第〇話:βテストに当たった。
主人公ちゃんは男と付き合えません。
主人公ちゃんがなんかごちゃごちゃ言ってますが無視して構いません。
※20/05/16:テンションを下方修正。
第〇話:βテストに当たった
ので、遊ぼうと思う。
──この、VRMMOで!!
よし。まずはキャラメイク。
この結果如何で我がゲーム生の方針が決まると言っても過言ではない。大事に行こう。
よく女たらしとすら言われた我がイケ・フェイス、コレをもっとかっこよくして貰う。
これでイケメンを捕まえれば、めくるめく薔薇(ただし造花)の世界へトリップできる。できるね?
できます(できるか?)
見て、妄想て、それでもなにか空想の生き物だった薔薇の花──そう。私が供給源になれましょうとも!
メイン武器選択……?
じゃあ、弓にしようかな。
イケメンはきっと剣士を選ぶ(偏見)だろうから、役割分担が楽な別武器を選ぶことにする。
という事で弓を選んで、決定っと。
ん? スキルガチャ? まわしてもいいの?
ふむ。では。いざ。
……矢作成(E-)ね。理解。多分矢を作るスキル。
さて。βテストは全国で数千人だって聞いた。
この数千人にすら埋没るような、無難なプレイングはしたくないものだね。
という訳で(?)やってきました。街の外!
色々街中での探索をスっ飛ばすのは無難ポイント低いのでは、と目論んでいるのです。
序盤も序盤のフィールドだから、とくに奇天烈な景色でもなし。
草原というか、丘陵というか。まあ、少しばかりの凸凹がある短草の茂った原っぱといった趣。
広々と空気も澄み、気分は上々!
ちなみに凹凸は『ぼこでこ』とは読まないし読めないので注意。
やかましいって? ごめん。
ところでなんだけど。弓って射るのが思ったより難しいんだね。これ。
そもそもの話、構えがこう、いい感じにならないんだよう。
さてさて。
βテストというものは、外面上、デバッグの一形態としても存在するものだっていうのは、まあそれなりに知られ尽くしたことだと思うけれど。
まあ、その、なんだ。実際にモノホンのバグに遭遇しちゃったとき、どうするべきかなのか、と。
つまり、報告するか、悪用してしまうか、貴方はどちら派ですか──? ということ。
私の目の前に現れたバグは、シンプルにして意味不明。メニューから開ける『アクション選択画面』が閉じなくなるだけのバグだった。右上にあるバツ印は反応しないし、「閉じろ〜」と念じてもダメ。
とまあそういうわけで、逆にもう悪用してやるかとなった私であった。
消えなくなった『アクション選択画面』で《アクション:仁王立ち》を選択する。
足を肩幅に開いた状態で下半身だけが固定される。上半身は動かせる。
さて、さて。もうこうなったら、この固まった足場で存分に練習をするしかないでしょう!
弓を構え、引き絞り、狙いを定めて、射る。
射た矢はスィ〜っと飛んで、数メートル離れたところにいたスライムに命中。
……これは射やすい。 かなり射やすい。
──と、あれ? 『アクション選択画面』が消えてる。
その画面が消えちゃうとアクションの解除も出来なくなってしまうのですが!?
やばい。しかも『アクション選択画面』、開けなくなってさらにやばい。
たすけてー。下半身がうごかないのー。
ついでに声も出ない。なんでなの? やっぱりバグの悪用は罪?
幸いにも、現状は(ほとんどにおいて)悪化でなく維持。弓は引けるから……。
いや、全然『幸い』じゃないけどね。どちらかと言えば『辛い』だ。うん。
うまい事言った気がする。
……やかましい? 悪い。
いや、まあ、それは置いておこうかな。
今の私には、いちずに弓を引くことしかないんだから。出来うる限り、弓を引き続けるのが私のお仕事なんだろう。
取り敢えず近場のザコ敵、スライムと犬的なモンスターたちを射て殺す。一射一殺を心掛けつ、(結構外すけれど)だんだん狙いの付け方も分かってきた。
割と上手く使えてるんじゃないかな、弓を。コツを掴んだのかもしれない。しれなくもない。かな?
しばらくパシャパシャしているうち、レベルが三つ上がったところでちょうど矢が切れた。
うーん……どうしようかな。
あ、近場にスライムが湧き始めたみたいだし、ちょっとさっくり攻撃してもらって死に戻りしようかな。
結果的に言えば──私は、このβテスト中に二度と街へは戻れなかった。
スライム程度のザコ敵に殴られても死なない程度の防御力となり、永遠に(下半身だけ)仁王立ちをし続けることになる。
しばらく、スライムの無意味な攻撃を眺めてみたが、どうにもならないのがよく見てとれた。
そこで、スキルを発動してみる。スキルガチャで手に入れた、スキル:矢作成を。
実戦導入は初(この際実戦が初という事は無視する)のこのスキルは、MPの消費と引き換えに矢を無限につがえるスキル。
もちろん、実際のところ強いスキルなのかは分からないけど。でも、効果説明を見る限り、弓手には必須だったりするんじゃないかなあ。
終わってみれば、長いだけの戦いだった。
射て殺す間にスライムは湧いて増えるし、MP切れたから休憩すればまた増える。もちろん一射外してもその一瞬間で増えるし、何もしなくてもたまに分裂する。
レベルはどんどん上がるけど、矢が掠れば倒せるから弓の腕が上がった気はそんなにしない。
死なない程度のダメージどころか、たった1も喰らわなくなったので、放置することに決めた私であった。
べ、別にスライムと仲良くなりたいとか、そういうのじゃないんだからねっ!
……ただちょっと面倒なだけなんだから!
……自分でやっててもこれは無いな、と思う。ごめん。
〔称号《休戦:スライム》を獲得しました〕
〔『種族好感度:スライム』の値がステータスに追加されます〕
え、何。いま私何かした?
もしかして内心で変なこと考えただけでこんな称号貰っちゃったの?
怖いよ。人の心は読むもんじゃないよ? 特に私の心なんて特に特に。
まあそれは置いておいて。
折角だしスライムに攻撃しない方がいいよね。好感度稼ぎという訳ではないけれど、友好なんて言われたらさすがに攻撃するのに気が引ける。
スライムより遠くに湧いてる白くて顔が厳つい犬っころと、緑色で顔が汚い小人を狙っちゃおう。
……当たらない。
一発でも当たれば、敵視をとったのか近寄ってきてくれるから、だんだんと楽にはなるけれど。
どうせ動けないんだし、気長に狙っていきましょうか。
そんなとき、若めの男性が声をかけてきた。訝しげな目線で、確かにスライムにまとわりつかれながら遠距離射撃をしてるのは怪しいけどね、もう少し感情隠して欲しいな。私悲しいな。
「ここで何をなさっているのですか?」
でもまあ、第一発見プレイヤーだし。今は声が出ないけど、是非ともおはなしをしたいところだ。
さて。こういったとき、やはり頼りになるのは自らの肉体! ボディランゲージの出番だね。
ワタシ、シャベレナイ。ワタシ、ウゴケナイ。
アナタ、シャベレル。アナタ、ウゴケル。
アナタ、ワタシ、ホウコクスル。
ワタシ、タスカル。
ミンナ、タスカル。
セカイ、ヘイワナル。オウケイ?
やりきった達成感を胸に、ややドヤ顔で男性の顔を見るけれど、訝しげの表情は依然変わりなく。
「すみません、失礼しました」
そう言って彼は去っていった。頭上にはてなマークを浮かべたままで。
そんなー。
通じなかった……。
私のボディランゲージが通用しなかった……。
私は彼に恨みがましい視線を送り続けたけれど、彼はそのままこちらを振り向き見る事も無く視界外に消えた。
ちなみに、この男性が噂を広めたのか、私とコミュニケーションを取ろうとするプレイヤーはβテスト中に現れることは無かった。
うう、ちくしょう……! 余計なモノローグのせいで救出の希望が絶たれた!
絶望した。やい、遠くの犬っころめ。絶望お裾分けショット! 相手は死ぬ!
悲しいな。犬っころと小人をぶちころころがしし続けた結果がこの始末。
レベルと技術が上がって……上がっただけ! こんにゃろー!
でも、犬っころと小人なら必中必殺と言っても過言ではなくなってきた。必ず中て必ず殺す、私の技術はそんな領域にすら上り詰めたのだ……。 とまあ、そんなことを内心で考えてたのが良いのか悪いのか。
〔スキル:必中を獲得しました〕
〔スキル:必殺を獲得しました〕
やめて。
おやめになって。
……私は、スキルを獲得してしまったのだった。
〔モーション:やめろ。を獲得しました〕
ついでにモーションも獲得してしまった。
というか、なんなの? それ。使ってみたいけどメニュー開かないよ。
……無いのか。モーション:なんなの? は無いのか。
くそう、微妙に期待して損した。もっと徹底的にすればいいのに。
〔運営への御要望:徹底的にすればいい。を送信しました〕
〔返信:了解しました。運営チーム内での討論により、スキル、モーション等の生成条件緩和を決定。《なんか良さげなモーション》を公式が逆輸入出来るようになりました〕
〔モーション:くそう。,なんなの? ,/スキル:徹底を取得しました〕
え?
〔モーション:え? を入手しました〕
内心で考えたこと全部読み込まれてないかな! これ! もう、無心だ。無心になれ。無心しかない。
〔フェイスモーション:真顔/スキル:無心を入手しました〕
そうだ、別のことをしよう。犬っころ狩りとかね。気を逸らさないと、持っていかれる……!
〔モーション:そうだ。を入手しました〕
無視。無視を決め込む。
〔モーション:無視を入手しました〕
……。
〔スキル:非情,非道,外道,邪道,無道,異端,掟破りを入手しようとしています。モーション:やめろ。によって拒否が可能です〕
やめろ。……いやあの、私はね、今モーションが出来ないのだけれど。あのね、あの、その……。
〔拒否期限まで30秒……5,4,3,2,1……スキル:非情,非道,外道,邪道,無道,異端,掟破りを入手しました〕
もうやめて……。
せめてそのメッセージウィンドウを表示しないでほしいな。
〔運営への御要望:メッセージウィンドウを表示しないで。を送信しました〕
〔返信:了解しました〕
〔メッセージウィンドウを誠に遺憾ですが非表示に致します。なお、再度表示させたい場合はメニュー→設定から《メッセージウィンドウを表示》を是非ともONにしてください〕
アナウンスさん、私情挟みすぎな気がするんだけど。非情非道云々って、無視しただけでそれなのかな。
ま、せいせいした気分だよ。今はもうね。
なんか邪魔が入ったけれど、いつも通り犬っころと小人狩りをしよう。視界内だとアイツらがいちばん強いみたいだし。
ま、私様の敵じゃないけどね! 的ではあるけど。なんちゃって。
いやあ、めっちゃ上手いこと言ったな、私。
やかましかった? ごめん。
犬っころと小人を狩り続けて幾星霜。
実際のところ、ゲーム内時間で二日。
現実時間で言えば半日。
βテストが始まってからはもうすぐで丸一日。
そうだね、少しこちらの事情をお話ししようかな。 うん。いや、そのね。最近のVR機器は目元に巻くだけでいい小型のゴーグル型が主流なんだけど、
小型ゴーグルは現実時間で半日経つと強制再起動して、餓死やら尊厳の危機を防げるようになってるんだ。
……でも、私としては無防備を晒したくはないわけなんだよね。VR中は現実の体がほっぽり出されるのだけど、さすがに嫌で。
だから最新の覆身箱型VR機器をちょっと無理して買ったわけ。
この機器は安全対策の再起動なんて一切しないし、トイレやら食事なんかはよくわかんない内部構造で問題ないし、箱の中で終末すら生き抜けるような作りになっているんだけど。
ちなみにお値段三九八万円ね。VRゲームガチ勢御用達らしいよ。……いや、まあ、それはどうでも良いのだけど。
これが裏目に出た。
何が言いたいかというとね。小型VR機器みたいな強制再起動がないから、自力でログアウトできなくなったらやばいよってことなんだ。……まあ、先述の内部構造のおかげで死にはしないけれど。そもそも自力でログアウトできないってどういう状況なんだって話でもあるけれど。
まあ。つまるところ、βテスト中残り二日間。ゲーム内時間で八日間はここに釘付けで、犬っころと小人を狩らなきゃならないということ。
流石にβテストの終わった後なら、一回全員強制ログアウトでしょう。
あれからゲーム内時間で一日経った。
数えてはないけれど、犬っころと小人は数百程度倒したと思う。全然全く数えてないけどね?
……スライムの話をするとしようかな。
彼らは足元に集っているよ。偶に肩まで上がってからジャンプして飛び降りるのが可愛くて癒されるよ。うん。私は置物じゃないけどね。
で、まあ。私自身のおはなしをするとするけど、
レベルが結構上がったよ。それ以上に技術が上がったよ。多分。
実際、犬っころと小人は湧いた瞬間に射抜ける。
おかげでここらは敵が実質湧かなくなった様になってね。人が来なくなった。ぼっちだ。
あと、曲芸射も出来る様になった。暇だったからね。
……と。なんかおっきめの犬っころが出てきた。
よし、曲芸射:複合の型《豪》でいこう。
これ、出来るようになった途端スキルとして認定されてさ。よくわからないけど。
この技はね、
まず矢を三本つがえて、超空に一射する。
次に矢を三本つがえて、やや斜め上、七十度くらいに一射。
そしたら矢を三本つがえて、やや前方五十度くらいにさらに一射。
そんでもって矢を三本つがえたら、前方二十五度くらいに一射。
最後に矢を三本つがえて、前方に水平射で一射。
コツは一番と五番をこれ以上ないくらいに強く撃つことだよ。
時間差で射た矢は着弾点に収束して、ごく一点に火力が集中する。上手く当たれば針が逆向いたヤマアラシみたいになるから、豪。
威力は馬鹿みたいに高いけど、はっきり言ってあんまり使える技じゃないんだよね。相手との距離がそこそこあって、かつ相手の動きが読めて、しかも相手が避けない様になってないと当たらないから。
でも今回はいい仕事をしてくれた。犬っころ(大)は初心者向けボスっぽい何かだったからか、真っ直ぐこっちに突っ込んできてくれたからね。そして死んだ。
お、経験値が美味しい……!
もはや犬っころでは一ドットも動かなくなったこの経験値ゲージを五ドットも動かすとは。恐れ入った。
とか言ってたら犬っころが全部犬っころ(大)に、小人は成人男性サイズの大小人になってしまった。
いや、両方とも、実はそんなに体力無かったみたいで、適当に乱射しても倒せたから近づかれずに済む程度だったけどね。一射一殺は出来なかったせいで大変だったよ。
はてさて。βテストもあと一日。ゲーム内時間で言うなら四日。
ちょっと前に犬っころ(大)に紛れてお犬様的な(なんか目付きが鋭くなって王冠被ってる)のも混ざってきたし。
小人の湧き枠だと、王人(大小人がいい武器にいい鎧して王冠被ってる)って感じのが紛れるようになってきてすごく大変。
今はもう犬っころも(大)も小人も大小人も影も形も無くなってしまった。お犬様と王人オンリーですよ。経験値はまだいい感じに入るけど。
そして、さっき剣士っぽい人が王人に挑んで一瞬で死に戻ってた。ごめんね。
ゲーム内時間あと一日。
数時間前からお犬様ライダー王人(デカい犬に緑肌で顔厳つい人型が乗っている)だけが出現するようになった。同時に二体以上来ることはなくなったから随分楽だけど、ここまで来たら何となく負けたくない。
ゲーム内時間あと四半日。
お犬様ライダー王人ですら一射で滅殺出来るようになって、経験値ゲージの一ドットも動かなくなった。
視界よりも遠くに矢を飛ばせるようになったけど、見えなきゃ意味無いなあ、なんて思ってたら視界が広くなった。おおかた、また新スキルを習得したんでしょう。千里眼とかそんな感じのを。
しばらく無気力に人力湧き潰しをしていたその時、私の天才的ひらめきがひとつのアイデアをうみだした。
矢を真上に撃ちまくれば、落ちてくる矢で自分殺しが出来るのではないかと。
私はその一筋の光明に縋り付く。たとえ、戻ってももう数分ほどしか自由ではないとしても!
撃つべし撃つべし!
しばらく思いっきり射た矢、たぶん数百発は撃ったと思うのだけれど。撃ちすぎたかな〜って思うほどだけど、中々落ちてこないんだよね。
まだかなー。
雨乞いの真似事をしてたら遂に降ってきた!
微かに痛みは感じるけれど、HPゲージがどんどん減っていくこの感じは久しぶりだ。
今日の天気は快晴! でもところにより矢の雨! ……なんて、今どき古書物ですら珍しいギャグだけど。
ようやく解放されるとあって、私のテンションは急上昇中だった。
HPゲージの減りは、もうそろそろ0に至ろうというところ。
……もう少し──!
……もうちょっと───!
視界の暗転。 目の前が、まっくらになった。
数瞬間、自らの状況に追いつけずにいた私だったけれども。
どうも、街に戻ってこれたわけではない……というか。
多分、βテストが終わって強制ログアウトさせられたみたい。私の視界が真っ暗なのは、ただ単に件のVR機器の内壁が見えているだけなのだった。
……元凶(?)の箱型VR機器くんから脱出する。
くそう、あんないい所でログアウトされちゃうとは……。
ま、終わったことをとやかく言っても仕方が無い。
本サービス開始は来週だそうだ。うんうん。
なんだかんだ言って、始める気でいる私である。
【用語解説】
〇かっこよくして貰った
所謂アバターメイキング。よくある担当AIさんにお任せしたのである。
主人公本人はAIにおまかせしたと思っているが……?
〇薔薇(造花)
好きな人もいると思う。許せない人もいると思う。でも今作品に出てくるのはこれが最後。
ちなみに百合(造花)も出ない。
〇私が供給源になれましょうとも!
なれない。
〇矢作成
魔力(MP)を消費して矢を作成する。ランクが上がると魔力効率がよくなる。
〇うまいこと言った気がする。
もしかして:気のせい
〇白くて顔が厳つい犬っころ
ウルフ。体長約1m程度。
〇緑色で顔が汚い小人
ゴブリン。身長約1.2m程度。
〇ボディランゲージ
肉体言語。いわゆる殴り合い。
〇犬っころ(大)
ビッグ・ウルフ。体長約1.8m程度。
〇曲芸射
主人公の得意技。弓で馬鹿やること。
〇大人
ハイ・ゴブリン。身長約1.8m程度。
〇お犬様
キング・ウルフ。体長約3m程度。
〇王人
ゴブリン・コマンダー。身長約2.5m程度。
〇お犬様ライダー王人
ライダーゴブリン。6~8m程度の体躯。




