#42 ピューマの足枷
マドウマ星の朝。都市には昨日大暴れした怪獣の亡骸が横たわっていた。宇宙の賞金稼ぎ、ネイビーピューマがアリーヤの目の前にジェットパックで飛んできて、地面に着地した。立ってるのもやっとのアリーヤだったが、重要と思えることを訊いた。
「ネイビーピューマ……あなたの父親は、スティーブ・カルティエ。そして、あなたの本名は……イリーゼ・カルティエ?」
ネイビーピューマはしばらく黙っていたが、ため息もつかずにヘルメットを脱いだ。アリーヤとよく似た少女の姿がそこにあった。
「ローザ・カルティエから聞いたのか?」
「やっぱり、そうなんだね?姉さんなんだ……」
アリーヤは目を閉じそうになり、倒れそうになる。それをそっと受け止めたのが、装甲服を着たイリーゼの両腕だった。アリーヤの意識がもうろうとする中、イリーゼはおしゃべりを始めた。
「お前が小さい頃はよく、こうやってお前をだっこしたものだ……今は抱きかかえるのがやっとだが」
「姉さんはどうして、宇宙にいるの?」
イリーゼは躊躇なく説明をした。
「順序が違うな……私が宇宙に居るのは必然なんだ。お前にも知る権利がある。話そう」
彼女は話し出した。
「お前と私の父・スティーブ・カルティエの先祖は、今から600年ほど前に宇宙人共に連れ去られた地球人だ。ある惑星を支配していたその勢力との160年間続いた地球人達の独立戦争で、我々の先祖はレジスタンスのリーダーとして惑星クーガーで勝利し、その証である初代ネイビーピューマの称号を得た。」
イリーゼは話を続けた。
「初代ネイビーピューマが亡くなった後、その血筋は代々受け継がれてきた。8代目であるスティーブ・カルティエは、長い旅を経て、夫婦で初代ネイビーピューマの故郷である地球に着いた。だがそこは、戦争が絶えない星だった……」
イリーゼの顔が引きつった。
「初代ピューマの故郷・地球の現状を打開したかったスティーブは、地球で得た知識で写真家となり、紛争地帯に潜り込んだ。その惨劇を地球中に知らせようとしたんだ。だが……地球人のある組織が、スティーブを捕らえて拷問し、そのまま殺した」
アリーヤの目が見開かれる。心に動揺が走る。イリーゼは続ける。
「その後、スティーブの生前の再婚相手であるローザ・カルティエは、クーガー星から来た私の親戚に、私を押し付けた。私は9代目ネイビーピューマとなった。スティーブが亡くなった以上、ピューマの称号を継がざる負えなかった。選択肢は無かった。地球に居た友達と別れ、まだ1歳だったお前とも別れ、クーガー星で訓練が始まり、今の私になった」
アリーヤがショックのあまりしゃがみ込むと、イリーゼもそれに合わせてしゃがんだ。
「私とお前は同じ地球で生まれ育った。なのに私は宇宙に捨てられ、ローザは実の子であるアリーヤ……お前だけを選んだんだ。だがな、アリーヤ。ローザは間違ってなんかない。正しいことをしたんだ。クーガー星の訓練の日々は地獄だった。逃げることも、許されなかった。だが、私のこの身の犠牲1つで、お前の日常を守れるなら、安いものだった。なのに……」
イリーゼの言葉が詰まった。アリーヤが訊ねる。
「なのに……どうしたの?」
イリーゼが低い声で言った。
「なんで、お前が宇宙に居るんだよ……」
イリーゼの頬が濡れていた。アリーヤはそっとその指で、震える彼女の涙を受け止めた。
「姉さん……私にも、理由はあるよ」
「……どんな理由だ?」
と、その時、マイク率いるアリーヤの捜索班が、しゃがみ込んでいる2人を見つけた。イリーゼ―否、ネイビーピューマは、とっさにビームガンを手に取った。
アリーヤはそこで意識を失い、倒れ込んでしまった。次に目覚めた時には、アリーヤはスコーピオン号の医務室に寝転がっていた。セリアが駆け寄って来た。
「起きたわね、アリーヤ」
アリーヤは飛び起きたが、医務室に姉の姿はなかった。
「……ネイビーピューマは?」
アリーヤの質問に、セリアが答える。
「マイクが追い払ってくれたわよ。あんた覚えてないの?あの時マイクがピューマを撃たなかったら、今頃あんた、死んでるわよ」
アリーヤは目を見開いた。姉さんが撃たれた。
「ピューマは今どこに?」
「知るわけないでしょ。逃げてったわよ。マドウマ星からスコーピオン号もピューマも両方逃げた。ガルグイユも来てたしね」
アリーヤがつぶやいた。
「クーガー……」
顔をしかめるセリア。
「何?クーガー?」
「惑星クーガーに行こう!ピューマは全部話してくれた。今度は私が話をする番!!」
アリーヤは、医務室のベッドから起きて、カメラを手に取った。
ずっと寝てたからなのか、首元がやけに痛かった。
つづく




