#59 リーフ・フライ
スコーピオン号の会議室に、アリーヤはモブリア星人の隊長格とナリナァ、ホノカ、カテリナ、そしてメイティンたち幹部の隊員たちを集めた。
「ツノゼ星の種族から接触があった。向こうのリーダーが話したいって」
ナリナァは腕を組んだ。
「テレパシーで眠らされて気づいたら敵地のど真ん中。随分と一方的じゃないか。」
モブリア星人の隊長格は、冷静さを保とうとしていた。
「……罠の可能性が高い。でも、このままここに居てもらちが明かないのも事実です」
バルド隊員が拳を鳴らした。
「アリーヤ、ぶっ放して突破しようぜ」
アリーヤはバルドを制した。そして笑顔で言った。
「いいの、知り合いだから」
ナリナァが腕を解いた。
「知り合い?あんたのかい?」
「うん。ずっと前のね。ブルーム星で会ったんだ」
アリーヤの答えに、ナリナァ顔をしかめた。惑星ツノゼのアーラヴォルノ国に着く。ナリナァが忠告をする。
「気をつけな、ツノゼ星は軍事惑星で、アーラヴォルノと言えば好戦的な種族だ。武器を持っているかも―」
アーラヴォルノ国の地表は殺風景だったが、降り立ってみれば印象が一変した。武器はどこにも見当たらない。軍事惑星という前評判が嘘のように、平和そのものが広がっている。
出迎えた女性のアーラヴォルノ族。3つの角に黄色い大きな目、紺色の瞳を持つそれは、ホノカが目撃した宇宙人とそっくりだった。水色の唇が動く。
「……ようこそ。私はリーフ・フライ。我々は武器を持たない」
アリーヤがきょとんとした。
「え、でも2年前には両腕にさ?」
リーフ・フライは円形の建物へアリーヤを手招きした。
「アーラヴォルノという言葉の意味は、「血の涙」。戦うことでしか生きられない種族だった。」
建物の中は簡素だが清潔だった。壁にツノゼ星やアーラヴォルノ族の歴史を描いたと思われる壁画があった。そこには、武器の山を積み上げたアーラヴォルノ族の姿と、やがてその武器を捨てる場面が描かれていた。リーフ・フライは用意された椅子に座るように促した。
「アリーヤが言う通り、我々アーラヴォルノは戦闘民族だった。私は母ホッグ・フライと弟ヘッジ・フライとの権力争いに1度破れ、惑星ブルームに逃れた。そこでアリーヤ、お前と会えた。」
リーフ・フライは続ける。
「私がある地球人をさらい、食料との人質交換を申し出た時のことを、おぼえているか?アリーヤは言った。食料は無いが、平和的に解決させるとな。そこで私は、地球人がもつ”平和”という言語を知った。平和は食べ物じゃない。しかし、必要なものだと言っていたな。私はアリーヤに助けられた後、近くのモブリア星で平和というものの意味を学んだ。そしてこの国へ帰り、母と弟と直接話し合った。」
アリーヤは訊いた。
「で、結果はどうだったの?」
「家族との交渉は決裂し、結局は2人と戦うはめになった。私は2人との戦いに勝ち、プリンセス・リーフ・フライからクイーン・リーフ・フライとなった。申し遅れたな。初めて会った時は身分を隠していたが、私はアーラヴォルノの王族なのだ」
遠くから、アーラヴォルノ族の幼い姉妹が駆け寄ってくる。姉妹の内1人は、初めて見る地球人とモブリア星人、そしてブルーム星人ナリナァを見て、リーフ・フライに訊いた。
「客人ですか?お母さま」
リーフ・フライは笑みを浮かべた。
「そうだ。シン。リョクと一緒に遊んでおいで」
2人は緑のあふれる庭にでて遊び始めた。2人を眺めるリーフとアリーヤ。
「我々は武器を手放す代わりにバルシュ星人からテレパシーを教わった。今回はモブリア星人のリーダーと話し合いたい。」
リーフはモブリア星人の3人を見た。
「話し合いの意味は、分かるな?なぜツノゼ星の貴重な鉱石を盗もうとしたのか、についてだ。私がクイーンになってからは、略奪は重罪として禁止した。我らアーラヴォルノと貿易をしているモブリア星人なら、その意味が分かるはずだ」
モブリア星人の隊長格の顔色が変わった。もう1人のモブリア星人が、隊長格の肩を掴む。
「おい、どういうことだ?鉱石を盗んだ?」
モブリア星人の隊長格は、長い沈黙の後、絞り出すように言った。
「……俺は知らなかった」
モブリア星人のもう一人が、隊長格に掴みかかる。
「知らなかったで済むかよ!ツノゼ星の鉱石は絶対に手を付けるなって掟だろうが!」
リーフ・フライは感情を見せず、ただ静かに座っていた。モブリア星人の隊長格は震える声で白状した。
「……船の燃料が底をついていたんだ。モブリア星に帰れなくなって、貿易船の中にあった金目のものも全部売り払った。それでも足りなくて……船の修理に必要な鉱石だけ少し借りるつもりだった。返すつもりで……」
「それで3人死んでんじゃねえか!」
リーフはモブリア星人3人をなだめるように言った。
「落ち着け、我らは平和的に解決したい。モブリア星にいるリーダー・ドワンフ大統領を、アーラヴォルノ国に招待する。彼女は忙しいと言っている。8日目に来られるそうだ。」
こうして、モブリア星人の3人は8日間、アーラヴォルノのリーフ・フライたちに監視されることとなった。それから、リーフ・フライはアリーヤに向き直った。
「アリーヤ。お前のおかげで、我らアーラヴォルノは変わることが出来た。お前に助けられ、バルシュ星人からテレパシーを教わり終えたある日、この力を他の星の誰かのために使えることを知った。銀河を巡り、漂流する船を見つけては導いた。100隻は超えた頃、バルシュ星のヘイワスキー長老からも認められた。」
ナリナァは感心したように口笛を吹いた。
「1人の地球人の小娘が種族の英雄を作っちまったわけだ。」
アリーヤは照れくさそうに頬を掻いた。
「いや、私はただ助けただけで、そんな大げさな……」
「大げさではない。だからこそ聞きたいことがある。」
リーフの声のトーンが変わった。アリーヤにゆっくり詰め寄る。
「12の指輪。お前はそれを集めているな。」
それを聞いた途端、アリーヤの息が詰まった。
つづく




