第一話:ゲーム、はじめました。
前回のあらすじ
下半身に囚われたアラシェ。諸事情で人力湧き潰しを行う。
自殺は未遂に終わった。
第一話:ゲーム、はじめました。
本配信は今日からなんだって。
ログインすると、メールボックスにお知らせが届いている。
なになに、βテストからの変更点?
バグの修正。モンスターの湧き方の修正。スキルガチャ廃止、初回スキル選択権の追加。一部の挙動を修正。なるほど。
しばらく読み進めると、βテスト版プレイヤーの方へ、なんて見出しの項が。
ふむ。育成度とレアアイテムは引き継がれる。容姿名前その他は変更する事も出来る。装備は失われる。ただし作成に使ったレアアイテムは戻ってくる。ほうほう。
装備に関してはずっと初期装備だったし関係ないね。とすると私はほぼβテスト中そのままってことかな。
さて、二度目のメイキング。
また会ったね、メイキングのAIさん。この前はどうもありがとう。今回は見た目変更無しで。
容姿は結構気に入ってるんだ。
名前は……本名をちょっともじって……アラシェでいいかな。
じゃあ、またね。
視界が開ければ、そこは石畳の街中だった。
ああ、二度目のはじまりの街!
この大地を踏みしめたかったんだ~。
あー、一応アナウンスさんONにしておかないと。
気が乗らないけどステータスを確認しよう。
どうせ、アナウンス聞こえて無いのをいいことに不名誉な感じのスキルやらモーションやらぶっ込まれてるんだろうなぁ。
すー、はー。よし。開こう。開けるといいな。
メニュー、オープン!
NAME:アラシェ
レベル:102
スキル:弓術(EX)
矢作成(A+++),
必中(A),
必殺(B),
徹底(EX),
無心の殺戮(B+),
非情の射手(C),
非道(C),
外道(C),
邪道(C),
無道(C),
異端(C),
掟破り(C+),
ウルフ殺し(EX),
ゴブリン殺し(EX),
スライムの友(B+),
曲芸射(EX),
遠見(D),
千里眼(D),
自爆(--)
なんなんだ、これ。
〔モーション:なんなんだ、これ。を入手しました。〕
でも、割と心当たりあるなぁ。
ま、貰ってたもんは仕方ない。
お犬様ライダー王人でも狩りに行きますかねー。
東に向かってしばらく歩き、門を出てまたしばらく歩き、しばらく歩いたその先には──なんてことだ。
犬っころと小人しか居ない!
スライムはいっぱいいるけども、その少し奥に居たはずのお犬様ライダー王人が影も形もなくなってしまっていた。
『モンスターの湧き方を修正』ってこのことか……!
ちくしょう。街に戻って強い敵がいるところを聞いてこよう。そうしよう。
門番が『出てすぐの奴がもどってきたぞ』みたいな目で見てきたけど、あいにく今はそれどころではないのです。
さて、プレイヤーとNPCどっちに話を聞こうかな?
うむむ。プレイヤーとはボディランゲージで会話したし、今度はNPCにしようかな。
東門から街に戻って、大通りに面したお店をロックオン。
ファーストコンタクトは重要だよ。よし、行くぞ、行くぞ、行くぞ……やっぱちょっとタイム。
人目のある所で話しかけて大ポカなんかやらかした暁には、社会的にやばいことになってしまう。
ということで、急遽右折。
すこし細まった道を進んで、しばらくした後さらに曲がって路地裏らしき通りに。
いい感じに暗がりのカフェっぽいところに入店。
うん、お客さんもあんま居ないしやらかしてもなんとかなりそうだ。
店に入れば、ドアに付いた鈴が鳴る。けれど、店内にはほとんど人がいないし、なんならカウンターの男性がこちらに目を向けることもない。
なにか、知る人ぞ知る──なんて雰囲気のお店だった。
まあ、店内の雰囲気なんて究極的にはどうでもいい話。私の目標はカウンターでグラスをみがいている、オーナーらしき若めの中年に決定した。
舐められないように、気合を入れて。よし、出撃。
オーナー(暫定)の目の前にどさりと座り、人差し指でテーブル二回叩く。
のちに、ひとこと。
「すまない。敵の情報が欲しいのだが」
おおう。
我ながらいい感じのコミュニケーションとれそうな流れだねぇ。これならきっと舐められない。
オーナー(暫定)は、私に気づいて水を一杯出してくれてから、言う。
「おい、兄さん。それはここが一介の喫茶だと知っての物言いかい?」
兄さん、か……。
キャラメイクでイケメンにしてもらった(もともとお顔に自信はありますケドね?)おかげで、男装なのはバレそうにないね。それこそ直接確認されでもしない限りバレはしなさそう。いや、まあそれはいいんだ。
やってしまった……!
カフェに、ただの、一介の、普通の、カフェに! モンスターの情報聞きに行くなんて……!
よくよく考えなくてもおかしいって、おかしいって分かるでしょう……!
しかし、ここで『間違えました』なんて言ってすごすご逃げ帰ったら舐められるに決まってる!
なんとか事を収めなければ……迷惑料、払うか。
いくらくらい? あいにく手持ちは無いに等しい四桁なの。売却額は分からないけど、王人から落ちた高そう強そうな短剣でいいか、な?
舐められないよう、無駄にスタイリッシュな動きで短剣を取りだし、カウンターに置いて言う。
「皆まで言わせるな。……生憎、持ち合わせが心許なくてね。コイツで勘弁してくれ」
拭いていたグラスをしっかりしまって、そうしたあとにオーナー(暫定)は短剣を手に取る。
刃先をしばらく眺め、手元にあった適当な布で包みポケットに入れて、オーナー(暫定)は言った。
「ほう、これは中々……。……相分かった。こっちだ。お前さんの目当ても見つかるやもしれん」
?
裏手からの出口でもあるの?
まあ来いって言われて行かないわけにはいけないけどね。嫌、なんて言って舐められたくないし。
なんかよくわからないうちに、一人掛けのソファーが対面されている部屋に着いた。
先の短剣をポケットから取りだしたオーナー(暫定)が、深く腰かけながら言う。
「そうだな。まずは、……この短剣はどうした? 拾い物か?」
始まったのは、尋問。 訝しげな目でこちらを見るオーナー(暫定)。ここで返答をミスすれば間違いなく舐められる……! 充分気合を入れて、返答する……っ!
「まさか。落し物だよ」
こう、舐められたくない余りに小洒落た事を言ってみた訳ですけど!
馬鹿じゃないの? みたいな目で見ないでね……? 通じろ通じろ〜。
と念じていたら、通じたみたいで。オーナー(暫定)は納得いった顔で言う。
「このランクは敵じゃ無いってことか。とすると……親玉、森の主。ライダーゴブリンとかはどうだ?」
言い方から推測するに、お犬様ライダー王人のことかな?
あれもまあ、簡単にひと狩りいけるんだよ。私。
ああ、そうだ。アレを見せてあげよう。
ごとり。お犬様ライダー王人の、犬側と人側がそれぞれひとつずつ載せている王冠。
が、よく分からないんだけど、ドロップする時は鎖みたいに組み合わさって落ちるのだ。
これを見たオーナー(暫定)は、少々驚いたようだけど、なにか予想の範疇といった顔で返答した。
「……一応は森で最強種なんだがなぁ。……これ以上となると、この街じゃあ取り扱ってないだろうなぁ」
ふむふむ、なるほど。じゃあ仕方がないし、別の街に行こうか。ここに居ても経験値ゲージが一ドットも動かないことは自明の理だもんね。
しばらく無言で今後の計画を立てる計画を立てていたところ、オーナー(暫定)が呟いた。
「……む、そういえば。ひとつ、面白い話があった。
都市伝説的だが、森の最奥に祠があるらしくてな。神がおっ建てた祠らしいんだが。
そこにはライダーゴブリンすら一矢敵わない程に強い狼が居るんだと。
ホントにいるってんなら面白い話だとは思わんかい?」
へぇ。森の奥か。
森の奥には行ったことなかったね、そういえば。探索ついでにその噂話を確認してきてもいいかも。
脳内計画表の一番上に、『森の祠:つよいオオカミ』とメモする。
「ふむ、それは面白い。ここに来た甲斐があったよ。では、早速探してこよう」
じゃあ、早速出発しますかね。
と思ったところを、出鼻を挫くオーナー(暫定)の言が遮る。
「あー、待て待て。こんな根も葉も実りもない噂話でこんなに貰うのは気が引ける」
ん。言われて気づけば、机の上には短剣と王冠が置きっぱなしで。
いっぱい持ってたから気にしてなかったや。
別にそれくらいはあげちゃってもいいけどね。
「気にしないよ」
「いや、こっちが気にするぞ。補填分、死蔵してた武器類をくれてやる。と言うか、もらってくれ」
あ、なんかくれるの。じゃあ貰っておくね。
二つ隣の部屋の地下室に案内された。
もうとにかく、剣がいっぱいある。壁に掛けてあるんだけど、全く種別が分からないので触れずにおく。
杖もたくさんある。けどまあ、無視するしかなかった。
弓は……あんまりないなぁ。
うーん、じゃあこの『耐久力を鍛え上げたら威力も上がったよ』って感じの脳筋剛弓を頂きたく。
他の弓は『特殊効果がすごく強いけど耐久無いよ! 使い所を考えてね!』みたいな感じなので。いささか心許なく感じる。
ちなみに現在の装備、初心者の弓(初期装備)は耐久無限。ありがちだよね。そのぶん火力は低いけど。
弓を手に取った私を見て、オーナー(暫定)は声を上げた。
「弓か、渋いな。最近多い渡界人は剣がお好きみたいでな。文字通り切り札になるかと思って用意してあるんだよ。ま、どうでもよかったか。弓なら折角だしこいつも持っていくといい」
矢を一本貰った。……一本でなにしろと。
オーナー(暫定)は、こちらの非難するようなジト目に気づいたのか、少し笑いながら説明してくれる。
「そいつは覇矢。オオカミをぶっ殺す為だけの矢。らしい。ってのも、一射分しかないからな」
確かにその通り、らしい止まりになるよね。矢は消耗品だし。私は矢作成があるから何も不自由はしていないけど、普通の射手はそこら辺の管理も大事になってくるんだろうね。
「有難く貰っておこう。いい時間だった。では」
「ああ、こちらこそ。祠オオカミが見つかることを願っておくよ」
元来た道を戻り、東門に続く大通りまで帰ってきた。
では早速、出撃! といきたいところだけど、やっぱり強敵と戦うなら準備は怠っちゃあいけない。下半身が固定された状況でも無いならね!
実は初回ログイン時に貰ってた5000Gがまだ手付かずで残ってる。
全額、準備費用に化けることでしょう。
少し南の道に逸れると、そこには道具屋が! なんて、まあ大通りに出てた看板の案内に従ってやってきたのだけれど。
しばらく物色して、私の興味が向いたのはこれだけだった。
ご当地イロモノ矢シリーズ。
たしかに意味がわからないけれど、ご当地と言われると惹かれちゃう。そんな小市民の私なのでした。
まあ、そんなわけで。
このお店には不可矢という名のイロモノ矢があった。お値段4500G。
射ると見えなくなってしまうらしい。一本しか買えないけれど、買っちゃった。もうすでに。
回復ポーションはひとつ50G。買えるだけ買って無一文になったら、準備は完了。
いざいざ、参るといたしましょう。
【用語解説】
〇行くぞ……やっぱちょっとタイム。
主人公、アラシェは少々コミュ障気味である。
〇兄さん
主人公、アラシェは少々絶壁気味である。
〇皆まで言わせるな。
全部打ち明けなくともよい。すべて言わなくともよい。といった感じの意味の言葉。大体のことを察した際によく使われる。
例文:この小説の主人公、頭がちょっと──「皆まで言うな。」
〇落し物
いわゆるドロップ品。
〇根も葉も実りもない噂話
茎もない。
〇覇矢
矢は英語でArrow。覇Arrow。破狼。
〇下半身が固定された状況
第一話を参照。
〇不可矢
不可視の矢。ふかやではない。
お値段4500G
〇回復ポーションはひとつ50G。
物価は街によってまちまちである。
まちによってまちまちである!




