第十三話:冗長なのはいけないと思います!
前回のあらすじ
ゼラを巻いて撤収したアラシェ。センカさんの機嫌を損ね、包丁を突きつけられる。一方、ライ金嬢はおもむろに片手斧を取り出す。
なんやかんやあって、売り物の盾で遊んだ。
※いつもより長いですが、長いだけです。無いような内容なので適当にどうぞ。
第十三話:冗長なのはいけないと思います!
総出で作り上げた弁当片手に(アイテムボックスにしまったので手ぶらなのは内緒)クラメン皆で南門をくぐる。
ちなみにセンカさんのお昼も弁当だ。
南側の敵は町周辺では上位に位置する程度の強さらしいので、とりあえずこっちに来てみたが。
「ぜぁッ!」
ライ金嬢の斧一振で敵は潰え、
「『光撃』!」
ゼラさんの拳法術で塵となる。
「【一に火あり。二に水あり。三に木あり。四に光あり。五に闇あり。──
一方、ヒトリモは詠唱をしていた。(0キル)
連携も何も無かった。もう少し進んでみよう。強い敵も出るはず。
南門から王都まで続く石敷きの街道にはモンスター避けの仕掛けが施されているらしく、道から少し離れた程度ではまともな敵がいないとのこと。(とは言っても、常人が昼寝をすれば容易く死んでしまう程度には強い敵である。常人でもスライムではそんなに死なない。)
そういうこともあって、南東側、左手にいつもの森を見つつ道から離れる方面へ行くことに。
先程ヒトリモを除く面々にボコられたのは牛面の小トカゲといった風体の謎モンスターだったが、こちらに進むにつれ数を減らし、より大きく、そしてさらに意味不明な外観となった牛面馬脚のトカゲが増えてくる。
「ヒトリモ、あれはどう?」
「ふむ。そう弱くは無いといったところらしいな。十分だろう」
「了解」
ヒトリモ情報(とは名ばかりのネット情報)によれば、中堅どころの相手らしい。全力で滅したりしなければ少しは持つだろう。
「じゃあ。ここらで演習、始めようか」
とは言えど、やっぱり各々の戦法が分からなければ作戦のたてようもないしね。
「まずは、そうだね、私の出来ることを見てもらおうかな。その後に皆の出来ることも教えてもらうので、覚悟しておいて」
牛面馬脚トカゲ、一番手前の奴に狙いを定め、まずは一射。
「ちなみにアラシェ、やつ……いや、やつらの特徴は──いわゆる集団リンクだ」
「先に言ってねそういうのはさぁ!」
先程の一射は見事命中。牛面馬脚トカゲの一大群がこちらを向く。
そして、物凄い勢いで進攻してきた。さすが馬の脚。
「思ったより速い! 私、ヒトリモ、ゼラさんで数を減らすからコロンちゃんバフお願い! 主に私以外でいいよ!」
「応ともさ!」
「分かりました!」
「了解しましたです!」
ヒトリモはまたマイペースに詠唱を始めるが、ゼラさんは拳型の魔法をあっちこっちに飛ばして攻撃している。まともに。
「ライ金嬢とフェルデナさんは一旦待機! 接敵したら攻撃お願いね! クリスちゃんは応援してて!」
「分かりましたわ!」
「承知致しました」
「どういうことでありますか──!?」
うん。意思の伝達は上々。話聞いてくれる子達でよかった。
「拳撃・雨霰!」
「拡散射! 矢降雨!」
「──故に。此処に裁を与える!】《五元大属撃》ッ!」
ゼラさんの殴り魔法で着々と数を減らしていた牛面馬脚トカゲ、私の射撃と詠唱を終えたヒトリモのやたら眩しい魔法も加わり、近接格闘のライ金嬢が出られる頃には十体程度まで減っていた。
「てあッ!」
ライ金嬢の斧振り、コロンちゃんのバフも相まって牛馬トカゲに相当のダメージを与えている。
さらに、フェルデナさんの援護ナイフ投擲もあり完封と言っても過言ではない。
しかしやはり数というものは強い。数はパワー。
ライ金嬢とフェルデナさんでも対応出来て三、四体。残りの半分程度は私たちで相手せねばならない。……せめて、ライ金嬢が受け持ってくれるまで耐えきれれば。
「ヒトリモ! クリスコロンちゃん守ってて!」
昨日買った盾を投げ渡す。ないよりはマシだろう。
「コロンちゃんは魔力が減りすぎない程度にバフ維持をお願い! クリスちゃんは適宜回復を!」
「頑張りますです!」
「了解であります!」
「ゼラさ──いや、ゼラ! どちらがより拳で敵を倒せるか、勝負だっ!」
「なんですか急に馴れ馴れしく……しかし受けましょう、その勝負! 待ったはナシですよ!」
牛馬トカゲは幸いなことに、飛び道具と呼ばれる概念を用いてこない。
やつらの主力攻撃は突進だ。というか突進しているところしか見た事がない。牛馬トカゲは猪突猛進……?
だから、後ろに逸らすことさえ避ければいい。
ゼラが拳法術で数体まとめて横殴りするのを後目に、私はほんとの拳で、つまり素手で戦っていた。
……接近戦用の片手剣くらいはあった方が良いかな。
突進してきた牛馬トカゲを真正面から受け止め勢いを消し、さらに突進してきていたもう一頭に気合いで投げつける。
矢作成スキルで短剣を作りだし、再度の突進に合わせ投擲する。刺さる。止まらなかったわ。
またまた受け止め、牛馬トカゲを横にして構え、後続を受け止め続けると、盾側が先ずお亡くなりになった。
その頃にはライ金嬢チームも余裕が出来ていたようで、ゼラ側の数体は処理されていた。
その後、こちらの数体も危なげなく処理し、クリスちゃんの回復魔法を受けたら、
「すみませんでしたっ!!」
平身低頭、蹄で荒らされた土にて土下座謝罪。
ひとり反省会をします。
「敵の情報くらいは頭に入れておきます……」
ホント、初の出撃ってのにグダグダ感がすごい。
「まあ、アラシェ。結局誰も大怪我などなく終えたのですから、気に病んでも仕方ありませんわ」
「ええ、個々人の出来ることを見るという点では目的は完遂されておりましょう」
ライ金嬢とフェルデナさんの優しさが身に染みる……。
とりあえず、ライ金嬢とゼラの戦闘能力は高い。とくにゼラは遠距離から近距離まで対応可能と来てる。汎用性ではピカイチ。
ヒトリモはまだ発展途上、というか詠唱が長すぎる。普通の魔法はないんですかね。そこら辺は後できいてみよう。
フェルデナさんは牽制力がある。本職は対人戦闘だったはずだし、対モンスター戦では目覚しい活躍とは行かないのは仕方がないこと。怒犬っころ戦でもヘイト取りは上手かったし、そういう面では一番盾役に似た動きを出来る。
クリスちゃんの回復魔法は発動が早くていい。それに中々判断力もあるようで、カスダメでも何でも後先考えず回復しちゃうような初心者ムーブは見られなかった。
コロンちゃんの補助魔法はとにかく効果が高くていいね。でもまあやっぱり五人同時の強化維持は相当大変みたいだから、五人分なら常時強化よりは、ここぞと言う時に短時間してもらう方が良さそうだ。
ということを皆に伝えてみると、大まかには同意された。ただ、ひとり──
「詠唱が遅いのは仕様だ! ピンチになってようやく詠唱破棄した方が格好いいだろう!?」
ヒトリモだけが何か言っていた。
こいつ。
先の情報の件と言い、おしおきコースだな。決定だ。内容は後で考える。
「えー、というわけで。そろそろいい時間だし、昼食にしたいと思いますが、異論は?」
「異論は特にないですわ。……けれど、もう少し平和なところに行きませんこと? 襲ってこないとはいえ、さっきまで戦っていたモンスターが近くにいるのは落ち着きませんわ」
「……それもそうか。じゃあもうちょっと東門側に寄って、スライムの居る辺りにしようか」
牛面馬脚トカゲに見られながらの昼食など私も嫌です。
勝手知ったる他人の家……ではないね。勝手知ったる他人の草原。まだ違うな。勝手知ったるスライムの草原。これだ。
勝手知ったるスライムの草原にやってきたわけだ。
そんでもって、予め買っておいた(再利用とも言う)ブルーシート的なものを敷く。
アイテムボックスから皆で作った弁当を取り出し、真ん中に適当に並べ、靴を脱いで座ったら設営完了。
……靴を脱ぐんだけど、ライ金嬢はいつも通りだいぶ手間取ってる。ヒトリモもだいぶ面倒そうな靴を履いていたんだけど、プレイヤー的なシステムで一瞬で脱いでいた。
ここら辺はNPCとプレイヤーの違いとして意識しておかねばなるまい。
ライ金嬢が大人気なく好物を掻っ攫っていったり、遠慮気味だったクリスちゃんにゼラが取り分けてやったり。
『アラシェさまへ』と書かれたサンドイッチがワサビ入りだったり、嫌いなのか、フェルデナさんがトマト関係の料理を全部ヒトリモの皿に移し替えたりしていたが。
一番の波乱はやはり、スライムが乱入してきたことだろう。
はじめは私に絡んでくるだけだったが、そのうちクリスコロン姉妹やヒトリモの方へ行って餌付けされるように。
とくにクリスちゃんは腕に乗ってきたスライムを気に入っていて、ライ金嬢に、
「ライ嬢様! クリスはスライムを飼いたいのであります!」
などと言っていた。
ライ金嬢の貴重な困り顔だ。どうするべきか思案してか、軽く周りを見渡して──私と目が合った。
「そ、そういうことは家長に聞くべきですわ! アラシェ、どうでして?」
こっちに話を振るな。というかスライムって何食べるんだ? ……いや、弁当の中身を餌付けされていたのは分かる。少なくともそれと同じ中身を用意すれば飼えなくは無いのだろうか。
いやしかし、スライムとて、野生では年間数件とは言え死者を出す立派なモンスターだ。そんなものを無許可で街に持ち込めるものだろうか。
……考えることが多い。今ここで断言するのはかなり難しい。
「クリスちゃん、スライムは──」
と、私が言いかけたところで、件のスライムはクリスちゃんの腕から逃げ出してしまった。
「あわっ、逃げてしまったのであります」
珍しい。特に危害を与えた訳でもないはずなのに、スライムから逃げ出すとは。
「いえ、クリス。貴方から逃げたのでは無いようですわ。周りをご覧なさい」
と、ライ金嬢が言う。
確かに、私たちの周りにいたスライムも逃げ出して居なくなってしまったよう。
南北方向に、つまり森から離れられる様なコースでスライムが大移動している……?
突如、ヴォンっといった音と共に薄青の半透明なパネル──システムメッセージのパネルが開く。
「め、珍しいですわ。神託ですわね」
ライ金嬢によれば、神託というらしい。
まるで大昔のロールプレイングゲームみたいに、一文字ずつ、文章(ふりがな付き)が表示されていく。
『告ぐ。東の森より害意持つ小鬼が溢れ出る。直ちに之を鎮めるべし。成れば、世界は進まん』
そして、ヒトリモがこちらへ耳打ちしてきた。
「私の元にはストーリーイベントと来ている。参加するもしないも自由らしいが、ギルド経由で報酬があるらしい」
ふむ。じゃあ、まあ。やるか。
いや、報酬に釣られてとかではなく。センカさんが居るクランがなんの戦果も(ダジャレじゃないよ?)挙げていないのは体裁が悪い。
……センカさんのために、と言った手前、寡占(ダジャレじゃないよ!)とか独占とかそういうレベルで戦果を挙げたいものだけど。
でもまあ、ちゃんと片付けをしてからね。
ライ金嬢のラストスパートによりほぼほぼ空になった弁当箱とブルーシートをアイテムボックスにしまう。
スキル、遠見。単純に視界が広くなるだけのスキル。……でも、私が使えば、実質的に射程距離が広がると考えていい。
今回は偵察としての起用だけれども。
だいたい数キロ程離れた森。そこから小人……ゴブリンって言ってたね、アナウンスは。そのゴブリンが溢れ出てきていた。いや、溢れ出るなんて生易しいものじゃない。挽肉がみちみち出てくるみたいに、木々の間からぎゅうぎゅうとゴブリンが出てくる。
「ヒトリモ、ゼラ。魔法の射程はどれくらい?」
「無理して二、三百メートルといったところだ」
「同じくですね〜。それ以上は無駄が多すぎます」
ふむ。流石に魔法勢はまだまだ届かないな。届くところまで行くか行かないか。
……どちらにせよ、個別に行動して各個撃破されるのは阻止したいから、皆でまとめて行動ということになるか。
「じゃあ、進もう」
ただのゴブリン自体、強い飛び道具を持っている訳でもないし、特段の強化がなされていなければ、遠距離からなら的でしかない。
「とりあえず、魔法が届く程度まで距離を詰める。いいかな?」
……皆頷く。概ね同意らしい。
「オーケー。じゃあ前進だ。魔法の射程距離に入るまでは私が数減らしておくからねー」
ということで、破城弓を取り出し、ゴブリンナイフを射掛ける。ついでに拡散射と矢降雨を発動。
今日の天気は晴れ。ところにより刃の雨に注意ってね。
と、ヒトリモが話しかけてきた。
「アラシェ、悪いが、な。今何が起きているかを把握してる奴は居ない。お前以外ではな。ゴブリンが森から出てきた、からどうなんだ? 私たちにはゴブリンの視認すら怪しいな」
そして小声で、森から何か出てくるのは分かるが。と呟く。
「そっか、まだ見えないのか。皆。ふむ、そりゃあ仕方ない。もう少し進めば見えるようになってくるとは思うから、進もうか。それまでに説明するよ」
盲点だった。そりゃあ、見えないわ。
「神託によれば──いや、よらなくてもいいけど。森からゴブリンが溢れ出ている。ここまでは分かるね」
喋りながらも、敵陣に雨を降らせる手は止めない。
「数は不明。少なくとも、森から出てくる量が減っているようには見えない。出てきた奴らは減らしてるけどね」
モンスターの死骸は掻き消える。だから、上手く雨を降らせられたのなら、ミステリーサークルが出来る。直ぐに埋まるけど。
ゴブリン達も、雨が降ってくる方向程度は分かったらしく、こちらを向いては居る。まあ、こちらを視認出来ては居ないようだけど。
「距離としては、大体……三キロくらいかな。あっちも前進してる。思ったよりも早く接敵するよ」
ん、端っこで数人が戦い始めてる。混戦になって狙いが付けられなくなる前に少し支援してあげよう。
しばらくして、クリスちゃんが声を上げた。
「だいぶ見えるようになってきました。大軍勢であります」
うん。ほんとにその通りだ。
「そうだね。ゴブリンだけじゃなく、ハイ・ゴブリンだっけ? そういう大きいやつもちらほら出てきた」
まあ私の敵ではないけれど。……。
「しかしアラシェ、敵はまだまだ遠いのではなくて? このペースでは日が暮れてしまいますわ!」
「うーん、確かにそうだけどね。走るとしても支援姉妹に合わせてになるよ? 彼女らの負担も増えちゃうし」
ゆっくり行軍が一番だよ。多分。
そうしたら、ヒトリモが口を挟んできた。
「待て、ライ。走るのは待て。走るのはだな、……待て」
珍しく……いや、特に珍しくもないが、ヒトリモが慌てた顔になる。
「あら、ヒトリモちゃんは走るのが苦手でしたの?」
「に、苦手という訳では無い。断じてな。断じて。……ただ少し、装備の重さが嵩むだけだ。苦手という訳では無い」
にしてもやっぱり、ヒトリモとライ金嬢はどうしてこんなに仲良くなったんだ……?
初対面は最悪レベルだったのに、記憶する限り、確か一晩でヒトリモにちゃん付けするようになっていたはず。
この戦いが終わったら、聞いてみよう。……死亡フラグではない。
ゴブリンもこちらを視認して、矢を射掛けてくるようになった。
とはいえ、まだまだ離れているからか、ゴブリンの腕が問題なのかは分からないが、届きはしない。それに、さっきは一組だけだった近接パーティーも増えてきてる。私たちにかかりっきりになる訳にもいかないだろう。
おっと、そろそろかな?
「ヒトリモ、ゼラ、どう? 届きそう?」
「うむ。届くさ。届かせる」
「届きますよ〜!」
重畳重畳。
「じゃあ魔法隊も攻撃開始。人は巻き込まないでね?」
「了解!」
「コロンちゃんには防御系のバフをお願い出来るかな?」
「出来ますです!」
「よし、じゃあお願い」
「はい! 『堅牢の盾』!」
コロンちゃんの防御魔法。ヒトリモたちの少し前に、円形でオレンジ色の薄い膜が発生する。
大体半径四メートル程だ。下の半円は大部分埋まっているけれど。
……ところで。
「……ライ金嬢、あの壁ってこっち側からの攻撃は通るの?」
「通りますわよ? ほら、ゼラの拳がすり抜けましたわ」
あ、ほんとだ。ヒトリモが銃型の杖(?)から放つレーザーも問題なく貫通している。
まあ、とライ金嬢は話を続ける。
「防御魔法と言えば、体にピッタリ張り付く形態が一般的でもありますしね。内から外に向けて通り抜けること自体、少ないですもの」
……へー。そうなんだ。そっちのが一般的なんだ。全然知らなかった。
などと、たわいない話をしている間も射撃の手と前進の足は止めない。
そして届くようになったゴブリンの矢、しかし防御魔法の前に儚く散っていく。
戦況もだいぶ変わってきた。
プレイヤーはだいぶ数が集まったようで、ゴブリンの進攻とせめぎ合っている。拮抗状態というわけだ。
いやしかし。ゴブリンというモンスターはとても弱い。辛うじてレベル二桁、なんてプレイヤーでも一撃で倒せたりする。
少なくともストーリーイベントに集うようなプレイヤーが手こずったりする相手ではない。武器の一振で二、三匹も倒せるだろう。……それでも、拮抗状態。
つまり、とにかく数が多いのだ。一振で二、三匹なんてちまちまやっていてもキリがない。
事実、ヒトリモは貫通するレーザーで縦に何匹も倒しているし、ゼラさんの拳魔法は一撃でこそ倒せる敵は少ないが、そこは手数……文字通り、手数でカバーしている。
私もずっと射続けているけど、やっぱり減らない。増えないだけマシって感じだ。
やっぱり大将を討ち取らないといけないかなー。どうだろ。
……まず大将どこ?
そうこうしているうちに、ライ金嬢が体にピッタリ張り付く防御魔法とやらを受けてから出撃して行った。
ヒトリモとゼラは相変わらず魔法攻撃しっぱなしで、コロンちゃんは魔法の維持を頑張っている。
フェルデナさんとクリスちゃんは待機中だ。多分今回はずっと待機だけど仕方がない。ゆるして。
一方、私は千里眼を使って敵陣視察をしていた。
ただ単に視力が上がるスキル:遠視、それに加え透視能力の追加をしてくれるスキル:千里眼。同時発動の大盤振る舞いだ。
ゴブリンがぎゅうぎゅうと詰まっている中、たまに見るデカいハイ・ゴブリン、これがただのゴブリンからだいたい頭数個分くらい飛び抜けた身長だ。いわゆる大人だね。
こうなると、多分王人が大将だとは思うんだけど、まだ姿が全く見えないね。
「ねぇ、フェルデナさん。ちょっといい?」
「はい。なんでしょうか?」
「三メートル弱くらいの身長のゴブリンって何て言う名前だっけ?」
大人が大体二メートル弱。王人は三メートル弱程度だったはず。王人の正式名称を知らないので、一応聞いておこうかな?
「ゴブリン・コマンダーです。……言われてみれば、確かに首魁然とした名称ですね」
……へー。確かに、っぽい名前だね。
王人のやつ、指揮官でしかないくせに王冠被ってたのか。あの野郎。
まあ確かに、ドロップ品は王冠じゃなく短剣だったね。そういうものなんだろう。
短剣で思い出したけど、(さっきまで射てた短剣では思い出さなかった)情報屋の若おっさんは王人の短剣を見て驚いてたよね。確か。
とすると、カイハージ街ではあの短剣の供給が少ないんだろう。つまり、カイハージギルドにいるNPC冒険者では王人には敵わない……のかも。
理不尽レフジーズでも狩りに行かないとすれば、ライ金嬢ひとりでは少し荷が重いかもしれない。彼らより強いと分かっているとは言ってもね。
無論、ヒトリモや支援姉妹とかち合ってしまえば相当な被害になるだろう。
フェルデナさんは多分勝てる……知らんけど。ゴブリンつっても人型だし。多分勝てそう。
ともかく、王人は接触する前になんとか仕留めてしまいたい。
だいぶ森の中心近いところまで眺めているが、それらしい影が見える前に大軍の端が見えてしまいそうだ。
ゴブリンが疎らになって……って、居た。王人。軍勢の一番後ろ……なるほど。
森のおかげで後ろの防御は考えなくてもいいから一番安全な最後尾に陣取るぜー、ってことだな? こすっからいヤツめ。
葉が邪魔で狙撃できない。……なんてことは無い。貫通射を使う。木の幹は貫通できないだろうけど、枝の数本程度なら問題は無い。ましてや葉っぱなんてね。
千里眼と遠視のダブル補正で狙いは正確。
渾身の力で引き絞って、射る!
(自分で言うのもなんだけど)お見事! 私の矢は王人の喉元を撃ち抜く。
すると、またもや、ヴォンという音と共に薄青の神託パネルが開いた。
『告ぐ。悪鬼の討伐は成された。小鬼の勢いも直に失せるであろう。大儀であった』
しばらくすると、神託どおり、ゴブリン達は波が引くように森へ戻っていった。
うん。これにて一件落着! というやつだ。
……というか。勝利条件が雑過ぎない? あのままゴブリンを馬鹿正直に狩っていっても、王人が出るまで何日かかることか。
実はボス倒したらいいのでザコ敵倒す必要はありませんでしたー! ってそこらの頑張ってるプレイヤーに言えないでしょう!?
とりあえず、帰ろう。ライ金嬢を回収して、ヒトリモとゼラを労って、帰途に着く。
「どうだった、皆。楽しかった?」
「えぇ、ええ! とても楽しかったですわ! 敵の大軍に切り込み圧倒する! まさにキスタドルですのよ!!」
「ああ。楽しくなかったと言えば嘘になろうか。なに、苦ではなかったさ」
「いっぱい支援しました!」
ライ金嬢とヒトリモ、それにコロンちゃんはご満悦の様子。
「私はもう少し骨のある相手とやりたかったですね」
ゼラは不完全燃焼? なのかも。
「クリスは何も出来なかったであります……」
クリスちゃんはご不満の様子。
回復が必要になるほどの傷を負うような戦いじゃなかったからね……。
杖、祕翼・攣理は二本でひとつのペア武器だから、クリスちゃんは近くにいるだけで意味があったんだけどね。まあ、目に見える貢献はさせてあげられなかったしなぁ。
しゃあない。ご機嫌取りをしよう。恒例のアレでね!
「クリスちゃん」
「……はい、なんでありますか?」
そ、そんなしょぼくれたような怯えたような目で見ないでくれー。
「今回は活躍させてあげられなくて、ごめんね?」
「いえ、……気にしてないであります」
絶対気にしてるでしょう、その顔。
「お詫びにかえて、という訳ではないけれど。クリスちゃん、スライムを飼いたいって言ってたでしょう?」
「それは……まあ、言ったでありますが……」
アイテムボックスから、やっぱり詰まっていたスライム瓶のひとつを取り出す。
「はい。これあげる」
「これは……?」
「生きたスライム入りの瓶。家で開けてね」
クリスちゃんの喜色満面を見届けて、思う。
──生きたスライムの瓶詰めってどういうことだ?
【用語解説】
〇光撃
ゼラの基本技。光属性の攻撃。光の右腕を振り下ろし攻撃する。
〇スライム
野生のスライムは、ごく稀に死人が出る程度の危険度を誇る。テイムされたスライムや生スライム瓶から出たスライムなどは人馴れしているので安全である。
〇牛面の小トカゲ
モー獣・リザードという。ゴブリン程度の雑魚。
〇牛面馬脚トカゲ
モー獣・リザードホースという。雑魚は雑魚だが、HPが高く集団で戦わねばならず、その分その他の能力が低い。ゆえに、ただただ固く多く経験値も不味い敵として不人気。
ただ単に見た目も好まれていない。哀れ。
〇《五元大属撃》
ヒトリモの考えたつよいわざ。基本五属性(火水木光闇)をごちゃ混ぜにしたエネルギーで殴る。多分。
ちなみに、エテモロジーは英語で『語源』の意。
〇殴り魔法
拳法術のこと。他にも、拳魔法などと呼ばれる。
〇牛馬トカゲは猪突猛進……?
この牛なのか馬なのかトカゲなのか分からない生物、猪の可能性も内包している。
〇襲ってこないとはいえ
そう。牛面トカゲはノンアクティブである。不意の戦闘がないため、やはりスルーされるさだめ。不人気モンスター扱いに拍車がかかる。
〇ワサビ入り
可愛らしいイタズラである。
〇神託
システムメッセージのNPC解釈。今回はカイハージ街周辺のみに向けられている。
〇ストーリーイベント
何処かアラシェの知らぬ所でフラグが立ち、発生した。
主人公アラシェの預かり知らぬところでストーリーは進むのだ。
〇ヒトリモちゃんは走るのが苦手
ヒトリモちゃんは走るのが苦手。
〇恒例のアレ
前回は失敗している。




