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ピンク・スコーピオン!!  作者: 水柴ロク
31/61

#31 ペガスス星人の主張

挿絵(By みてみん)

地球軌道上。電脳戦艦プロメが何者かに奪われ、敵となった。敵の正体はペガスス星人たちの可能性が高い。前方のペガスス星人は消え、代わりにプロメの巨体がスクリーンに映っていた。大統領が叫ぶ。

「わしのプロメがなぜ宇宙に居る!?宇宙人の仕業か」

アリーヤが面倒くさそうに答える。

「それを今から調べます」

ナリナァは通信を傍受しながら顔色を変えた。

「アリーヤ、まずいよ。プロメがこっちの信号を全部弾いてる」

「えっ、噓でしょ?地球の船だよ?」

「ハッキングだ。外部から乗っ取られた」

プロメの主砲が旋回した。照準は―地球。3連装の砲門に光が収束していく。

大統領は顔面蒼白だ。

「おいおいおい、冗談だろ!?」

ナリナァが言った。

「このやり方はペガスス星人だね。連中は機械に入り込むのが得意な厄介な種族さ。」

アリーヤは拳をぎゅっと握った。頭の中で必死に考えを巡らせる。

「……止めなきゃ。でもどうやって?」

フェンリル星の人工知能・フローラ隊員が前に出た。

「私が止めます。プロメの洗脳を解いて、ペガスス星人に一泡吹かせてやります」

アリーヤはフローラ隊員を見て目を丸くした。

「え、ちょっと待って、1人で行く気?」

「電脳戦なら専門分野です。ペガススのハッキングなんて私の腕で書き換えましょう」

ナリナァは首を振る。

「相手は戦艦1隻丸ごと乗っ取る連中だよ」

フローラ隊員はもうシャトルの方へ進み出していた。

「心配ご無用、30分でケリをつけます」

リッキー隊員が不安そうに言う。

「いや、でもよ、通信遮断されたら連絡も取れねえぞ」

フローラ隊員はすでに接続ケーブルを背負い、小型シャトルに乗り込んでいた。

「隊長、行ってきます」

アリーヤは追いかけようとして、でも足が止まった。今からフローラ隊員を追っても間に合わない。

「……絶対帰って来てね!」

フローラ隊員は返事をした。

「もちろんです!」

シャトルがプロメに向かって射出された。小さな光点が闇に吸い込まれていくのを、残された隊員たちはただ見守るしかなかった。ナリナァは双眼鏡で見ていたが、やがて下ろして言った。

「30分か。長いねぇ」

リッキー隊員がそわそわしている。

「なあ、おれたち何もしなくていいのか?」

ナリナァはため息をついた。

「何もしようがないんだよ、これが。」

大統領が怒鳴った。

「なにもしようがないだと?無責任だ!」

ナリナァが怒鳴り返す。

「あんなぶっそうな鉄の塊を作っておいて、無責任なのはどっちだい?」

次の瞬間、フローラ隊員が乗るシャトルはプロメに無残に打ち抜かれた。シャトルの爆発が見えた瞬間、アリーヤの声にならない叫びが喉から漏れた。

「フローラ……!」

ナリナァは即座にアリーヤの前に立った。肩を掴む。

「アリーヤ、しっかりしな!」

プロメは洗脳されたまま、地球へ向かう。その巨体は何事も無かったかのように地球の降下軌道に入っていた。迎撃態勢にある某国の戦闘機と交戦を開始し、戦闘機は爆破されていく。地表にも爆炎が広がり、陸上戦車も海軍の戦艦にも爆炎が広がる。

ナリナァは歯噛みしながら通信機を叩く。

「地球本部、応答しな!あんたらの戦力じゃ無駄死にするだけだ!退避するんだ!」

返答はノイズだけだった。大統領は机に拳をぶつける。アリーヤは膝から崩れ落ちそうになりながらも、カメラに手が伸びていた。無意識の癖。これを使えば、という誘惑。ナリナァがその手をぴしゃりと叩いた。

「ダメだ、アリーヤ」

アリーヤは震える声でナリナァに言う。

「じゃあどうするの?地球がなくなっちゃうよ!」

ナリナァはアリーヤの目をまっすぐに見据えた。

「地球は無くならない」

アリーヤは涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔で言った。

「でもプロメが……!」

ナリナァが言った。

「あの船はでかいだけの鉄の塊だ。動いているのは中身のコンピューターだよ。そしてペガスス星人はそこに寄生している虫みたいなもんだ。」

リッキー隊員がハッとする。

「……つまり、プロメ本体をぶっ壊す必要はねえってことか?」

ナリナァは頷いた。

「ペガスス星人をプロメから引きはがせばいい。でもね、そのためには船の中に入らなきゃならない」

アリーヤは息を呑んだ。

「さっきフローラが撃ち落されたばかりだ。……それでも行くかい?」

眼下の地球が赤く燃えていた。プロメの砲撃が大気圏外でもはっきり見える。残された時間はそう多くない。アリーヤはティッシュで鼻をかんだ。

「隊員を収集!プロメの内部に入る!」

「まって、アリーヤ!」

ホノカが止めに入る。

「無茶だよ、アリーヤ!」

「こんな無茶、宇宙に行けば日常茶飯事だよ。必ず帰るから」

アリーヤはホノカに口づけを交わした。

次々と隊員が手を挙げた。総勢98名。皆、覚悟を決めた目をしている。ナリナァが言った。

「全員はダメだ。少数精鋭で行く。突入班は20名、残りは船の防衛に回す」

アリーヤは隊員たちの顔を1人ずつ見渡した。目は赤いが、もう泣いてはいない。

「私とナリナァも突入する。」

「あたしゃ留守番って言っても聞かないんだろうね」

「当たり前でしょ。私が隊長だよ」

ナリナァはふん、と鼻を鳴らしたが、その口元はわずかに笑っていた。小型突入艇2機に20名が分乗する。目標はプロメの左舷のメンテナンスハッチ。大統領が言っていた、自軍の訓練で使った侵入経路がまだ有効であることを祈るばかりだった。プロメの内部では、ペガスス星人達が会話をしていた。

「船内左のハッチより、侵入者あり!」

「地球人か?丁重に出迎えろ。償いをさせてやる……」

アリーヤ達はプロメの内部に入った。ペガスス星人が現れた。

「地球人か。この侵略者め」

アリーヤは顔をしかめる。

「侵略者?」

ペガスス星人は鉄の羽を開いた。

「先に我らの銀河に衛星を侵入させたのはお前たちだ。侵略者は始末する」

ヘルメットの中で、アリーヤの目が揺れた。

「衛星……?」

ナリナァが小声で耳打ちする。

「地球が宇宙にばらまいた探査衛星のことだろうね。向こうからすりゃ領土侵犯さ」

ペガスス星人の頭部に埋め込まれた青い水晶体が不気味に明滅している。

「ルールを無視する地球人に、話し合いなど無意味だ」

ペガスス星人が両腕を突き出した。指先から紫色の電撃が放たれる。

フロル隊員が咄嗟にシールドを構えて前にでる。

「隊長、こいつら本気だ!」

ナリナァは素早く周囲を見渡す。

「右の分岐路、サーバールームに繋がってるはずだ。あそこを制圧すればペガスススの浸食を止められるかもしれない!」

ペススス星人が電撃を放ちながらじりじりと距離を詰めて来る。

「地球人は滅びる」

アリーヤは歯を嚙み締めた。カメラに伸びそうになる手を意思で押し留め、代わりに腰のブラスターを引き抜く。

「私たちは侵略者じゃない!まず話を聞いて!」

「侵略者の話は聞かぬ!」

交渉は一言で切って捨てられた。電撃の嵐が通路を白く染め上げる。アリーヤは柱の陰に飛び込む。

「やっぱりこうなるの!?」

ナリナァが煙の中から冷静に指示を飛ばした。

「右、走りな!サーバー室まで突っ切るよ!」

フロル隊員のシールドが焼け焦げている。限界が近い。

「長くは持たねえぞ!」

突入班が二手に分かれた。フロル隊員を含む10名が囮となってペガスス星人を引きつけ、残りの10名とアリーヤ、ナリナァが右の通路へ駆ける。背後で爆発音と怒号が響いた。フロルたちが派手に暴れている証拠だ。ナリナァは走りながら叫ぶ。

「あと30秒!」

追手のペガススが2体。宙を舞うようにして追ってくる。アリーヤは振り向きざまにビームブラスターを撃った。

「悪いけど、止まってもらうよ!」

ペガスス星人1体の肩にビームが命中。動きが鈍る。残りの1体が怒り狂って向かってきた。サーバー室の扉が見える。

サーバー室にはペガスス星人のボス格らしき者がいた。

「我々を見くびってもらっては困る。侵略者には容赦はしない。他人の陣地に侵入した罪を償ってもらうぞ」

他の個体より2回りほど大きいペガスス星人のボス。頭部の水晶体は赤黒く脈動し、白い手のひらを合わせている。ナリナァは入り口から覗いて顔をしかめた。

「ボス格かい。厄介だね」

アリーヤは息が上がっている。ここまで走って来た疲労が全身にのしかかっていた。電脳室の中央に立ったまま動かない、ペガスス星人のボス。背中に鉄のような白い翼が生えている。

「お前たちに選択肢をやろう。大人しく死ぬか、足掻いてから死ぬか」

ナリナァはぼそりと言った。

「隊長、ここは正面からやり合う場所じゃないよ。サーバーに直接アクセスしてペガススの接続を切断できれば……」

アリーヤはナリナァの言葉にはっとした。ペガスス星人のボスの足元、部屋の中央にずらりと並ぶサーバーラック。あれがこの船の神経系統だ。サーバーに近づこうとする気配を察して、ペガスス星人のボスは電撃を一閃放つ。

「無駄だ。私がここにいるかぎり、指一本触れさせん。」

ボスの背後にあるサーバー群、あれにたどり着くにはこの巨体をどうにかして退かさなければならない。とつぜん、シンジ隊員がペガスス星人のボスの手のひらにビームを放つ。ボスは突然よろめいて、宙に浮いたままシンジ隊員を追いかけて行った。シンジ隊員が言い放つ。

「今です、アリーヤ隊長!」

シンジ隊員の意図を理解したアリーヤは、ナリナァに指示を出そうとする。

「ナリナァ!」

ナリナァはもう走り出していた。

「任せな!」

2人がサーバー群に滑り込む。ナリナァが手慣れた動作でコンソールを開き、ケーブルを接続した。シワだらけの指が信じられない速度でキーボードを走る。

ナリナァはプロメの画面を見て顔を歪めた。

「こいつは……船のシステムの8割が食われてるじゃないか!」

ペガスス星人のボスは、シンジ隊員を追いながらも通信で叫ぶ。

「接続を切れ!早くしろ!」

ナリナァはにやりとした。

「言われて切る馬鹿がいるかね。ちょっと時間おくれよ……!」

ペガスス側の防壁とナリナァの攻防が始まった。文字列の滝がモニターを流れ落ちる。ナリナァが押し込まれ、押し返し、また押し込まれる。額に汗が浮く。

「アリーヤ、カメラは使うんじゃないよ……!」

サーバーの傍でナリナァを守るように、ビームブラスターを構えるアリーヤ。祈るような気持ちだった。

「頑張って……!」

ナリナァが最後のエンターキーをばんっと叩いた。

「はい、おしまい!」

サーバー群が一斉に青から正常な白のライトに切り替わる。船内の照明が明滅し―そして、穏やかな白色に安定する。

ペガスス星人のボスは、動きを止めた。水晶体の赤い光が消え、困惑したように体を震わせた。

「馬鹿な……我々の支配が……」

同時に、船外で暴れていたプロメが沈黙した。地球への砲撃がぴたりと止まる。数秒後、自立防衛システムが起動し直した。今度は本来の主人のために。

ペガスス星人たちは地面に着地した。

「……見事だ、地球人。ブルーム星人も」

アリーヤは、はぁーっと大きく息を吐いた。全身から力が抜けてその場にへたり込んだ。ナリナァが肩で息をしながらアリーヤを見た。

「カメラ、使わなかったね。偉いよ」

ペガスス星人のボスは静かに言った。

「我らの星に……お前たちの衛星が来ている。話し合おう」

地球側はペガスス星人側に謝罪のメッセージを送り、ペガスス星人たちはペガスス星へと帰って行った。

地球の軌道上。ホノカが何かを見つけた。

「アリーヤ、あれ見て!」

ホノカが指差す位置を双眼鏡で見ると、そこにはフローラ隊員が乗る脱出ポッドが浮かんでいた。アリーヤは嬉しそうに言った。

「フローラ隊員、無事だったんだね!」

つづく

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