#3 怒りの目
ファゴット城。ダークエリアの中央に位置する、クイーン・ファゴットの城だ。アリーヤは1人、そのファゴットの部屋に招かれた。ファゴットは護衛を1人つけて、玉座に座っている。額から生えたクワガタムシの顎ような大きな2本角は、白く輝いていた。小さな黒い目が、アリーヤに向いた。
「救助隊といったな?地球人」
「名前はアリーヤ」
「地球から来たのか」
「まぁね」
護衛のヌール兵が、アリーヤに怒鳴る。
「なんだその口のきき方は!」
ファゴットは護衛の肩に手を置く。
「まぁ良いではないか。ところでアリーヤ。質問がある。その箱は何だ?」
箱、と聞かれて、アリーヤは自分のカメラの事だと思った。
「親友の形見なの」
ファゴットはニッコリ笑った。
「気に入った。その箱とヌール星の地球人を交換せぬか?」
「話聞いてる?形見なの」
アリーヤのその言葉で、ファゴットの笑みが消えた。
「……特別な物のようだな。カーテンを開けろ」
アリーヤの目の前に、衝撃的な光景が映し出された。イヴとチェンが、手足を縛られ処刑台に立たされている。ファゴットは笑った。
「ビームガンの的に丁度いいと思わんか?」
ファゴットを睨むアリーヤ。突如、部屋にヌール兵の1人が慌てて入ってくる。
「ファゴット様!」
「なんだ、このいそがしい時に」
「地球人の味方と思われる3人が脱走しました!」
「もってのほかだ、射殺しろ」
地球人の仲間。アリーヤの護衛についていた、ヤダヌキ星人レニー隊員と、宇宙サイボーグのニール隊員、そして地球人のネドが逃走している。ビームガンを持ったヌール兵20人が、3人を取り囲む。ニール隊員の顔の緑色のレーダーが、アリーヤの生命反応を捉えた。
「なぁ、天井の上にアリーヤおるで」
「やるか」
2人は膝をおり座り込む。ネドは困惑気味だ。
「ま、まて、お前ら、何をする気だ!?」
レニーとニールは飛び上がり、勢いよく天井を突き破った。アリーヤとファゴットとの間の床を粉砕し、レニーはファゴットに小型ビームガンを向ける。突然の光景に、困惑するヌール兵。
「床を突き破りやがった!」
ファゴットは部下に命令する。
「構わん、撃て!」
ファゴットの部屋にヌール兵が80人駆けつけた。ビームガンでアリーヤ達を撃つが、アリーヤの光のバリアでビームはすべて弾かれた。ファゴットに視線を向け、アリーヤは宣言する。
「チェンとイヴを返してもらう。あんたも止める。両方やるよ!」
ファゴットは彼女を睨んだ。アリーヤは通信機を使ってスコーピオン号に呼びかける。
「全員に通達!戦闘準備、完全武装!目標は2つ、地球人の解放とファゴット城の制圧!」
スコーピオン号がファゴット城にビームを放った。アリーヤはファゴットに報告するかのように言った。
「スコーピオン号から90名ほど転送させていただきました、クイーンファゴット」
ファゴットは叫ぶ。
「たかが90人に何ができる?」
アリーヤは、ピンク色の光を放つカメラをかざした。
「甘く見ないで、ファゴットさん。私たちは、ピンク・スコーピオンよ」
ピンク・スコーピオン。クイーン・ファゴットは、その名に聞き覚えがあった。城の廊下ではヌール兵2万人が救助隊のメンバー90人にビームを放つ。アリーヤの仲間のライアン隊員とマイク隊員、そしてレベッカ隊員が、他の隊員達と共に応戦する。
「いやぁ、楽しいねぇ」
「ピンク・スコーピオン戦闘員勢ぞろいだぜ」
レベッカ隊員がマイク隊員を肘でこづく。
「痛っ、何すんだよ」
レベッカはマイクを睨んだ。
「調子乗りすぎ」
すると大柄で怪力自慢の宇宙人・ガストニオンのバルド隊員が、ヌール兵2,30人を投げ飛ばしていく。黄色い一つ目と、するどい牙を持つ、サイクロプスのような星人だ。
「ドッコイショー!」
救助隊のメンバーは、ヌール兵をどんどん蹴散らしていく。バルドは叫ぶ。
「城のてっぺんは、どこだー!」
その城のてっぺんでは、クイーン・ファゴットが身を震わせていた。
「2万もの我が精鋭を一瞬に?貴様ら、只者ではないな。何者だ?」
アリーヤはめんどくさそうに答えた。
「さっきから言ってるでしょ?ピンク・スコーピオン所属のキャプテン・アリーヤだってば」
「ピンク・スコーピオン……聞いたことがある。宇宙帝国デッド・オリオンを倒し、戦争を終わらせたとな」
アリーヤは複雑そうな顔でファゴットを睨む。
「そ、つまり良いモン」
ニール隊員が叫んだ。
「恐けりゃ降伏しな!」
ファゴットには逃げ場がない。勝つ自信があったのだろう。アリーヤがファゴットに言う。
「地球人を解放して」
ファゴットは言い返す。
「解放など!」
処刑場。ライアン、マイク、レベッカ、バルド達はヌール兵を倒し、チェンを処刑場の柱から解放した。
「よし、鎖が外れたぜ。つぎはお嬢さんだ」
ヌールの軍がまた2千人やってくる。ビームガンをチェンに向けている。イヴが叫んだ。
「逃げて!」
その声を聞いてか、ビームガンの標的がイヴに変わる。チェンは両腕を広げ、イブの前に立ちはだかり、全身にビームを受けた。イヴが見ている目の前で、チェンは血を吐いて倒れる。
「チェン!しっかりして!チェン!」
チェンは全身にビームを受け、虫の息だった。悲鳴を上げるイヴ。ライアンとマイクは叫んだ。
「このヤロー!!」
マイクとライアンはヌール兵2千人にビームガンをぶっぱなす。そして、ファゴット城の最上階でも、戦いが繰り広げられていた。ファゴットはビームソードを取り出し、アリーヤに切りかかるが、アリーヤには当たらない。かすり傷1つつかず、アリーヤが避けると、ファゴットのビームソードが城の柱やヌール兵を刺さしたり切ったりした。ヌール兵たちには恐れをなして逃げ出す者もいた。
「あいつ、味方を!」
ニールとレニーも加勢しようとしたが、ビームガンではアリーヤに当たりかねない。ファゴットは自分の部下を切りつけたことも無視して言い放つ。
「調子に乗るなよ、地球人!この星を開拓したのは我がファゴット一族!この星にいた地球人共を見事に飼いならした!」
「地球人の領土を侵略したワケね」
「だまれっ!!道具をしつけて何が悪い!嚙みつく奴らは処刑だ!」
突如、アリーヤがファゴットのビームソードを右脚で蹴り飛ばす。ビームソードは遠くの床に転がった。しりもちをつくファゴット。おびえている。アリーヤはゆっくりと、しかし怒りまじりにクイーン・ファゴットに歩み寄る。
「今の言葉、取り下げて」
その目は怒りに燃えていた。拳が握られる。
「やめろ、やめてくれ!私が悪かった!」
ファゴットは命乞いをした。アリーヤの拳が止まった。女王は膝をつき、顔を伏せている。
「頼む、もう二度とこの星には手を出さない。約束する」
弱弱しい声……先ほどの威厳はかけらもない。アリーヤはまばたきをしてから、ファゴットに手を差し出した。
「じゃ、宇宙警察に連行するからついてきて。地球人たちの治療もお願いね」
ファゴットの目に冷たい光が走った。懐に手が伸びる。ファゴットの袖口から小型のビームナイフが飛び出した。隙を狙っていたのだ。手を引っ込めたアリーヤ。ファゴットの攻撃を軽く受け流し、みぞおちに膝蹴りをくらわせた。アリーヤは静かに言った。
「うそつき」
ファゴットは床に崩れ落ち、動かなくなった。ファゴットの腕を手錠で拘束し、アリーヤは通信をひらいた。
「こちらアリーヤ。ファゴット確保。繰り返す、ファゴット確保。ダークエリア全域の兵士、そしてヌール星の全兵士に告ぐ、クイーン・ファゴットは倒れた。武装を解除し、投降して!」
アリーヤの放送はヌール星全域に広がった。ヌール兵たちは次々と武器を捨てた。スコーピオン号の治療室から出たゴヌは、つぶやいた。
「指導者を失った軍ほど、脆いものは無い、か」
つづく




