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第十六話:雨天デートはロマン。

前回のあらすじ


冷感メガネ



※対抗戦の日時が分かりづらかったため、十四話の一部分を編集しております。変更後の日時は現在から見た明後日になります。

 第十六話:雨天デートはロマン。





 食べ終えると、やっぱり暇なんだ。皿洗いは暇つぶしのうちに入らぬ。


 腹ごなしに一睡するかとソファに腰掛けたら、センカさんが声をかけてくる。


「アラシェさま、買い物に行きませんか?」

「買い物? 雨降ってるし明日でもいいんじゃ?」

「い、いえっ、今日でないといけないのです!」


 そこまで言うなら、まあ仕方ない。


「そうなの。じゃあ、いいよ。行こうか!」


 ・

 ・

 ・


 どうにかなりました。しました。


 今回の作戦は、ズバリ『傘を持っていないと言い張りアラシェさまの傘に入れてもらおう! 相合傘大作戦!』です!


 重くない程度に気合を入れてめかしこんで、アラシェさまを待ちます。



「よし、じゃあ行こうか」


 アラシェさまがやってきました。

 作戦開始です!


「アラシェさま。実は私、傘を持っていなくて……一緒に入れてもらえませんか?」

「ん? あぁ、傘ね。……私も持ってないや。あはは。行くのやめる?」


 えっっ!?

 ……いえ、なんとしてでも行きたいのです!


「あっ、あーっ! 実は傘ありました、アラシェさま! これで買い物に行けますねー!」

「お、それはよかった。センカさんは濡れずに済むね」

「アラシェさまも一緒に入ってくださいね!? 風邪ひきますよ!?」


 ……世の中、そう上手くはいかないものです。

 今回はどうにかなりましたが、次からはどうなることやら。作戦はもう少し詰めておくようにしましょう。



 ……しくじりました。買い物に行くと言ったのに、買う物を決めていません。

 仕方ありません。買っても不自然に思われない必需品、つまり食材です。食料を買いに行きます!




 我がカイハージの街は、南側が一番の賑わいを見せます。主に王都行きの冒険者を上手く利用した産業が多く、活気ある地区ですが、他の地区が廃れ寂れているか、と言えばそうではありません。


 今向かっている北西側がその最たる例ですね。そこには、定住人向けのマーケットがあります。北方と西方にある隣町から入る様々な交易品、主には食べ物ですが、その他の物品も含め、交易品の売り買いは北西地区に限定されています。

 その流れから、交易品に限らず売買は北西と言った認識が生まれ、いつしか大規模なマーケットになった、と。

 ギルドの講習で習いました。



 いえ、なぜこのような関係のないことを考えているかと言うと、ただただ現実から目を背けているだけなのですが……。


 ……相合傘。思ったよりも恥ずかしいのです、これ。


 気を抜くと腰が抜けてしまいそうで……どうにか意識を繋ぎ止めるために、どうでもいい事を考えているのです。



 石畳を踏む硬質な水音がたった二人分だけ響きます。

 雨降りはそう酷くなくとも、雨の傘に弾ける音のおかげか、傘下はまるで隔離された空間のようで。


 傘を握る私の手、その上から握るアラシェさまの手。必然、距離は近く、肩は触れ合います。


 それにしても、ですが。アラシェさまは思ったよりも背が高くないです。私が底の厚めな靴を履いているという事もありますが、目線は私とほぼおなじ高さです。少しアラシェさまの方が高い程度、見目好い顏が目前です。


 ──と、アラシェさまに、繋いだ手を引っ張られます。


「センカさん、ちゃんと前見ないと危ないよ? 今もぶつかりそうになったし」


 それは申し訳ないことをしました。


「すみません。……少し、アラシェさまの顔に見とれていました」

「えっ、そ、そうなの? それはちょっと嬉しいかな? ありがとね?」


 ……。

 何を言っているんでしょうか、私。きっと雰囲気にやられてしまっています。


 ……。

 あああ、後になって恥ずかしさが来ました。ああああ、何を言っているんですか私っ……!



 悶々としているうちに、北西部へ到着していました。


 マーケットは、雨の日もとても賑やかです。


 なまじ目的もない買い物ですから、普段は見向きもしないような店がよく目に入ります。

 古物商、宝石店、それから──


「んで、センカさん? 何を買いに来たの?」


 はっ、そうでした! 食料を、と言っても、何を買いに来たのでしょう。いえ、全くのノープランです。

 仕方ありません。緊急退避です。近場の宝石店に突入します。


「アラシェさま、こちらです!」



 単価が。とても。高いです。

 さすが宝石……胡乱げに、ふらふらと、見て回っていきますと、少し落ち着いた値段の一角が目に留まります。


 こ、これは。護身の宝石……?

 アラシェさまは冒険者。稼業柄、危険な瞬間もあるでしょう。……そしてなにより、お手ごろなお値段ですし。

 これです! これをアラシェさまに贈ります!


 先に軒先に出ていたアラシェさまに、ネックレスにしていただいた宝石を手渡します。


「アラシェさま、これは護身の宝石というものらしいです。アラシェさまの冒険に、御加護がありますように」

「ありがと、センカさん。じゃあ……と言ってはなんだけど。私からもひとつ」


 いつの間に買っていたのでしょう。アラシェさまもネックレスを持っていました。


「見てこれ。青と金のグラデーション。センカさんにピッタリだと思ってね。受け取ってほしいな?」

「あ、ありがたく頂戴致します!」


 た、高そうです。とんでもなくお高そうです。しかし受け取ってしまったものは仕方ありません。着けます。……また今度に。



 さて、食材も買いましたし、無許可営業のモンスター素材売りもチェックしました。無許可営業は著しく悪徳の場合、ギルドが罰せるのです。あとはトアル鑑定官に任せますが。



 さて、帰りましょうかと言った辺りで、雨が上がります。

 アラシェさまが空を見上げ、言います。


「センカさん、虹だよ。運がいいね?」


 見上げれば、太陽は眩しく照り、水気のある大気に虹がかかっています。とても綺麗ではありますが、アラシェさま程ではありませんね。


 ……。

 口には出しませんでした。このセンカ、学習する女ですから。


 それよりも、問題は、です。



 ──雨が上がってしまえば相合傘は出来ないと言うことですっ!


 帰りこそしっかり堪能しようと思っていたところだったのですがっ!!




 ─────────────────────


 ☆おまけ



 センカは、端的に言って、同僚の言葉に嫉妬していた。


『この前デートに行ったらさ、雨が降ってね。相傘したんだ。羨ましいだろー?』


 ゆえに。アラシェを無理矢理にも誘い、雨の中買い物に出たのである。



 とある日のこと。



 センカが、同僚を見つけ開口一番に言った。


「件のお話、忘れていませんよっ! 私にだって相合傘する相手くらい居るんです!」


「へーえ、センカちゃんも中々やるじゃん。で、どうだったの?」


「? ……どう、とは?」


「そりゃー、距離が近かったとか雨に濡れたとか、汗臭かったとか足が引っかかったとかとか何とかあるでしょうに」


「そ、それは……」


「それは?」


「その……」


「その?」


「は、恥ずかしくて覚えていませんっっ!」


 それきり、センカは顔を赤らめ逃げていった。


 同僚は呟く。


「……初心か?」


【用語解説】


〇雨天デートはロマン。

 雨天がマイナスな感情を表すのは古い時代のお話。今の時代は雨天デートだってハッピーなものなのです。

 というわけでアラシェとセンカの関係に何かマイナスな出来事が起きるわけではありません。


〇マーケット

 大規模市場。ここに行けばだいたい揃う。

 ただし、専門店街は南南西にあるため、何でもかんでも揃うとはいかない。


〇……また今度に。

 ギルドにこのネックレスをつけて出勤すると、高確率でトアル鑑定官に絡まれるイベントが発生する。

 イベントで単価を知ると、センカはまず間違いなく封印しようとする程度の値段。


〇初心か?

 もしかして:正鵠を射る



─────────────────────


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