#56 宇宙の魔神
惑星シェムザの野外訓練場。イトウ・マイクとレベッカが、射撃の訓練をしている最中、後ろでくつろいでいた情報員のハズク星人ピグーが言った。
「バール王子とイスガルド王の指紋に反応して開く扉があったってね、その扉の向こうには、イスガルド共和国の支配を左右する2つの神器が眠っているんだってね。」
宇宙半魚人ムルミンが言った。
「本物のバール王子が居たのにどうして扉は開かなかったのかねぇ」
ピグーが言った。
「実はね、イスガルド王がバール王子の裏切りに気付いてて、指紋コードを変えたって噂だよ」
ムルミンが納得した。
「そうだったのかぁ、ヒッヒッヒ!」
するとムルミンとピグーの元へ、謎の地球人女性が現れた。
「ちょっとお尋ねしますが、あれはイトウ・マイク?」
ピグーが答えた。
「そうさ。そして隣がその恋人のレベッカ・ホランド」
レベッカが振り向くと、そこには長髪ブロンドヘアの女性がいた。
「射撃の訓練ね。あの的に当ててるの?」
女性が指差す先には、レベッカが撃った射撃の的があった。的の円の周りに、レベッカの弾が当たっていた。女性はくすっと笑った。
「あら、あなたピンク・スコーピオン所属よね?そんな腕で実戦が務まるの?」
そんな腕で、と言われてレベッカは激高した。
「なんだと!?」
激高するレベッカのホルスターから銃を取り上げる女性。空に向かってトリガーを2回引くと、ハトと同じ大きさの宇宙昆虫が2羽、落ちて来た。女性の弾が2つとも当たって、宇宙昆虫は即死していた。女性はレベッカに銃を返す。
「非礼を詫びます。キャスリーンです。また後ほど」
そう言ってその女性・キャスリーンは去って行った。顔を見合わすマイクとレベッカ。イスガルド王と別れ、惑星シェムザから旅立つスコーピオン号。宇宙空間を航行中、アリーヤが船を自動操縦に切り替え、ジュリア副長が船内の広場に隊員全員を集めた。急な集会にざわめく隊員たち約100名。ジュリア副長が話し始めた。
「隊員たちの皆さん、聞いてください。この度、我がピンク・スコーピオンに、新戦力となる新人を迎え入れました」
3人の若者が入ってくる。3人とも地球人だった。
ピグーがムルミンに耳打ちする。
「また地球人が増えたよ。ただでさえ多いのにねぇ」
1人目の女性が自己紹介を始めた。
「レレカ・コロニーから来ました、カテリナ・パウリュークです」
2人目のガタイの良い男性も自己紹介をした。
「フープー星から来た、ノア・ニモイだ、よろしく!」
そして3人目に差し掛かった時、レベッカが声を上げた。
「私はキャスリーン・リドリー。ベアーズ・コロニーから来ました」
レベッカがキャスリーンに駆け寄った。
「あんた、さっきの!」
ジュリアが意外そうに2人を見た。
「おや、もう知り合いでしたか!どうです、アリーヤ」
アリーヤはにっと笑って言った。
「うん、キャスリーンはレベッカが面倒見てあげてよ!」
レベッカがアリーヤを見た。
「は、はぁ?なんで私が……!」
「そりゃ後進育成もピンク・スコーピオンの仕事だよ?フロルみたいなやり方でいいからさ、1週間くらいキャスリーンに教えてみてよ」
「そ、そんなこと急に言われても……」
すると、キャスリーンは笑顔で握手を求めて来た。
「よろしくお願いします、レベッカ先輩!」
レベッカは仕方なく、キャスリーンの握手に応じた。次に、アリーヤはズボンのポケットから4つの指輪を取り出した。動揺する一同。
「新人が入ったということで、2つほど情報共有するよ。前に広場で話したと思うけど、以前、惑星ミューにいるササヒラ博士に聞いた内容を、もう一度言います。この指輪が12個集まって願いが叶うと、その後何が起きるのか。博士が解読した古代の石碑の内容によると、12の指輪が揃って願いが叶った時、指輪は一つになる。そしてその持ち主の命と引き換えに、宇宙そのものを作り変える力が発動する。一般定説の宇宙誕生より前、最初の持ち主である宇宙の魔神と呼ばれた存在が姿を消した時、魔神の力が暴走し、最初の宇宙戦争が起きた。以来、指輪は宇宙を渡り歩き、何度も同じ悲劇を繰り返してきた。惑星ミューの文明も、それに巻き込まれて滅んだそうです。指輪を悪いやつらに渡さない為にも、この指輪たちは我々ピンク・スコーピオンが保管します」
フロルが唾を飲み込んだ。マイクは静かに聞いている。アリーヤは指輪をポケットにしまい込み、息を吐いた。
「それからもう1つ。忘れないで欲しいのは、我々ピンク・スコーピオンは、救助隊だということです。敵の殲滅より、命の救助を優先する。指輪の保管もその一環です。以上!」
集会が終わり、隊員たちは持ち場へ帰って行った。ジュリア副長、メイティン隊員、リッキー隊員、レベッカ。そして、新人隊員3人がその場に残された。
アリーヤは、その場に残った7人に言った。
「カテリナ隊員はメイティン隊員と行動してね。」
「はい!」
カテリナ隊員は威厳のある返事をした。アリーヤは次に、ノア隊員に向く。
「ノア隊員は、リッキーと一緒。それで、さっきも言ったように、キャスリーン隊員はレベッカとペアね!」
その後、ピンク・スコーピオンは船内の会議室で、指輪に関する会議を開いた。
会議には隊長のアリーヤ、ジュリア副長、マイク、ナリナァ、メイティン、リッキー、バルド、フロル、そして記録係のローラとシンジ……いつものメンバーが集められた。全員が着席すると、ナリナァが文句を言った。
「あたしまで会議に引っ張り出すってのはどういうことだい?」
アリーヤは微笑む。
「ちょっとナリナァの知恵も借りたくてね。皆さん、本題に入ってもいい?」
ナリナァ以外は皆、異議無しだ。アリーヤは話し出した。
「指輪に関して、現時点で分かる詳細はさっき話した通り、宇宙誕生前に作られたいわくつきのシロモノで、願いを叶えた者は命を亡くすと推測されてます。」
マイクが右手を上げた。
「指輪は現に存在する。だが、宇宙誕生前ってのが引っかかるな」
リッキーが口をはさんだ。
「宇宙誕生前にも宇宙があって、そこに住んでた誰かが指輪を作ったんだろ。」
フロルが腕を組んで言った。
「指輪の持ち主の魔神というのは何者で、誰がそいつのために指輪を作ったんだ?」
メイティンも机を見ながら言った。
「宇宙そのものを作り変えるって言うのも引っかかるわね。宇宙が無くなるのか、また新しい宇宙が生まれるのか―」
ナリナァはため息をついた。アリーヤに言う。
「予想は良いけどね、過去の指輪の持ち主なんて語ってどうするんだい?」
アリーヤは2秒、間を置いて答えた。
「宇宙の魔神ね。気になるのはそこなんだ。」
「どういうことだい?」
「魔神は姿を消したって、ササヒラ博士は言ってたんだ。たぶん、死んだわけじゃない。」
「生きてるってのかい?」
「恐らく。指輪は1つでもあると、光の力を発揮する。以前、クイーン・テルミンやパープルおばさんの願いを指輪の光の力が叶えまくってたところを見ると、2人に共通点が見えるんだ。」
「共通点?」
「そ。2人とも光に操られてる。指輪を元にした、光の力にね。以前、スコーピオン号に侵入してローラを操った少年も、目的と正体は謎だけど、指輪でローラを操っていた。」
ナリナァは机に肘をついた。
「で、何が言いたいんだい?」
アリーヤは考えながら答えた。
「指輪は願いを叶える為じゃない、魔神が別の目的で作らせたか、作った可能性がある。たとえば、指輪の光で人とかを操るとか、それで指輪を集めさせて、宇宙を作り変えるとか……」
椅子にもたれたバルド隊員が質問をした。
「ローラを操ったガキと魔神は、関係あるのか?」
笑みを浮かべるアリーヤ。
「いい質問だね、それをこれから調べるカンジ!」
アリーヤはスクリーンに例の少年のモンタージュ写真を映した。
つづく




