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ピンク・スコーピオン!!  作者: 水柴ロク
36/61

#36  ハルジオ星へのチケット

挿絵(By みてみん)

「おれたちはハルジオ星に行きたい。何をすれば良い?」

アリーヤはじっとギョウの目を見た。嘘を探すように。それから言った。

「ネオシーウィードを止めたら、ちゃんと裁きを受けてもらうよ」

ギョウは口笛を吹いた。にっと笑う。

「フェアだねぇ、嫌いじゃないよ、そういうの」

ロンが低い声で言う。

「で、何をすればいい」

アリーヤが説明を始めた。

「ワユン博士が除草剤を作ってる。その間、人工的に夜を作る。これはガラマ星の気象システムに任せるから、ギョウとロンは、西武から南部へ、ネオシーウィードの気を引いて。あの人造植物は歩行できることが分かった。南部の砂漠地帯に誘導してから、トドメをさす」

ギョウの目が細くなった。考えている顔。すぐに口角が上がる。

「囮ってわけか。得意分野だ」

ロンも短く答えた。

「失敗したら俺たちは逃げる」

ナリナァがぴしゃりと言った。

「逃げ場なんてないよ、星の裏側まで海藻だらけだ」

アリーヤが2人のウィーヴィル星人を見て言った。

「成功してきちんと裁きを受けたら、ハルジオ星へ行こう」

ギョウが一瞬、目を見開いた。それから静かに笑った。今までとは違う笑い方だった。

「……あんた、お人よしだな」

アリーヤが微笑むと、ロンも息を漏らした。笑ったのかもしれない。

ギョウはビームピストルを腰から外して、近くのテーブルに置いた。両手を開く。降参のポーズ。

「やるよ、隊長さん」

作戦は開始された。ガラマ星西部上空に暗雲が広がり、人工の夜が訪れる。日光を失ったネオシーウィードの進行具合が目に見えて鈍った。だが止まらない。じわじわと、這うように南へ向かう。ギョウは4足歩行のウチュウウシに乗って、砂埃を巻き上げながらネオシーウィードの中を駆け抜けていく。

「こっちだ、植木鉢ども!」

ロンもウチュウウシに乗って並走する。振り返ってビームピストルを一発。威嚇射撃でネオシーウィードが方向を変えた。2人を追い始める。ガラマ星・南部砂漠地帯。乾燥した大地がネオシーウィードを待ち受ける。

マイクが通信をする。

「海藻軍団は誘導成功だ。南部に集まっている」

アリーヤが叫んだ。

「夜にして!」

ガラマ星の気象システムで、あたりは完全な夜になった。ネオシーウィードは動きを止めた。まるで眠るように。

レベッカの興奮した声。

「停止しました!今です、隊長!」

ワユン博士がホノカと共に大きなボトルをかかえてやって来た。

「間に合いました!これが除草剤・プロトタイプ33号です!」

副長がボトルを受け取って重さを確かめた。

「量は足りるのか」

「足りるってもんじゃありません!あの2人をどけてから使ってください」

暗視モニターにギョウとロンが映った。ウチュウウシにのったまま、ネオシーウィード群のすぐ傍にいる。まだ逃げていない。通信。呑気な声。

「おーい、お姫様。退路はどっちだい?」

アリーヤが転送装置を起動した、その瞬間。駐屯地の東側から爆発音。悲鳴が上がった。テントが1つ吹き飛ぶ。それはギョウとロンの追手のトロンボーの仕業だった。黒装束のトロンボー一味がアリーヤの前に来る。アリーヤが訊く。

「宇宙マフィアのトロンボー一味……噂は聞いてる。ウチの隊員まで巻き込むなんて、どういうつもり?」

トロンボーのボスは、冷たい声で言った。

「ギョウとロンを始末しに来ただけだ。お前たちに用はない」

アリーヤが怒って叫んだ。

「用がないなら人んちで暴れんな!」

トロンボーのボスが、暗視モニターを見て笑う。

「これがネオシーウィードか。高値で売れそうだ。いくらだ?」

ワユン博士が青ざめた。1歩下がる。

「売るですって?あれはもう星を滅ぼす―」

トロンボーは腰からビームガンを抜いて博士に向けるが、即座にジュリア副長が博士の前に立った。

「させん」

アリーヤは、ビームガンにマヒ弾を装填してトロンボーを撃つが、バリアで弾かれる。ギョウがウチュウウシにから飛び降りた。走りながらリボルバーを引き抜く。躊躇なく撃った。バリアの隙間、ボス格の肩に命中。トロンボーのボスはよろめいて舌打ち。ロンは、トロンボーのもう一人が撃ったビーム弾を紙一重で交わして、死角に回った。ゼロ距離。2発。ギョウは砂埃の向こうで笑った。ロンがバリアの発生源を撃つ。アリーヤがマヒ弾を撃った。今度は通る。刺客がけいれんして倒れた。ギョウはひゅう、と口笛。

「いい腕してんね」

トロンボーの刺客は拘束され、ガラマ星の警察が引き取っていった。騒ぎは収束する。ワユン博士は震える手で、除草剤を抱え直した。安堵の息。

「さぁ、はやくこれを!」

除草剤の散布が始まった。ドローンと地上部隊が手分けして除草剤を撒いていく。白い霧のような液体がネオシーウィードに触れると―枯れた。根元から変色し、ぼろぼろと崩れ落ちていく。レベッカはモニターを見て、声が震えた。

「効いてます……!ネオシーウィード群、急速に死滅!」

数時間後、ガラマ星を覆う緑の悪夢は消えた。朝焼けが大地を照らす。焦げたネオシーウィードの残骸が灰のように広がっていたが、ガラマ星の土は生きていた。ギョウは朝日の中、馬の上からその光景を見ていた。

「……悪くない眺めだ」

ガラマ裁判所での裁判は簡素だった。ガラマ星では命の危機を救った功績が考慮される。禁固10年と鉱山労働。それが2人への判決だった。

「10年か……短えな」

ギョウは判決を聞いて、肩の力が抜けたように言った。ロンの方は、壁にもたれて腕を組んでいた。納得した顔をしていた。2人の刑が決まったすぐ後、アリーヤが2人に歩み寄った。小さな箱を差し出す。

「ハルジオ星行きのチケット。出所したら使って。それから手紙も。ケセラさんから」

ギョウの手が止まった。箱を持つ手。ケセラ、という名前が出た瞬間、あの余裕の笑みが消えた。唇を噛んでいる。ロンはギョウを見た。それからアリーヤに視線を戻す。何も言わず、待っている。ギョウは封筒を受け取った。指先がわずかに震えていたが、顔は上げなかった。

「……ありがとよ。」

アリーヤは微笑んだ。

「じゃあね。」

ギョウは背中を向けたまま片手だけ上げた。振り返らなかった。ロンは一歩踏み出して、立ち止まる。

「世話になった。」

それだけ言って、ギョウの後を追った。2人が去っていく。2人の姿が見えなくなると、アリーヤはふぅ、と大きく息をついた。疲れがどっと出た顔。

スコーピオン号に戻るアリーヤ。ホノカとエンジェルが迎え入れる。アリーヤは微笑んだ。

「世話になった、だってさ。」

ナリナァはお茶をすすりながら、遠ざかっていくガラマ星を見た。

「あの2人、根っこは悪くなかったね」

つづく


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