#32 火星休暇のつづき
宇宙船スコーピオン号は、地球と火星の境目の宇宙空間にいた。フローラ隊員を救出した後、地球のホノカの学校では春休みが始まったので、ホノカはアリーヤたちと行動することにした。ガラマ星人のリド隊員率いる別動隊が帰還した。彼女たちはヌール星とエルク星に支援物資を届けた後、ゴーン銀河でキュラドという存在を探していた。しかし、キュラドに関しての手がかりはなかった。アリーヤたちはリド隊員たち別動隊に飲み物を配り、休暇を取るように言った。リッキー隊員が調査結果のデータを睨みながら、アリーヤと船医のセリアに文句を言った。
「ゴーン銀河ってだけで漠然としすぎだろ。海で針探すようなもんだぞ」
メイティン隊員がリッキー隊員をなだめた。
「救助要請もないし、火星の海で休暇の続きと行きましょうよ」
アリーヤとホノカが食いついた。
「いいね!火星は行ったこと無いんだ」
スコーピオン号は火星に進路を取った。リッキー隊員がメイティン隊員に訊く。
「指輪集めは良いのか?」
「どちらにしろ、指輪は揃ってないんだし、ガルグイユやピューマ共の好きには出来ないわよ。」
火星のリゾートパークでは、マイクとレベッカが待っていた。アリーヤがあれ?と思った。
「副長さん、火星を出るとき点呼は取った?」
ジュリア副長はしまった、というような顔をした。レベッカは怒っていた。
「遅い!勝手に置き去りにしないでよ!私らの住所は火星がお似合いってこと?」
マイクは相変わらず黙って腕を組んでいた。ナリナァはやれやれ、というような顔でため息をついた。アリーヤが火星での休暇を続行する旨を伝えても、レベッカは怒ったままだった。
「もういいです!ここのリゾート飽きちゃったんで、スコーピオン号に帰ります!」
レベッカは怒ったままスコーピオン号の方へ向かった。アリーヤはマイクに尋ねる。
「ごめんね、マイク」
「別に」
「レベッカとは、特に何もなかった?」
「……さぁな」
「そっか。」
そこへホノカがやって来た。
「マイクさんっていうんですか?初めまして、スズキ・ホノカです」
「……おう」
「ここだけの話、アリーヤとは付き合ってまーす!」
突然の告白に、アリーヤは戸惑った。マイクの眉が一瞬ピクリと動いた。アリーヤがあわてて叫ぶ。
「ちょっと、ホノカ!?」
「どしたの、アリーヤ。ホントのことじゃん。ひょっとして照れてるの~?」
ホノカは初めて火星に来て有頂天だった。それに、かつてマイクがスコーピオン号内の食堂でアリーヤにプロポーズして振られた事実を、地球に居たホノカが知っている筈がなかった。
「じゃ、アリーヤ!私らの部屋行こうよ!キスの続き!」
ホノカがアリーヤの手を引いて、予約した番号の部屋に走ろうとする。マイクがホノカを呼び止める。
「おい、ホノカ」
「はい?」
「アリーヤと付き合ってるって言ったよな?」
「はい、そうですけど……」
少し間が開き、マイクはホノカに言った。
「アリーヤのこと、頼む。突き放すなよ?」
「そんなことしませんって、マイクさん!ホノカとアリーヤは相思相愛!一生離れませんよ!」
「……そうか。それを聞いて安心したよ。」
マイクはそれだけ言ってスコーピオン号の方に歩いて行った。火星リゾートのプールは透き通っていた。近くには海と船が見えた。多くの地球人が知らない火星の自然と文明だ。ローラとデックスがプールに飛び込んでいる。水しぶきを上げながら。
「うひょー!」
タイタン星人ヴィナ隊員はビキニに着替えてサングラスをかけている。パラソルの下で火星のカクテルを吸っている。
「最高ね」
ナリナァは、砂浜の岩に腰かけて、火星の海を眺めていた。潮風が白髪を揺らした。
「たまにはこういうのも悪くないね」
平穏な日々。アリーヤは、ホノカと一緒に部屋の鍵を開けた。大きなベッドにダイブする2人。アリーヤが笑って注意をする。
「火星でこういうことするのはお行儀が悪いんだよぉ!」
「あはは!アリーヤだってしてんじゃん!」
アリーヤがホノカの脇腹をくすぐると、ホノカは笑い出した。
外の砂浜では、シンジ隊員やメイティン隊員、セリア他がバレーボールをしている。楽しそうだ。そこへ、思いがけない遭難者が現れる。火星生物ウルキアの子どもが打ち上げられているのを、シンジ隊員が目撃した。ウルキアの子どもは体長3メートルほど。目はくりっとして、敵意は微塵もない。シンジ隊員がウルキアの子どもに近づいた。
「でっけえ!でもなんか可愛いっすね」
ラッシュガード姿のセリアがビーチサンダルをぺたぺた鳴らして走って来た。ウルキアの子どもを触った。ぷにっとした感触だ。
「はいはい、どれどれ。」
セリアは応急キットを広げながら、子どもの体を調べた。腹部に傷。波に揉まれて岩か何かにぶつかったらしい。
「大丈夫、大した傷じゃないわ。ちょっと縫えば」
アリーヤとホノカが報せを受けてやってくる。
「ここにウルキアの子どもがいるってことは、どこかで親が探しているかも。親が来たら事情を説明しないと―」
その時、遠くの海面が盛り上がった。巨大な影がゆっくりこちらに向かってくる。ビーチにいた全員が凍りついた。岩に腰かけていたナリナァが、そっと立ち上がってアリーヤに訊いた。
「あたしが引き受けようか?」
アリーヤはナリナァを見た。頼もしい目。
「お願い、先生!」
ウルキアの親が現れた。親ウルキアは体長40メートルはあった。穏やかな目で子どもを見つけると、低くやさしい鳴き声を上げた。怒りではない。安堵だ。
ナリナァが前に出た。杖を砂に突いた。
「あんたの子、預かってたよ。ケガしたから手当てしただけさ」
親ウルキアがナリナァをじっと見つめる。数秒。それから大きな頭をそっと下げた。礼をしているのか。ナリナァは子どもを親の方へ押しやった。親が子を連れて、もう一度低い声を出す。ナリナァは微笑む。
「ほら、もうはぐれんじゃないよ。」
こうして、火星生物ウルキアの親子は海へと帰った。隊員たちが拍手をし、ホノカが目を輝かせる。
「ナリナァさんかっけぇ……!」
ナリナァは戻って来て、岩に座り直した。何事も無かったように海を見る。
「怪獣だろうが宇宙人だろうが同じさ。親は子を想うもんだよ。」
火星に夜が来た。スコーピオン号にいたマイクは、通路を歩いていた。ある部屋のドアをノックする。レベッカの部屋だ。
「何?」
「クッキーの礼を持ってきた。入っていいか?」
「……どうぞ」
レベッカの部屋の自動扉が開く。マイクが皿に乗せたパンケーキをレベッカの部屋の机に置いた。
レベッカは泣いていた。ベッドに寝込み、布団にくるまり、マイクに背中を向けていた。
マイクは息をついた。床に座って、あぐらをかいた。
「その……昨日はすまなかった。火星に2人きりにされてよ、どうしていいのか分からなかった」
「だから?」
「だからってワケじゃないが、アリーヤのことは吹っ切れたよ。ほんとにすまん。おれ、あんまり人としゃべらねぇからさ、分かんねぇんだよ、接し方が」
「で?」
「パンケーキを持ってきた。食いたい時に食え」
レベッカがゆっくり起き上がり、机の上のパンケーキを見た。
「マイクって料理できるんだ」
「料理くらいはできる。お前こそ」
「アリーヤが教えてくれた」
「いいや、あれはおれが教えたんだ。2年前にな。」
「あんたがアリーヤに?それマジ?」
「マジだ」
「その話聞かせてよ」
「その話は別にいいだろ。返事がまだだったな」
返事、と聞いてレベッカは布団を上げて、マイクに寄り添った。
「何の返事?」
「とぼけるな」
マイクはそう言って、レベッカにそっと口づけをした。レベッカは待っていたかのように、マイクにしがみついて目と閉じた。
「あんたさ、キスうまいね。誰かとしたの?」
「誰ともしたこと無い。お前が初めてさ」
「マジ?サイコーじゃん」
今度はレベッカがマイクの唇にキスをした。
「返事の返事。マジ愛してる」
「オレもだ」
パンケーキを分け合う2人。スコーピオン号は2人の貸し切りだった。
つづく




