付より奥の方から悲鳴が聞こえた。
えーっと。スキルの遠視で見る感じ、鑑定室など言うところからのようだ。
……さっき私が渡したスライムの瓶が関係ないといいんだけどね。
しばらく職員がてんやわんやして、そろそろ落ち着いたかな? って頃に、さっきセンカさんに頼み事をされていた平凡な職員が出てきた。
青いスライム、それも生きてるやつを連れて──。
・・・
◎トアル鑑定官の災難
トアル・ウタゥーヤツという男は、実直で、有能で、少しばかり変人であった。
元は王都で鑑定官になった男であるが、二年目の夏、才を疎まれ左遷される事となる。
そういう経緯があって、この辺境、カイハージ街の地に居る。
彼のよく優れたのは、その目が殊によい事にある。
例えば近所の子供らが持ち寄ってくる薬草やスライム瓶などは、その尽くを過つこと無く一目で判別する。
またそれに留まらなし、カイハージ周辺のモンスター素材などは、大掛かりな鑑定機などを用いずとも押し並べてその目の見通す所となるわけだ。
故に、カイハージギルドの鑑定は彼の両眼にかかっている。と言うべきかは、彼が所属するギルドの鑑定官は窓際職と同義になると言うべきかもしれないが。
そんな彼に、珍しく見通せぬものがあることがあった。
しかも、それはごく見なれたスライム瓶である。
子供らの手による、言っては悪いが粗雑なスライム瓶では見たことの無い深い発色を持つ瓶であった。
彼は、久方ぶりに鑑定辞典を開くこととなる。
そも、辞典を開くのは、子供らのスライム瓶詰めに技術革新が起きた時のみのようなものであるが、彼には何とはなしな疑念が残る。
「フム。見覚えが無いとは思っていたが、載っていないとこそは思わなかった。精進しなければな」
鑑定辞典に載っていない。それはすなわち、大掛かりな鑑定機を用いなければならぬ事を意味する。
彼は、この大掛かりな鑑定機が嫌いであった。大掛かりな鑑定機が嫌いであると言うよりは、むしろ面倒なことが嫌いだった。
しかし、使わねばならぬのならば仕方が無い。
「しょうじん〜♪ しょうじん〜♪ 一生精進〜♪」
鼻歌荒く、トアル鑑定官は本棚の隅に追いやられた大掛かりな鑑定機の説明書を引っ張り出した。
彼は、平生ご機嫌の男である訳では無い。ただただ、気が付けば内心を吐露する歌を口ずさんでしまうだけの男である。
微妙に頭の隅を占領するが如き歌を歌いながら、大掛かりな鑑定機の説明書を読み進める。
この大掛かりな鑑定機は、正式には瞳五記録参照機と言うが、彼にとってはどうでもよかった。
「精進〜♪ ……ン。なるほど、一二滴でなければならないか。面倒だ」
どうにも面倒臭そうな顔をし、瓶の蓋を開ける。
そこから一滴を取り出そうと、慎重に瓶を傾ける。
そろそろ、そろそろ一滴落ちるぞ……瓶を元に戻す心の準備を……──あっ!
ずるり。
無情、スライムは全部落ちた。
「まあ仕方が無かろう……一滴を残して戻すのがよいか……──何だっ!?」
落ちたスライムを瓶に戻そうと、『スライムでも分かる! スライム瓶の詰め方』を探していた時だった。
彼の首元にひやりぬめりとしたナニモノかが……!
「ぬおわぁあ!?」
──生きているスライムであった。
スライム瓶から出てきたのは、生のスライムであった。
・・・
うーん。先程の平凡な鑑定官っぽい人が瓶持ってスライム連れて真っ直ぐこっちに向かってくるね。
「アラシェ様。こちらのスライム瓶ですが。鑑定の結果、すべて中身が生きたままである事が判明しました」
……それはどういうことですかね。
「こちらの生きたまま封入されたスライム瓶、便宜上生スライム瓶とでも呼称させていただきますが、市場価値が高いため、売却に際して今一度意思のご確認に参りました次第でございます」
どういうことなんですかね……。
まあ、いいでしょう。おいくらほどになりますか。
「問題ないです。幾らくらいになりますか?」
「最低でも1瓶につき10万Gは」
ひぇぇ!?
そんなお値段になります? えぇ、えっと、何本渡したっけ。
「さ、さっき私は何本渡しましたかね?」
と聞くと、
「こちらの手元には13本ございますよ」
とまあ、平凡な鑑定官はこともなさげに飄々と答えてくれた。
130万Gにもなるのか。なるのか?
売りたいです。売ってもよろしくて?
「分かりました。すべて売却しましょう」
「かしこまりました。代金はギルドカードに納入しておきます。えー、またアラシェ様の待遇ですが、貢献度の高いご活躍、先程測定させて頂きましたステータス等から検討いたしましたところ、Bランク上位とさせていただきますことになりました」
なるほど。
正直なところ今脳のキャパシティがないので。よく分からないけれど分かりました。
「分かりました。Bランク上位ともなれば、強めのモンスター素材を売却できます、よね?」
「可能ではありますが、少しお時間をいただくことになるやもしれません」
「大丈夫です。というわけで、これを買い取って欲しいのですが」
どさりどさり。
何日も殺しまわった犬っころと小人と犬っころ(大)と大小人とお犬様と王人の雑多ドロップ品をテーブルに置く。
「……かしこまりました。お手数お掛けしますが、あちらの鑑定カウンターまでお願い致します」
すごくめんどくさそうな顔で職員が言った。
私は机の上を綺麗にして、鑑定カウンターへと赴いた。
【用語解説】
〇美犬っころの本名
〈怨積の孤狼〉クイーン・ウルフ。
〇冒険者ギルド
某素晴らしい世界に云々を! に大きな影響を受けている気がする。つまりテンプレ。
〇センカ
第一発見ヒロイン。顔がいいだけの平凡な村娘。名前の由来は文官から。
〇預からせて頂きますね。
センカ受付担当官の胸ポケットに常備されることになる。
〇理不尽レフジーズ
Aランク下位のベテランハンターパーティー。
イスーク(椅子引く人)
トソーリ(レフ爺ズの人。最年長)
ボズー(ハゲを気にして坊主にした人)
ワッケナ(「俺はまだ爺って程じゃねえや!」「髪の話はやめろォ!」の人。最年少)からなる。
みな出身地は違うが境遇がよく似ており、無類のチームワークを誇る。
名前の由来はそれぞれ、椅子引く、年寄り、坊主、若いの。
〇周到
実際は魔が差しただけである。
〇トアル・ウタゥーヤツ
面倒臭がりだが有能。
由来は"とある/歌う奴"から。
〇カイハージ街
いわゆる始まりの街。
由来は開始から。
〇瞳五記録参照機
とうご-きろく-さんしょうき。五つもの瞳を以てすべてを見通すとされる瞳五記録に鑑定物を参照する神器。ギルドに一台はある。大手商人も持っていることが多い。瞳五は"とうご"と読まれる事が多いが、"ひとみご"でも間違ってはいないとされる。真相は謎。
ところで全く関係ない話をすると、日本の標準時子午線は東経135度、兵庫県明石市を通る。特に関係はない。
〇Bランク上位
ランクは上からSABCDEFG。それぞれに上位と下位がある。
基本的に上位と下位は区別されA+、B-などと表記されるが、符号なしでCなどと表記された場合は上位下位を区別していないことを表す。




