第十二話:こんなに弄られるのなら……愛などいらぬ!
前回のあらすじ
アラシェ、寝過ごす。
ゼラ、飲み込まれる。
センカ、健気に寝る。
真夜中よりも、早朝の方が寒いらしい。地面の熱がどうこうといった理由があるらしいけど、今回はそうでもなかった様だ。
私は、肌寒いとかではなく、凍えて起きた。
あまりにも寒いので、一夜にして氷河期でもやってきたかと思えば、なんのことはない。ただ布団を持っていかれていただけだった。……ゼラさんらしき人に。
奮発して買った大きめの敷布団の上、私の横には掛け布団の布団巻きになったゼラさんが寝ていたのだった。
揺すっても揺すっても起きないので、とりあえず放置して撤収作業をしよう。
ブルーシートの上に乗っているスライムどもをぽいぽいと適当に投げ払う。
……構って貰えたとでも思ったのか、投げた端から帰ってきてちょっと時間がかかった。ゼラさんは別に起きなかった。
ブルーシートと敷布団をアイテムボックスに回収……して。ゼラさん巻きを小脇に抱えて撤収する。ゼラさんはやっぱり起きなかった。
最寄りの門に着いた。
今日の門番さんは知らない人だな。ちょっと会釈して通り抜けよう。
と、思ってたけど。あっちから話しかけられた。
「すみません、貴方、アラシェさんですね?」
はい。私がアラシェさんですね。
「はい。何かありました? 指名手配とか?」
「いえ、そういう訳ではありませんが。貴方を探しにゼラという冒険者の方が昨晩出ていった様です。ご存知ありませんか?」
「あぁ、これの事ですね。心配はありません」
布団巻きを少し広げてゼラさんの顔を出してやる。
まだ寝てるけど。
「保護してくださっていましたか。ありがとうございます。では、お通りください」
くそ真面目って感じの門番さんだったな。
大通りをしばらく直進して、途中で右折。また道なりに進んで、家が見えてくる。
この時間帯なら、まだ皆家に居るはずだよね。
「ただいまー! 帰ったよー!」
パタパタとスリッパの音を立てて、センカさんが走ってきた。……料理中だったのか、包丁を持ったまま。
「アラシェさまーっ! おかえりなさーい!!」
「ちょっと待って危ない危ないから包丁下ろして!?」
一瞬、『はっ!?』の顔となったセンカさん。無論、玄関に包丁を置く場所などなく、仕方なしに後ろ手に回した。
「アラシェさま、ちゃんと夜には帰ってきてください」
「あはは、ごめんね。寝過ごしちゃった」
「次は許しませんからね! ……ところで、その傍らの棒のようなものは……?」
「ああ、これは──
と、ゼラさんのことを説明しようとした時だった。
居間から出てきたライ金嬢が切迫した表情になって言った。
「アラシェ、逃げなさいッ!」
「えっ?」
「センカ嬢が包丁を隠し持っていますの! さっさとお逃げなさいなッ!!」
そして、言いつつ、護身用と思しき刃引きした片手斧を取り出した。
センカさんもセンカさんで慌てて包丁を持ったまま「こ、これは違うんです! そもそもこんな時間に帰ってくるアラシェさまがいけないのです!」とか言い出すし、ゼラさんは寝てるし、ライ金嬢はセンカさんを睨みつけて動かないし。
……朝からなんて状況なんだ。
あれから、ライ金嬢の誤解を解くのに大分時間がかかった。
で、誤解が解けたら解けたで布団巻きの説明を要求された。
「これは……帰ってくる前に保護してきた」
嘘ではないはず。うむ。
「あら、そうでしたの……。まあ、行き違いにならなくてよかったですわ」
ライ金嬢がゼラさんの頭を撫でる……と見せかけてチョップした。
そうしたら、ゼラさんの目が見開かれた。
「はっ!? ……ここはどこ!? 私は露天布団で寝たはずなのに!?」
……。
しばらくの間、ライ金嬢の怒声が響き渡ったのは仕方のない事だろう。
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センカさんが抜けたあとの調理はと言うと、ゼラさん以外のメイド衆が引き継いでくれていたようで。ライ金嬢が落ち着いた頃にはもう完成していた。
包丁をちゃんとしまったセンカさんも合流し、昨日の朝ぶりになった食事をとる。
「ところで、センカさん」
「はい、なんでしょう、アラシェさま?」
「なんと言うか……私とゼラさんだけ食事の量が多くない?」
「今日の朝御飯と昨日の晩御飯分ですね」
微笑みながらセンカさんが答えた。けど、あの、センカさん。目が笑ってないです。
どうにかして機嫌を取らないと……おこセンカさんを何とかしなければ……!
センカさんの見送りに出る。
機嫌直してもらおう作戦は玄関先で実行だ。
「では、いってきますね」
「センカさん、ちょっと待って」
「はい?」
この作戦、肝要は私のアイテムボックス中にある。
スライムと戯れると何故か増えるスライム瓶。中でもこいつだけはアイテム名からして違っていた……その名も、虹色スライム瓶。普通のスライム瓶に比べて一回り小さくて、その代わりに中身が虹色なのだ。
このレア品を奉じて機嫌を取る……っ!
「これ、あげる」
「えっ、ありがとうございます?」
「うん。本格的に戦闘に出向くとなると、一日やそこらじゃ帰って来れないかもしれない。そのときに、私の代わりだと思ってくれればなぁ、と」
センカさんは少し眺めた後、笑顔でありがとうございますと言ってポーチにしまった。
作戦成功か……?
「売ったら幾らくらいになるでしょうね?」
「せ、センカさんごめんなさい……! 私が悪かったです……許してください……!」
そんなにチョロくない女、センカさん。
「次からは、ほんとうに、こんなことが無いようにしてくださいね」
センカさん……!
「では、行ってきます。アラシェさま」
「行ってらっしゃーい」
……機嫌取れたかな?
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窓の外を眺めながら、私は思案していた。
機嫌取れたかなぁ。あー。心配だ。機嫌直ってるかなーセンカさん。はぁ……。大丈夫だろうか。はーー。
「僭越ながら、ライ様。あちらはどういった状況ですか?」
「センカ嬢の機嫌取りに失敗したらしいですわ」
「なるほど」
外野が何か言っているけど、機嫌取りに成功したか分からないからこんなんになってるんだからな!
別に失敗したから凹んでるわけではないやい!
「まあ、ちょうどいいですわね。暇そうで」
「暇じゃなーい! 私は真剣に後悔してるんだぞー!」
「暇そうですね、アラシェ氏」
ぐわー。フェルデナさんに言われると、そうなのかもと思ってしまう。
「そうか。私は暇していたのか……」
「わたくしとフェルデナの扱いの差が酷いですわ……!?」
ライ金嬢はそっぽを向いてしまった。
「アラシェ氏、ライ様が拗ねてしまわれました。放っておいても宜しいですが、ここは何か言葉をかけていただければ」
「……フェルデナ。あなた、わたくしのメイドでは無いのかしら。もう少し恭しくは出来なくて?」
「……ライ様。僭越ながら、私は、正確にはクランに所属するのみの冒険者にございます。……ご存知でしょう? 媚びを売るならば、クランリーダーに売った方が稼ぎに直結しましょうよ」
うーん。ライ金嬢、従者ポジに弄られるタイプなのか? 愛ゆえに、なのか?
ライ金嬢は一瞬絶句したような顔になったけど、すぐに気を取り直して口を開いた。
「まあそれはいいのですわ。一旦置いておきましょう」
いいの!?
「明日の話をしますわ」
あ、はい。ライ金嬢、切り替えがはやい。
「知っての通り、我がクランには盾役が居りませんわね?」
「ああ、確かにそうだね」
「はい。ですから、アラシェには有事の際に対応できるよう、小さくとも良いので盾を持ってもらおうかと思っておりますの」
ふむ。
「つまり、クリスコロンを守るための盾役ってことかな?」
「その通りですわ。敵自体をクリスコロンのところまで抜かすことは無いでしょう、この面子であれば。しかし、放たれた飛び道具を撃ち落とすことは困難でしょう?」
確かにそうだ。まあ出来ないことはないだろうけど、それにかかりっきりになるのも何か違う気がする。
「ですから、今日も買い物ですわ。クリスコロンとゼラには留守番を頼みましょう」
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カイハージ街は四方、つまり東西南北に門がある。
そのうち、東側の平原は敵が弱い上、この門から出ても大した場所には到着しない。強いて言うなら、ここらで一番強い敵が出る『森』は東門がいちばん近いかな。
北は、敵が弱いのは東側と同じだけど、街道が続いている。どうも、ステイアルトという街に繋がっているらしい。
西はある程度モンスターが強いけど、街道は通っているらしい。……が、ライ金嬢をはじめフェルデナさんもあまり知らないのか、そんなに話してはくれなかった。
そして南。こちらはモンスターが強く、さらに王都に繋がっているらしく、外は結構賑やかだそう。王国だったんだねここ。
それに乗じて儲けを出したい冒険者向けの店々は、基本的に南門から中央にあるギルドにかけての大通りに構えているらしい。
という訳で、武具を買おうと思ったら南に行くのが定番なんだと。
「ごめんくださーい」
南通り、ギルドに程近い防具屋に入店。
「はいはい。何用かね?」
すると、それなりに筋肉のついた防具屋のおっさんって感じのおっさんが出てきた。
「盾ってあります? 軽めのやつ」
「ああ、あるよ。ちょっと待っとれ」
ちょっと待ちます。
ライ金嬢とフェルデナさんは陳列棚を覗いていた。
「何か欲しいものはあった? クランリーダーとして買ってあげることも吝かでない」
「いえ、特にありませんわ」
「では、アラシェ氏。私はこれが欲しいです」
と言って、フェルデナさんはナイフのストラップを三つほど渡してきた。
「な、フェルデナ……! それがいいのでしたら、わたくしだってこれを!」
そして、対抗するようにライ金嬢が斧と弓矢のストラップを渡してきた。
「僭越ながら。ライ様、私のこれは暗器としての使い道がございます。装飾品としてではございません」
「なっ。わ、わたくしのこれも使い道が……!」
「あー、いいよいいよ。二人とも。クランの武器維持費扱いで出しておくから」
にしても、防具屋ってストラップなんて売ってるんだね……。私もこのデフォルメオオカミのストラップ買おうかな。経費で。
と、雑談をしていれば、おっさんが戻ってきた。
「よっこい。軽い盾と言やあここらへんだな」
ふむ。大分ある……けど、私が常に持ってなきゃいけないわけだし、持ち手で保持するタイプは不向きかな。
腕に固定できるやつの方がいいと思うけど、そう見ると思ったより少ない。
「すみません、この腕に固定できるタイプのはこれで全部ですか?」
「ん? そっちのが好みか? そこに出てるので全部……いや、ちょっと待て」
と言って、おっさんは持ち手付きの方をまとめて持っていきつつ、カウンターの裏手に消えた。
しばらくして、二つの盾を持って出てきた。
「これも固定できるやつだ。ちょっとばかり癖が強いがな」
「なんですの、これは……」
ライ金嬢も気になって寄ってきたようで、一つ持ち上げて見ている。
「何かおかしなところでもあった?」
「おかしなところというか……この盾、盾? なのでしょうか? 側面が刃になっていますわ」
……?
大して大きくはない逆三角形だけど、持った時に拳側に出る二辺の縁が鋭い。刃物になっていた。
「はっはは、驚いたか。今持ってきた盾二つとそこの棚のストラップは渡界人が持ち込んだ物だ。盾はどっちも独特の性能をしてやがるよ」
そういえばもう一つの盾は……フェルデナさんが弄っていた。
だいぶ分厚い盾だなー……。
フェルデナさんが何か操作している。
「ライ様、少しよろしいでしょうか?」
「ん? 何かしら?」
ライ金嬢が近づく。すると、フェルデナさんはおもむろに盾を構えて、
「はっ!」
掛け声をあげる。
と同時に、盾から鈍色の何かがガシャンという音と共に射出された。
「ぴっ!?」
さらに同時に、ライ金嬢から悲鳴があがった。いや、悲鳴にしても『ぴっ!?』ってなんだ。鳥か?
射出された鈍色は、金属製の杭のようだ。まあ、射出と言っても飛んでいくわけではないようで、フェルデナさんが何かしら操作すると、金属杭はスルスルと機構内に戻って行った。
「にしても、そんなメカニカルな盾でガードなんてしても壊れないのかね?」
「そうですね……。それで壊れてしまえば盾としては及第点以下、武器屋に売った方がよいでしょう」
どうなの。という視線でおっさんを見つめてみる。
「どうなんだろうな、それ」
店主ぅ!?
「『金が足りんから買ってくれぇー』と懇願されて、結構な安値で買ったモンだからなぁ。試してみるか? ほれ」
言うと、店主は刃引きされた片手剣を投げてきた。
「別に壊してもいいぞ。売る気すらなかったからな」
と言うので、とりあえずフェルデナさんが怪我しない程度の力で切りつけてみることに。
「いくよ?」
「ええ、どうぞ。構いません」
剣を適当に振り下ろす。
はじめに、ガンッと音がした。
……次いで、盾の内部から、ガチャンだのガコンだの機械的な音が繰り返し鳴る。
「明らかに、内部的に何かが起こっている」
「ですね……。ライ様、ちょっとよいでしょうか?」
「よくないですわ」
という事で、店の裏庭を借りてもう一度杭を出してみることに。
店内で暴発されても困るしね。
フェルデナさんが地面に向けて構える。そしてまた何やかんや操作して、言った。
「行きます。はっ!」
鉄杭が射出されると同時に、先程とは大違いの轟音が鳴った。さらに言えば風圧が発生した。そして土煙が舞った。
煙が晴れると、そこには大きな大きなクレーターが生じていた。フェルデナさんは無事のようだが、反動で吹っ飛ばされたのか、だいぶ離れた位置でへたりこんでいる。
この惨状を見て、私には言いたいことがあった。
「おっさん……普通のやつ、頂戴?」
「……おう。安くしとくよ」
【用語解説】
〇布団巻き
主に肌寒い時期に見られる、ふわ体生物。
外部から圧力をかけすぎると窒息死、圧死のリスクがあるため、そっとしておくのがよい。
〇こんな時間
料理時。罷り間違っても、朝帰りを咎め包丁で脅すセンカさんは存在しない。
〇露天布団
外気温がいい感じのシーズンのみに許される極楽娯楽。
〇虹色スライム瓶
虹色スライムが封入された瓶。
色にかかわらず、スライム瓶入のスライムは開けた者に懐く性質が見られている。
貴族のペットとして人気だったりそうでもなかったりする。
〇出来ないことはない
出来ないことはない。
〇ステイアルト
いわゆるはじまりの街のひとつ。
由来はStartより。
〇王都
おうさまがいる。
〇ナイフのストラップ
研いで投げたら刺さる。かもしれない。
〇デフォルメオオカミのストラップ
撃墜マークとして?
〇ぴっ!?
驚くと、鳴く。
〇普通のやつ
シンプルイズベスト。




