第十話:ヒトリモの アピール下手さが まじ卍。解は裏の路地にあり!
前回のあらすじ
メイドが加入した。
クリスコロンの棒の正体は不明。
クラン名も決まっていなかった。
※前半の自己紹介は劇中で言及されていたことしか話しません故、読み飛ばしてもさして問題はありません。
「えー。急遽判明した新事実ですが……我がクランの名称がー、ですね、決まっていないという事で、あります」
ざっと周りを見渡すに──
『いやそんなこと知っとるわ』と言った顔のセンカさんとライ金嬢。
『へー。どうでもいい。』と言わんばかりの顔したヒトリモ、フェルデナさんにゼラさん。
『それは大変です! どうしましょう!』と慌てふためいた顔の支援術姉妹。
……支援術姉妹には後でお駄賃をあげよう。
「なんかそんなに興味無いって感じかな? じゃあ私が勝手に決めておくので……」
はい。
「自己紹介をします。私はアラシェ。このクランの責任者を務めています。得意武器は弓。えーっと、だから、後衛になると思う。よろしくお願いします。次はセンカさん、お願いね」
次はセンカさんに振る。
「センカです。このクランでは裏方を務めさせて頂いております。アラシェさまと皆さんの助けになれるよう精進いたします。よろしくお願いします」
「うんうん。じゃあ次はライ金嬢、お願い」
「ご紹介に与りました、ライ=キスタドルでございます。このクランの副責任者にしてキスタドル流前衛斧術が継承者ですわ。前衛向きではありますが、守るのは苦手ですの。よろしくお願い致します」
「ヒトリモ、どうぞ」
「ああ。私はヒトリモ。この中では場違いかもしれないが、渡界人だ。専門としては魔法術だが、まだまだ未熟でな。戦力としては心許無いかもしれないが、よろしく頼もう。あー、あと、そうだ。ちょっとした細工なら出来る。ナイフだりなんだりの数が欲しい時にでも言ってくれ」
「どうもね。じゃあ次は……そうだね、フェルデナさん。お願いね」
「承知致しました。フェルデナと申します。対人戦とナイフ投げしか取り柄のない者ですが、どうかよろしくお願いします」
「はい、どうも。じゃ、ゼラさん!」
「はい! ゼラです! 拳法術使いの前衛です! ライお嬢と違って守りもできます! 将来の夢は拳法術を普及させる事です! どうぞよろしく!」
なんでこの子はことある事にライ金嬢にケンカ売りに行くの?
まあ、いいか。
「次はクリスちゃんお願いね〜」
「は、はいっ! クリスであります! 支援術、特に回復魔法が得意であります! 皆さんをしっかり回復出来るよう、頑張るであります!」
うんうん。かわいいねー。
「おっけー。コロンちゃんもお願い!」
「はい! コロンです! 補助魔法がとくいです! お姉と一緒に支援します! よろしくお願いしますです!」
うむうむ。ようじょかわいいね。
「はい、ありがとうね。……当分はこの八人でやっていくことになると思うから、お願いね」
よし。自己紹介のコーナーはここで終了。
「そんでもって、次の話題は、これ。ギルド主催のクラン対抗戦。とりあえずチラシを貰ってきたから、回すね。読んでみて」
よし。一旦喋らなくていい時間だ。ごはんをたべます。実は今、食事中だったのだ……!
一周して戻ってきたチラシを受け取った。
「うん。私は参加する気でいるけど、反対の人は居るかな? 遠慮なく手を挙げて」
……なし、と。
「じゃあ、参加する方向で調整しておくね。で、それに備えてって訳でもないんだけど、クラン全員でどこかに出撃してみようと思うんだ。都合が悪い日がある人、挙手お願い」
ん、ヒトリモの手が上がった。
「明日明後日はあちらに戻らねばならん。それ以降ならば時間を作ろう」
「了解。他には?」
ライ金嬢が挙手。
「ヒトリモちゃんが居ない間にメイド衆の身の回りを整理しておきたいと思いますわ」
「そうだね……。じゃ、ライ金嬢にお願いしていいかな?」
「問題なくってよ」
「ありがとう。じゃあ、これ。渡しておくね」
幾らいるかな、と考えたけど。前回はギルマスの財布から掠めとったのであんまり覚えてなかった。
とりあえず四の倍数、160万Gくらいあればいいかな。アイテムボックスから出してライ金嬢に渡す。
「こ、これは……こんな大金受け取れませんわ!」
いや、令嬢、頑張れ。
そして、フェルデナさんがライ金嬢に言う。
「僭越ながら、ライ様。受け取るべきです。それは大金ではありません」
「そ、そんな事を言ってもですわね! これは重みが大金ですわ! お金ですわ!?」
……大変な思いをしたんだろう。
「僭越ながら。ライ様、ならば私がお持ち致します」
「わ、わかりましたわ。ですが丁重に扱うこと! それは大金ですわよ!」
「承知致しました」
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同日、皆が風呂に入り終わった辺りの時刻。
……なんなんだろう。この状況。
私は今、ヒトリモの部屋にいる。
「よし。そのままでいい。そのまま頼む」
ヒトリモの部屋で、膝枕をしている。
ヒトリモが、プレイヤー向けのイベント案内が来たから確認してくれ、と耳打ちしてきたから。
……着いてきたらこれだ。
プレイヤー向けのイベント案内とやらも、チラシに書いてあった以上のことは載っていないし。
もはや現在、ヒトリモを膝枕するためだけに居るような状況だ。
「アラシェ、ズボンが硬い。下を脱いでくれ」
「は?」
「あぁ、いや。下着は別にいいから。ズボンを脱いでくれ」
「いやそういう意味の『は?』じゃないけど!?」
「ならばどういう意味の『は?』なんだ……?」
ヒトリモ、どうしてこんな変態になってしまったのだ。
「私は明日明後日居ないんだぞ! ちょっとくらいいい思い出を土産に持たせてくれてもいいじゃないか」
「現実世界では半日だけどね」
「ぐっ。しかし昨日も一昨日も会えたのに半日会えないとなれば私の精神は崩壊してしまう」
「昨日一昨日は工房に行ってて日中全く会えなかったよね」
「むぐっ。わ、私はだな! アラシェの太ももに学術的な興味があるんだ!! だから見せて触らせてくれ!」
「嫌ですけど」
「ぐぬぬ……」
ヒトリモは大きく息を吐き、ならば仕方なし。と小声で呟いてから、膝枕から頭を上げ、こちらを向いた。
腕をピーカブースタイルにし、若干上目遣いにして若干の甘え声で一言。
「アラシェ、パンツ見せて!」
「うわ、きっつ」
……。
…………。
「あんまりだぁ!」
ヒトリモは部屋の隅まで走っていって、私に背を向けて半泣きでログアウト操作をはじめた。
ここで私は足装備を外す操作を始める。
ちょうど、ヒトリモのログアウト操作が完了するあたりで、私の下半身は心許ない布一枚になった。
「ヒトリモ、脱いだよ」
「えっ、ちょっと待っ──」
………………。
ヒトリモが振り向く前に、ログアウトは完了してしまったらしい。
(笑)
私は、ちゃんと装備を戻してからヒトリモの部屋を出た。
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朝、ご飯を済ませ。センカさんを見送ろうかと思った時に、"ソレ"の存在を思い出した。
"ヤツ"は、玄関にずっと居たのだ。
──支援術姉妹の白い棒。
不幸なことに、センカさんにはライ金嬢から話を聞いている暇などない。というか、ライ金嬢とメイド四人衆は既に出かけてしまった。
ので。私は自力で答を見つけ出そうと決心した。
「北の裏路地に答えがあるはず……。とりあえずセンカさん、一緒にギルド行こうか!」
「わかりました、アラシェさま!」
センカさんと隣合って歩く。
心做しか、道に粗末な防具の人間が多いように思える。
と、そこにセンカさんが言った。
「最近は渡界人の方も増えてきましたね」
「ああ、なるほど。これ皆渡界人かー」
ギルマスはこれらが原住の冒険者たちの脅威になり得るとか言っていたけど、まだ先な気がするね。
「きっと、クラン対抗戦では、ここにいる皆さんとアラシェさまが戦うことになるんですよね?」
「まあ、そうだろうね」
「私、応援してますからね。頑張ってください、アラシェさま!」
「うん。ありがとう。頑張るよ。センカさんの応援があれば百人力だ」
なんて、たわいも無い話をすれば、ギルドもそう遠くはない。
「じゃあ、行ってらっしゃい。センカさん」
いつの間にやら繋いでいた手を離し、センカさんを送り出す。
……ほんとにいつの間に繋いだんだろう。気づかなかったや。
不思議だ。繋いでいた方の手をにぎにぎしてみる。
北の裏路地にやってきた。
この街は、いわゆる放射環状路型と言われる形成式であるから、行き止まりというものが極端に少ない。
だから、目標の裏路地はたった数個に絞れた。
そのうち一つに、私の知っている店がある。
──そう、かの情報屋である。
「おはようございます〜」
挨拶をして入店。
「まだ開店時間じゃねぇ、出て──おう、あんたか」
「お久しぶりです」
まともなカフェとしての経営もしてるんだろうか、今はグラスを磨いている最中だった。
……いつも磨いてる気もするけど、気の所為だろう。
「で、何しに来たんだ? 生憎、飲み物は出せねぇな。まだ業務時間じゃない。店前で待っていろ」
え、なんか辛辣なんですけど。
「いや、違うね。聞きたいことがあって来たんだ。──とりあえず、これで」
怒犬っころの骨を渡す。
「な、なんだこれは……。見た事も聞いた事もない骨だが」
「そいつも犬の骨。また上位の犬っころに遭ったんだ」
「はァ……。こんなもの値段すら付けられんだろう、うちを破産させる気か?」
いやいや。本題はここからだよ。
「まあ、それは置いておいて。聞きたいことがある」
「コイツに見合う様な情報は多分ないだろうが?」
「昨日、白髪の姉妹が来なかったか?」
少しばかり考え込むオーナー。
「来たな、来たとも。来たが……帰したぞ」
「ああ。知っている。知っているとも。貴方が杖を寄越して帰したことも」
「……なんだい。知っているのならそうと言ってくれりゃあ楽なんだが。この骨はその礼ってわけか?」
「その通り。貴方が集める武器は良品が多いはずだった。それを二本も纏めて手放す……それに対しての、対価だな」
複雑な面持ちのオーナー。
「いや、分かる。兄さんが礼をしたい気持ちは分かる。が、分からん。この骨に杖二本如きで釣り合うのかが、分からん」
「気にするな。気になるなら貸しにでもしておこう」
「それなら助かるが……とりあえず、これでも飲んでいけ」
と言って、オーナーはコーヒーを出した。いただきます。
「ところで、あの杖二本はどんな物なんだ? 殴っても痛くないとかか?」
「逆にそんな杖があれば欲しいんだが。……あれは祕翼・攣理といってな。支援術の増幅に長けた杖で、どちらがどちらと言ったこともなく、二本で一つの武器なんだとよ」
ひよくれんり。たしかバカップルのことを表す四字熟語だったはず。
「あの杖はな、片割れが無いとただの硬い棒でしかないんだ。だから一本は安い値段で中古の武具屋を転々としていた。だが問題はもう一本の方でな……。そっちはな、剣術道場にあったんだ」
まさか……?
「折れない模擬刀の代わりにでも使われてたか?」
「いいや違う。『水を吸って重くなった道着を何着干しても折れない物干し竿』だってよ。笑っちまうな」
……なんだそれ……。
「まあ色々あったが、そうして杖を二本揃えたところで気づいたんだよ。使える奴が居ないんじゃないか、と」
つまり?
「この杖を完璧に生かすには、だな。離れ離れになる事がなく、支援術しか使えない二人組が要るわけだ」
なるほど。今までにクリスコロン姉妹しかピッタリ当てはまるのが居なかったと。
「ってなわけで、あの子らにあげちまったわけだ。兄さん、口ぶりからしてあの子らの関係者だろう。手放さないよう言っておいてくれ」
「わかった。……ああ、そうだ。迷子の姉妹を保護しておいてくれて助かったよ。というわけでさっきの貸しは返してもらったな。──ではな!」
すたこらさっさと逃げる。オーナーが『おい!』とか『待て!』とか言ってた気もするがね!
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帰り道もギルドに寄って、カウンターでセンカさんと話してたら他の職員にやんわり邪魔と言われ、独りですごすご帰ってきたのである。
一人では特にすることがない。クランの名前でも考えておこうかな。
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よし。決めた。このクランは、NPC!
Native People's Clanだ!
【用語解説】
〇こんな大金
ライは冒険者としてかなり上位の存在ではあるが、報酬という報酬を借金返済に充てた為、没落後はある程度纏まった金を得たことが無い。
〇ログアウトは完了してしまったらしい。
ヒトリモはこの後すぐに再ログインした。
が、部屋はもぬけの殻。当然である。
〇渡界人
所謂プレイヤーのこと。
対してNPCのことを田舎者、原住の者などと言う。
〇NPC
Native People's Clanの略。
かなり攻めた名前である。
主人公アラシェはお馬鹿なのだろう。




