第十四話:押せ押センカさん、風呂に入る。
前回のあらすじ
戦った。腑に落ちな勝った。
※確認したところ、センカさんが最低でも七連勤していました。今後は超過労働を発生させぬよう尽力します。
※あらすじを改訂しました。興味のある方は覗いてみてください。
第十四話:押せ押センカさん、風呂に入る。
アラシェさまが帰ってきたのは、六時を少し過ぎた頃でした。
ガチャリと鍵を開ける音、次いで皆さんの足音が聞こえてきます。
「センカさん、今帰ったよー!」
という、アラシェさまの声に、玄関へ行きます。
「おかえりなさい、皆さん。おつかれでしょう? 大浴場を温めておきました。女性陣で使ってください」
我が両親の子煩悩、その集大成とも言えるこの屋敷ですが、一人暮らしには手に余るものです。
まず単純に部屋数がとても多い。無論、掃除の手は行き届きません。
さらに、独立した大厨房、前述の大浴場、その他その他と普通の家庭にあってはおかしい設備も多いです。
しかし、アラシェ様に出会ってクランホームになってからは、部屋もある程度分配できましたし、掃除も分担し負担減。大浴場もこのように使い道が出来て、随分と楽になりました。
話が逸れましたね。
女性陣とは、言ってしまえばアラシェさま以外となります。
そのアラシェさまも女性ではありますが、今は性別を偽り暮らしている様子。
話を合わせた方がよいでしょう。……アラシェさまからの好感度もあがってしまうかもしれませんし! ふふふ。
ライ様が苦労して靴を脱ぎ終え、アラシェさま以外の六人は大浴場へと向かっていきました。
「アラシェさまはこちらへどうぞ。小風呂を用意してあります」
小風呂とは言っても、実際はかなり広く造られていますが……。まあ、大浴場に比べれば小さい、という意味では間違っていません。
「ありがと、センカさん!」
アラシェさまはお風呂が好きなのでしょうか、テンションがとても高い。
この様子なら、決行できるでしょうか。あの作戦を……!
アラシェさまが脱衣所に入るところを見送り、少々扉の前で待機します。
しばらくして、脱衣所と風呂場との間にある扉の音が聞こえれば、作戦開始です。
作戦は単純明快、実際に突入します。お風呂に。アラシェさまの。
いえ。何もおかしくはありません。だって、私は女。アラシェさまも女性。えぇ。何もおかしくはありません。
バサッと服を脱ぎ捨て……は、しません。はしたないですから。
脱いだ服は畳み、カゴに入れます。
さて、決行です。
風呂場との間の引き戸を、カラカラと音を立て開けます。
小風呂とは言えど、無駄に広いこの家です。銭湯のように幾つも蛇口がありますし、湯船もかなりの大きさです。
一番奥、端っこの蛇口を使っていたアラシェさまがこちらを向き、驚き言います。
「えっ、ちょっ、ど、どちら様──センカさん!?」
アラシェさまはその長い髪を洗っていたよう。
「お背中お流ししますっ!」
「えっ──なんで??」
アラシェさまは困惑しています。今が攻めどきです。
「アラシェさまはそのまま髪を洗っていてくださいな」
手早くボディソープを泡立て、アラシェさまの背中を洗っていきます。すべすべです。
「せ、センカさん……? 急にどうしたの?」
「いえ、アラシェさまとお風呂に入りたかっただけです」
「そ、そうなんだ……?」
ひととおり洗い終わります。次いで、抱きつくように腕を回し、脇腹の辺りからお腹にかけてをさわさわ……ではなく、洗っていきます。
「ちょっと、センカさん。擽ったい……!」
「そんなことはありません」
「ある! そんなことあるから!」
思ったよりもずっと、女性的な体つきです。腹筋も割れていないですし。硬いですが。
初見、男性だと思ってしまった過去の私を叱りに行きたい程度には、アラシェさまは女性でした。
手がアラシェさまの無い膨らみにかかろうかと言ったところで、手首を掴まれます。
アラシェさまがこちらを振り向き、若干の震えた声で縋るように言います。
「センカさん、それ以上は、だめだから……だめ」
不覚にも、キュンと来ます。
平時のアラシェさまは凛々しく、格好いい、が似合いますが、時折見せるしおらしかったり、可愛らしい一面は、平時との差も相まって不思議な気持ちにさせられます。
それはともかく、あまり無理強いをするのもよくありませんので、潔く離れます。
そうして私自身が全身を洗い終える頃には、アラシェさまは既に湯船に浸かっていました。
ちなみに、アラシェさまは露骨に目を逸らし、私の体を直視することはありません。顔が少し赤くなっているので、ただ恥ずかしいだけでしょう。
私ですか? 私はアラシェさまになら幾らでも見て欲しいです。
アラシェさまの横にピッタリとくっつき浸かると、アラシェさまはスススッと逃げていってしまいます。
何度か距離を詰めては逃げられ、と繰り返していると、アラシェさまは壁に突き当たり、逃げ道は失われました。
「ね、ねぇ。センカさん。センカさんは何で私と風呂に入りたかったの?」
……。そういえば、どうしてでしょう。いえ、別にアラシェさまの裸が見たくない訳ではありませんが、今回はただ漠然と、アラシェさまとお風呂に入りたかった、それだけです。
「分かりません。どうしてでしょうか……」
アラシェさまの質問に返答しつつ体を翻し、アラシェさまと対面になるよう跨り、足をアラシェさまの臀部あたりへ回します。さらに、アラシェさまの肩に頭をもたれ掛けます。楽です。落ち着きます。私の居場所はここです。ここでしかありません。
「仕事疲れかなぁ? 今日はゆっくりしようね。明日は? お休み?」
「明日は休みです。明後日も。明明後日もです。『最近働きすぎだ。』と言われまして、一週間ほどお休みです」
アラシェさまが背をさすってくれながら、言います。
「じゃあ明日もゆっくりしよう。明後日も、明明後日もね」
──それからしばらく、静かな時間が続きます。
アラシェさまが脱衣所に戻るのに合わせ、私も戻ります。ひととおり体を拭き終われば、服を着ねば──いえ、着せねばなりません。アラシェさまに、私の好みの服を、着せねばなりません。
振り返って、下着だけを着けたアラシェさまに、アイテムボックスから予め用意しておいた服を取り出しつつ、言います。
「アラシェさま、こちらを着てください!」
「着ないっ! というかセンカさんも服着て!?」
ダメですか。水玉模様の水色のワンピースを仕舞う……ことはなく、私が着てしまいます。まだ下着は着けていませんが。……まあ、バスタオル代わりです。
次いで取り出したのは、ピンク色のフリフリなパジャマです。土筆の茎ぐらいの頻度でフリルがついています。一応、下はズボンですが、総じて、可愛らしい、が似合う服です。
「ではアラシェさま、こちらをどうぞ」
「着ないからねっ!? というか色々見えちゃいそうだからちゃんとした服着て!?」
ダメでした。パジャマを仕舞います。
しかし、ここまで断られるのも作戦のうち。大本命は──次。レフジーズのおじ様方に聞いた交渉術、マド・イン・ザ・ミラーです! ……確かそんな感じだったような。
と、ともかく。次に取り出したのは、軍服調の服です。これまたレフジーズのおじ様方に聞いたお店で買ってきました。
先程出した服よりも、露出は少なく可愛らしくもなく、パンツルックでかっちりしたものです。無論、着てくれるでしょう。……縦いコスプレ衣装だとしても。
「ではアラシェさま、こちらを!」
「センカさんもちゃんと服着てね! それなら私も着るから!」
交渉成立です。ふふふ。
アラシェさまが着替えている間に、私も着替えてしまいます。
オーソドックスな白い軍服、ついでに付いてきた軍帽と軍刀も携え、アラシェさまはいつもに増して凛々しくありました。
しかし同時に、風呂上がりであるゆえか髪は下ろしたままなので、麗人と言った感じもします。まあ室内ですから、素足です。少し締まらなくもあります。軍靴風スリッパ、売っているでしょうか。
結局、軍帽と軍刀はファンサービスのようなものだったのか、仕舞ってしまい、髪を乾かし結って、いつものアラシェさまになりました。これもこれでいいです。
さて、大浴場から上がった女性陣と合流し、夕食です。……と言っても、作り置きしておけた品々で完結する訳ではありません。
つまり、正確に言うならば、夕食の準備に取り掛かったわけです。
夕食時、ヒトリモさんが言いました。
「そういえば、対抗戦の日程が決まった。明々後日との事だ。皆、予定は空けておいてくれ」
なるほど。クラン対抗戦が近かったですね。ギルド主催のはずなのに、私よりヒトリモさんの方が情報が早いのは腑に落ちませんが……。まあ、ヒトリモさんは渡界人ですし、何か別の情報網があるのでしょう。
「じゃあ、センカさんにも出てもらえるかもね。明々後日なら」
アラシェさまが言います。
「わ、私ですか? 戦いなんてできませんよ?」
「あー、そういうことじゃなく、ね。私とヒトリモはバカだから……。頭脳戦とかあったらお願いするかも、ってことで」
ヒトリモさんが返事をします。
「否定はしない」
えぇ……。
そうしたら、ゼラさんも何か言っています。
「はいはーい! 私もバカでーす! ついでに言うならライ様と支援姉妹は世間知らずなので戦力にはなりません!」
えぇ……。ライさんも無言で受け入れている辺り、事実ではあるのでしょうが……。
「えーっと、アラシェさまの力になれるなら、吝かでもないです」
まあ、参加するのに否はありません。
が、クラン自体の先行きが怪しいかもしれません。
私が頑張らなければ……っ!
【用語解説】
〇我が両親
親バカ。ただし、目は良い。
センカに一国一城の逆ハー主の器があることに気づき、多人数で住む家を建てた。子離れの決意を物質化したとも言う。なお、レフジーズの尽力で本来の使い方をされることは無かった。というかアラシェのハーレム城になってしまった。
〇大浴場
一般的な銭湯よりも大きい。確実にオーバースペック。
〇小風呂
並の旅館の個人風呂よりはだいぶ大きい。贅沢。
〇差も相まって不思議な気持ち
いわゆるギャップ萌えである。
〇体を翻し、〜〜
対面座いや、なんでもない。
センカとしては、触れ合うためだけの姿勢であり、別に昂りはしないしむしろ落ち着く。
アラシェにすれば、ちょっと驚きはしたが仕事疲れのセンカさんを慰労しようという心持ち。
〇働きすぎ
働きすぎ。アラシェさまを養う、を目標に過労していた。
〇土筆の茎ぐらいの頻度
『土筆 茎』で画像検索してもらえば何となく分かっていただけよう。
袖を茎に例えると、節々の代わりにフリルがついている。
〇マド・イン・ザ・ミラー
正しくはドア・イン・ザ・フェイス。
大きな要求を断らせ、次の小さな要求を通しやすくする交渉術。『大きな要求』は検討の価値があるべきであり(でないと断った罪悪感=次の要求を請ける動機が発生しない)使いこなすには熟練を要する。
フット・イン・ザ・ドアと字面が似ているので混同に注意。




