#60 星見の珠玉
「12の指輪……我が種族にも古い伝承がある。「火の魔神」の言い伝えだ。」
アリーヤは「魔神」と聞いて目を見開いた。リーフが伝承を話し始めた。
「はじまりの空間には宇宙すらなく、光の存在・インフェルノのみが存在していた。インフェルノは言葉から宇宙を生み、言葉を使い白熱する玉を作り太陽とした。インフェルノにより掲げられた太陽は、1部が砕け、熱が冷めると数多の星になった。インフェルノが星に降り立ち、大地と水、木々を創り、火によって最初の従者を生み出した。火の従者は後で生まれた妹たちとその星で育った。インフェルノの従者は動物を作り、インフェルノは自分の姿を模して人間を作った。インフェルノは自分の姿を模して作った人間を自分の子としてことさら愛し、自分の作った星の管理を従者たちに任せた。しかし、人間はいつしかインフェルノに似ている自分たちは他の動物や従者よりも優れた存在だと慢心し、他の動物たちを虐げ始めた。従者は、自らの姿を模して作られた動物たちを虐げる人間に激しく怒り、人間に戦を仕掛けた。従者の圧倒的な力の前に人間は敗北するかに見えた……そんな時、最初に作られた火の従者が、人間の女性に赤い炎を与えた。赤い炎の保持者は理性なく暴れ、人間も従者も区別なく殺めた。やがて女性は従者に刺され、赤い血を流した。赤い血はサソリに変じて多くの人間、従者を死の国に追いやった。それを見たインフェルノは深く悲しみ、その結果を招いた火の従者とサソリをの魂を封印した。従者たちとインフェルノは、火の従者の体を引き裂いて、12の肉片は指輪に転じて宇宙にばら撒かれた。そしてインフェルノと残りの従者たちは、時を止める巨人と蜘蛛に、指輪を守る命令を下した後に、眠りについた……」
アリーヤはそれを聞いて戦慄した。リーフは話を終えた。
「指輪は本当に、願いを叶えるものなのか?」
ナリナァは低い声で、アリーヤだけに聞こえるように言った。
「正直に答えるんだよ。嘘はすぐバレる種族だ」
アリーヤは答えた。
「本当の所は誰も知らない……でもある星の遺跡によれば、指輪はとても危険な物なの」
リーフはしばらく沈黙した。頭の血管がゆっくり明滅している。
「……危険、か」
建物の外で風が響いた。ツノゼ星の大気は地球とよく似ているのに、音の響きかたが少し違う。
「我らの伝承では、火の従者の体から生まれし指輪が蜘蛛の手を離れ宇宙を渡り歩き、最後に触れた者の願いが叶う、とだけある。その者がどうなるかは語られていない。1つ、渡せるものがある。」
リーフは立ち上がって奥の部屋へ向かった。戻って来たリーフの手には、手のひらに収まるほどの透明な球体があった。中に星雲のような光の渦が閉じ込められていた。
「星見の珠玉。これを持つ者は、星脈の流れを読み、指輪の所在を感じ取れる。……お前たちの旅の助けになるだろう。」
ナリナァが目を見開いた。
「アーラヴォルノの秘宝じゃないのかい、それ」
「私の独断だ。旅が終われば返してくれる。アリーヤはそういう人だ」
ナリナァは呆れたように、だが口元は緩んでいた。
「たった2年前に1度助けただけの小娘を、よくそこまで信用できるもんだね」
アリーヤは星見の珠玉を両手で受け取った。ひんやりとした感触。中の光が手のひらを透かして、虹のように揺らめいた。
「……ありがとう。絶対に返しに来るから。」
リーフ・フライの頭の血管が穏やかに明滅した。アリーヤの瞳をまっすぐ見た。
「最近、宇宙の星々から悲鳴が聞こえる。指輪が近くにある星は不幸になると、長老が言っていた……急げ、とは言わん。だが忘れるな」
アリーヤも、リーフの目をまっすぐ見た。
「わかった。悲鳴を止めてみせる。」
その言葉を最後に、一行はツノゼ星を後にした。帰路のスコーピオン号内。手に入れた星見の珠玉はアリーヤが首から下げているカメラの隣で静かな光を放っていた。ナリナァは興味深そうに星見の珠玉を覗き込んだ。
「で、こいつはどうやって使うんだい」
星見の珠玉を手に取って念じてみるが何も起きない。
「んー……反応しないね。何か条件があるのかな。」
「星の近くじゃないとダメなのか、それとも指輪に近づかないと駄目か。どっちにしろ、使い道は限られるね。」
ホノカがひょっこり顔を出した。
「アリーヤ、次の目的地どうするの?」
と、その時、船のレーダーがけたたましく鳴り響いた。
つづく




