#44 親友・その名はミカ
朝が来た。ミカが起きると、キッチンのテーブルには目玉焼きとベーコン、そして食パンが置いてあった。ローザがミカに声をかけた。
「おはよう、ミカ。机のそれ、食べて良いからね」
ミカの目が輝いた。久しぶりの朝食だったのだろう。少女はおいしそうに、朝食を食べた。
机の向かいで食事をしていた9歳のアリーヤは、テレビを観ながら言った。
「地球ってイヤな所だよ。イジメはあるし、差別もあるし、……戦争だってある。毎日たくさん人が死んでるの。ニュースで見たよ」
アリーヤを咎めるローザ。
「地球に来たばかりのミカに、そんな話はしないで、アリーヤ。地球にだって良いところはあるのよ、ミカ。」
ローザははテーブルの植木鉢に植えられていたピンクの花を指して、アリーヤとミカに教えるように言った。
「このピンクの花の花言葉は、(大胆)(純愛)(貞節)。私とアリーヤが生まれた町では、みんなが愛にあふれて、優しさと幸せを願って飾られるのよ」
ローザがそう言うと、ミカはピンクの花を食い入るように見つめ始めた。
「ダイタン、ジュンアイ……」
ミカは1つづつ、つぶやいた。ミカは左手に、指輪を着けていた。どこへ行くにも、薬指に着けたその指輪を、手放さなかった。アリーヤがミカに何故と聞いても、ミカは答えなかった。ミカは優しい性格だった。玄関にネズミが現れるとエサを与え、台所に小さなクモがあらわれると、指に乗せて会話をしていた。ピンクの花を見るたびに、ローザからもらったカメラで何度も同じ写真を撮っていた。アリーヤはミカの奇行の数々を、朝食のコーンフレークを食べながら毎朝見ていた。
ある日、ミカとアリーヤが外を歩いていると、1匹の蝶が飛んできた。蝶の存在が珍しかったのか、ミカはそれを追いかけて、アリーヤと離れ離れになってしまった。1人になったアリーヤは、公園で小動物をいじめる不良の集団と出くわした。アリーヤは走って行って、3人の不良の前にでて両手を広げた。不良の1人が文句を言った。
「アリーヤじゃねえか。正義面しやがって。お前から遊んでやろうか?」
その頃、蝶とはぐれたミカは、アリーヤがそばに居ないことに気が付いた。
「アリーヤ、どこ?」
ミカは左手の薬指を見た。
公園でアリーヤは、不良集団3人に囲まれていた。悪口を言われて泣いているようだ。先にいじめられていた小動物を庇いながら、アリーヤは、じっと泣きながら耐えていた。
「おい、こいつ泣いてるぞ?泣けば許してくれると思ってんのか?」
不良の1人がアリーヤに怒鳴った。その時だ。公園の入り口に、光る何かが見えた。ミカだった。ミカが左手に着けた指輪が光っている。ミカが叫んだ。
「お前たち、だれ?」
いつものミカではない。怒っている。
「アリーヤがかわいそう!今すぐ止めろ!」
公園全体に、謎の振動が伝わる。不良の1人がそれを察したのか、仲間の不良に耳打ちした。
「おい、なんかコイツやべえぞ……」
ミカが左手をかざすと、アリーヤに怒鳴った不良の1人の両足が宙に浮いた。不良の1人は、身体全体が宙に浮いたまま、両腕を首あたりにあててもがき苦しみ始めた。アリーヤは目を見開いた。不良の内2人は逃げ、残った不良のくちから泡が出た。身体もけいれんしている。咄嗟にミカの前に出るアリーヤ。
「もうやめて、死んじゃうよ!」
ミカはアリーヤに尋ねる。
「こいつ、悪いヤツだよ?どうする?」
アリーヤが首を横に振ると、ミカは腕を下ろした。不良は地面に崩れ落ちた。気を失っていたので、アリーヤは通行人を呼び止めて、不良は病院に搬送された。
ミカは小動物を見てしゃがみ込み、笑顔を作った。
「よかったね。アリーヤがきみを守ったんだよ」
帰り道、アリーヤはミカに言った。
「私さ、変わり者だってよく言われるの」
「アリーヤは、アリーヤだよ?」
「聞いて、ミカ。ミカもちょっと変わってるけどさ、私、背が低くて学校でいじめられるの」
「学校に行くと、いじめがあるの?」
「みんながそうじゃないよ?趣味とか、好きな物とか、聴いてる音楽のことでも馬鹿にされるんだ」
ミカが怒って言った。
「そんなの、アリーヤがかわいそう!学校なんて行かなくていいよ!」
「ありがとう、ミカ。でも、教育は受けないと、ダメなんだ……」
「キョウイク……?」
「教育っていうのはね、言葉を習ったり、算数の問題を解いたりするんだよ!」
「それは、必要?」
「うん。生きていくためには、必要なものだよ」
アリーヤの答えに、ミカは考え込みながら歩いた。2人は小動物を安全な所に送り届けたあと、家に帰りついた。
夜になった。ミカはアリーヤを起こし、外へ連れて出た。少し高い丘の上に、星空が広がっている。アリーヤは寝ぼけた顔で言った。
「私も宇宙に行けたらな……」
ミカが言った。
「アリーヤ、地球、キライ?」
ミカはアリーヤの目を見て言った。
「アリーヤ、明後日誕生日だよね、何か欲しいものはある?」
「んー、宇宙」
アリーヤはふざけて言った。しかし、ミカの答えは意外なものだった。
「わかった、アリーヤ。一緒に宇宙へ行こう!宇宙には、ここよりも楽しい場所がある。青く美しい宇宙を、心を込めて君に差し上げよう!」
ミカは薬指の指輪を外して、空に投げた。びっくりするアリーヤ。ミカは何か呪文を唱え、祈りをささげた。すると指輪はミカの手のひらに戻って来た。
「これで宇宙は、きみのものだよ!」
ミカが微笑んだ。アリーヤもつられて笑った。星空がきれいだった。
つづく




