第十一話:主役は遅れてやってこない。
前回のあらすじ
自己紹介して、ヒトリモをからかって、お礼参りをした。
暇だ。
とても暇だ。
うーむ。天気もいいし、日光浴でもしようかな。
お金も有り余っているわけだし、布団も一式買っちゃおうかな〜。
ん〜! 贅沢しちゃうぞー!
家具屋通りに行って布団を買い、ついでに撥水であろうブルーシートっぽいやつも買う。
ロケーションは広場、日光を遮るものがなくて、出来れば人目もないといいな。どこが良いだろう。
……街の外とかどうだろうか。スライムが湧く辺りなら草原だし日当たりも良好、敵も脅威じゃない。
よし、いってみよー!
街を出て数分かそこらで日当たりのいい丁度いい斜面を発見。
ブルーシートを敷き、その上に布団をドサッと。
設営完了。
ではおやすみ。
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昨日、流されるままに早退してしまったので、今日は仕事が多かったです。
ですが、この仕事もアラシェさまのためと考えれば苦にはなりません。むしろ、望むところですとも! えぇ!
それに加えて、家に帰ればアラシェさまが待っているのです。頑張らない訳にはいきませんよね。
胸ポケットに入っているアラシェさまのギルドカードは、私の力の源なのです。
今日も皆の目を盗んで眺めていましたが、相も変わらず輝きが失われることはありません。
さて。帰路に着いた私ことセンカですが、なんとなく、上手くは言えないのですが、嫌な予感を感じていました。
実際、家に着けば、その予感が的中していたことが発覚します。
「センカ嬢。まずは、おかえりなさい」
ライさんが出迎えてくれました。
「ただいま帰りました。ところで、アラシェさまは何処にいらっしゃるのでしょうか?」
「その事なのですが……」
と言い、ライさんは一枚の紙切れを手渡します。
えーっと、
『天気がいいので日光浴に行ってきます。アラシェ』
だそう。
「まだ帰って来ていない、という訳ですか?」
「えぇ。その通りですわ」
やれやれ、といった風にライさんは頭を振ります。
アラシェさまは少し抜けているところがあります。そこも素晴らしく可愛いポイントなのですが……。
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肌寒い。
周りに集っていたスライムをちょっと除けてから、アイテムボックスに入れておいた掛け布団を出す。
おやすみ。
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「センカ嬢、わたくしには選択肢がありますわ」
「と、言うと……?」
「すなわち、探しに行く、もしくは、放っておく。──アラシェならば一晩越す程度は問題ないのでしょうが……」
確かに、そうです。アラシェさまは数日をまたいで狩りに出かけることもありました。
「しかし、アラシェを探すには人手が足りません。クリスとコロンは方向音痴なので自宅待機。センカ嬢も危険ですから同じく」
「えぇ、仕方ありません」
「ですから、放っておきましょう。……と、言いたいところではありますが」
一旦話を途切ったライさんは、手を二度叩いた。
すると、二階からドタドタと音が聞こえてきます。
「呼ばれました、ゼラです!」
するとどうでしょう。ゼラさんが階段をバタバタと駆け下りて来ました。
……失礼なので言いはしませんが、これで使用人という役を務めきれるのでしょうか……? いえ、言いませんが。心の中に留めておきますが。
「ゼラ、じゃんけんですわ」
「は?」
私は驚きました。いきなりじゃんけんなどと言い出したライさんにも勿論驚きますし、主人に対し『は?』と返答するゼラさんにも驚きました。
……失礼なので口には出しませんが、これで使用人という役を務めきれていたのでしょうか……? いえ、口に出しませんが。個人の感想ですが。
「主人の言うことには逆らわないこと! いきますわよッ! じゃんけん、せいァっ!」
やけに威勢のいい掛け声と共に出されたパーは、ゼラさんが出したチョキを順方向に握りつぶします。
「ゼラの負けですわね。では、アラシェを探しに行くこと。日当たりのいい草原で昼寝をしているらしいですわ」
「すみませんお嬢、話が見えません」
私としては、じゃんけんの結果に納得がいかないのです。
いえ、まあ、本人は気にしていないようですが。
「アラシェが日光浴に行ったきり、寝過ごしたのか帰ってきませんの」
「なるほど、ではアラシェさんを探しに行けばいいのですね?」
「……最初に『アラシェを探しに行って』と言ったはずですわ」
と、何処と無く不毛なやりとりを経て、ゼラさんにアラシェさまを探しに行ってもらうこととなります。
ライさんはこちらへ振り向き、言いました。
「暇した使用人が居りますの。仕事を作り出すのも主人の役割ですわ」
その姿は、紛れもなく、使用人思いの名君でした。
「ところで、じゃんけんのくだりにはどの様な意味が?」
「それは──えぇ。ゼラは偶にこき下ろさないと調子に乗ってしまうのですわ。仕方ないことですの」
なるほど! 使用人の扱い方を心得ていますね。
「では、ゼラが帰ってくる前に夕餉の支度を済ませてしまいましょう」
「そうですね。手伝います!」
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アラシェさんを探しに、と言っても。
手がかりは日当たりのいい広場、とだけ。
そもそもこの時間、日は昇ってないですし。月当たりのいい広場を探さねば。
とりあえず、東北東ブロックと北北東ブロックの公園を虱潰しに当たるけれど、成果はない。
休憩しよう。腹が減っては戦ができぬとも言うし。
それに、渡りに船でちょうど居酒屋がある。
「おっさーん! 串焼きみっつ!」
「はいよっ! ちょっと待ってな!」
思ったより繁盛してる。
男性客ばっかりなのは予想の範疇だけどね。
キョロキョロ見回してたら、声をかけられた。
「おうおうそこの嬢ちゃん、一丁酌してくれや!」
ボックス席の酔っ払いだ。……いいこと考えた。
「いいですよ〜。でもお代は貰いますからね!」
席に寄っていって、未開封の瓶を一本開ける。
ボックス席の酔っ払いどもに一杯ずつ注いでやる。
「おー、どうもな別嬪ちゃんよぅ」
「いえいえ、礼には及びません。──お代には及びますが。というわけで貰っていきますね、これ」
「へっ?」
酒ゲット。
ちょうど串焼きも焼きあがったらしい。
「ほらよ! 420Gだ」
「ほい、どうぞー。ごちそうさまです」
受け取って、店を後にする。
にしても、見つからない。アラシェさん。
東ブロック、東南東ブロックにも足を伸ばしたけど、見つからない。
もう家に帰ってたりしてないかな、これ。
東ブロックの大通り、流石に天下の往来で昼寝するほど頭イカれてなかったとは思うけど、念の為くまなく確認しつつギルド方面へと向かう。
流石に大通り、渡界人もある程度歩いてて、そんなに静まり返っているわけでもない。
なんか皆こっちを見ているけど、酒はやらんぞ。自分で買え。
それは、串焼きが尽きて酒も残り少なくなった頃だった。
魔道具の遠隔通話装置を持った騎士が向こうから歩いてきた。
「酒瓶を持った挙動不審の女を発見。連行する」
『了解』
こう、我関せずの精神で通り抜けようとしたけど、あえなくお縄です。はい。
有無を言わさず、というか言っても耳を貸してくれず、門前の詰所まで引っ張られてきた。
取調室の様な部屋で、騎士とタイマン張っている。
「近隣住民と渡界人から数件、通報があった。『酒瓶を持った女が大通りで何かを物色している』とな……。なにか弁明はあるか?」
「探し……探し者ですね。はい。人探しをしておりました」
「誰を探していたのだ。言ってみろ」
「アラシェという冒険者です」
「む、あのBランク上位のか。お前とどんな接点があるのだ?」
「えー、と。同じクランメンバーですね。これ、私のギルドカードです」
「少し待っていろ。照会してくる」
冤罪晴れそう。よかったよかった。
暫くして入ってきたのは、さっきとは別の赤髪の騎士だった。
「ギルドカードをお返しします。で、アラシェさんの事ですが。彼は今日──厳密に言えば、昨日ですね、外に出たっきり帰ってきておりません」
まさかの外。
たしかに敵は強くないけど、流石にその発想はなかったなー。
赤髪の騎士は続けて言う。
「彼のことでしょうから、きっとそのうち戻ってくるでしょう。それでも外へ探しに行きますか?」
「行ってみます。情報、どうもありがとうございます」
ライお嬢のご用命だからねー。行くしかないよ?
「夜は何が起きるか分かりません。お気を付けて」
再度、月当たりのいい場所を探す。日光浴に行くと言い残して森林浴に行っていたら為す術もないけど。
と思ったら、すぐに見つかった。
門からは勾配の関係上見えなかったけれど、割と近場だったよう。
……にしても、周囲に沢山のスライムが居る。しかも、誰一人(一スライム?)としてアラシェさんを攻撃しようとはしてなく。
さらに言えば、近づいた私にすら危害を加えようとしない。
それとは別に、近づけば分かるけど、アラシェさんは爆睡していた。起こすのが忍びない程の爆睡だ。
しかしここは心を鬼にして、
「アラシェさん、起きてください。真夜中ですよ」
アラシェさんを揺さぶる。
「……まだ夜じゃん……おやすみ」
……もう一回揺さぶる。
「何……? ……あぁ、そういうこと」
わかってくれたようだ。
アラシェさんは布団をめくりあげ、起き上がる──ことは無く。
私を引っ張って布団へと引きずり込むのであった。
「ごめんねー、まだ眠いから布団は明け渡せない……一緒に寝よう……」
いやーアラシェさんの力は強いなー引っ張られて起き上がれないなー仕方ないんだなー。
ゼラ、寝ます! 何気もう日付も変わって眠気もだいぶ来てましたので許してライお嬢おやすみなさい!!
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「遅いですわね」
「ですねー……」
時刻は夜十時を回りました。
二人が帰ってくる気配はありません。
「センカ嬢、明日も仕事があるでしょう? あまり夜更かしはしないようにすべきですわ」
「……そうですね」
久しぶりに一人で寝ることになりそうです。
なんとなく物寂しい気もしますが、たった数週間前では当たり前だった状況ですね。
そう考えると、アラシェさまが私に、如何に大きな影響を与えたのかが身に染みて感じられます。
ふふ、何となく、やられっぱなしは癪ですね。
私センカは、アラシェさまに少し大きないたずらをする決心をして、寝床につきました。
「おやすみなさい、アラシェさま」
【用語解説】
〇スライム
アラシェの持つスキル、《スライムの友》により、スライムは味方NPCと同等の扱いをされる。
具体的に言うと、敵意を持って攻撃しない限り敵対しない。
〇月当たりのいい
月光がよく当たること。周囲に比べ明るいことが多い……のかもしれない。
〇酒ゲット
限りなく黒に近いグレー。
〇頭イカれて
ゼラによるアラシェの評価:腕の立つちゃらんぽらん。頭ぱっぱらぱー。
アラシェによるゼラの評価:廉価版ライ金嬢。
※両者共に現時点での評価。
〇私のギルドカードです。
ギルドカードを携帯していない場合、本人確認に時間がかかるため、夜通しの取り調べが行われる。
〇夜は何が起きるか分かりません。
そう、寝ぼけた主人公とその布団に取り込まれる危険性すらある。
〇近づいた私にすら〜〜
《スライムの友》の効果がクランメンバーまで波及しているため。
〇ゼラ、寝ます!
現在時刻、一時過ぎ程度。
〇少し大きないたずら
アラシェからすると、ギルドカード没収より大きないたずらはない。
ギルドカード没収の影響力を舐めているセンカさんであった。




