#4 侵入者
アリーヤ達は城の刑場にたどり着いた。チェンは担架に乗せられ、浅い呼吸を繰り返している。
スコーピオン号の船医セリア・アルジェントは、チェンを診た。だまってアリーヤに歩み寄る。脈を確かめることもせず、こう言った。
「間に合わない」
イヴは担架の横に立っている。目に涙がたまり、唇が震えて、言葉にならない。ただチェンの手をそっと握った。ネドは座り、ビームで焼け焦げたチェンを見つめていた。アリーヤが言う。
「イヴ、ネド。今からすることは、秘密にしてね」
アリーヤは赤い指輪を人差し指にはめて、チェンにかざした。指輪が柔らかくピンク色に輝く。助けたいと念じる。あとから来た副長が、目を細めた。イヴは息をのんだ。ネドは目を見開いた。光がチェンを包んだ。体中の傷口がふさがっていく。血の気が失せた顔にぬくもりが戻る。チェンの目が開く。
「あれ、俺、撃たれ……」
イヴがチェンに抱き着いた。声を上げて、子どものように泣いていた。その後、アリーヤたち救助隊は、治療と復興に奔走した。死者の弔い、負傷者の手当て、ガレキの撤去。チェンとイヴはよく働いた。住民たちも少しずつ、外に出てきた。ゴヌもいた。そして、惑星ヌールを出発する朝が来た。ネドは見送りに立っていた。相変わらず仏頂面だが、その目は穏やかだった。アリーヤに何かを差し出した。
「これを持っていけ。お前さんに必要なものだ」
2つ目の指輪だった。イヴとチェンは、並んで立っている。隠れずに堂々と。アリーヤは笑顔で言った。
「支援物資は後日送るから、それまでまっててね」
イヴが前に出た。まっすぐアリーヤを見つめて言った。
「ありがとう」
チェンは隣で笑っている。もう傷はない。イヴと手をつないだ。ヌール星を飛び立つスコーピオン号。ネド、チェン、イヴ、そして地球難民達はそれを見送った。ネドは、ほんのすこしだけ、手を挙げた。あの老人にしては上出来の見送りだった。チェンは大きく手を振って叫んでいる。声が届くわけもないのに。イヴはチェンの手を引いて二人で笑っていた。3つの影が小さくなっていく。スコーピオン号がヌール星から遠ざかっていく。操縦室の窓から、アリーヤはしばらくその方角を見つめていた。
「絶対、宇宙を平和にするから」
スコーピオン号は大気圏を突破した。アリーヤはこっそりとカメラを握りしめる。
「ミカ……」
アリーヤは寂しげに、その名を呟いた。宇宙空間に出て、何光年も進んだ。ヌール星系を離れ、ワープのトンネルを抜ける。数日が過ぎた。操縦席に居たファルコン隊員が異変に気付いた。
「あれ、ここどこ?」
通信員のヴィナ隊員も、不思議がっている。
「おかしいわね。星図に乗っていない宙域……未知の領域に来た」
アリーヤはそれを聞いて、困り顔になった。早くダークエリアの地球難民たちに、物資を届けなければならない。
「道に迷った?一旦引き返そう」
ジュリア副長は、レーダーを見つめながら報告をした。
「隊長、前方に重力異常を検知。何かあります」
アリーヤはモニターに目を凝らす。近づくにつれ全貌が見えてきた。球体を半分に切ったような形状。表面には見慣れないマークがあった。
「あれ、何だろう」
その時、アリーヤの背後にフードをかぶったひげ面の男が現れた。
「あれはね、元フェンリル星だよ。今は、死の星だ」
アリーヤは振り返る。
「誰!?」
男はフードを下ろす。見覚えのある顔だった。
「ゴヌ・ピット、賞金稼ぎ。いや、今はしがないトレジャーハンターかな」
スコーピオン号の操縦室に、突然現れたその男は、ヌール星に居た元レジスタンスの1人・ゴヌだった。彼は呑気そうに、室内を見回す。
「喉がかわいた。飲み物ない?」
アリーヤは警戒を解かずに、ゴヌを見つめた。
「どうやって入ったの?」
ゴヌは肩をすくめた。
「フェンリル星の話、聞きたくない?話の報酬は、君が持ってる指輪」
ゴヌはカメラを指差した。アリーヤは身構えた。指輪が内蔵された1眼レフカメラを握りしめる。ゴヌは誤解を解くかのように言う。
「まぁまぁ、奪おうってんじゃない。見せてくれるだけでいいさ。」
アリーヤは質問をする。
「チェンと一緒にいた人だよね。何でここに?」
ゴヌは頬を指でかきながら、質問に答える。
「あいつらとは同じ目的で組んでただけだ。レジスタンスのね。君のおかげで、ヌール星に平和が戻った。自分は平和好きでね」
ゴヌは、自分が右手に着けている指輪をアリーヤに見せた。
「これが欲しいんだろ?」
それはアリーヤが探している3つ目の指輪だった。室内がざわついた。ゴヌが喋り出す。
「俺の仲間にトランってヤツがいてね、そいつもトレジャーハンターなんだ。今ここにはいないがね」
アリーヤは指輪とゴヌを見つめた。周囲の隊員らと共に、警戒を強めた。
「それ、本物?」
「本物だよ。さわってみるかい?」
アリーヤの警戒を見抜いて、ゴヌはふっと笑った。
「まぁいい。話を戻すと、フェンリル星は40年前に滅んだ。原因は内戦。フェンリル星人は互いを殺しあって、星ごと壊した。指輪はその原因であり、呪いだ。」
ゴヌの手の光は微かに脈打っていた。
そのころ、宇宙空間の別の場所では……スクラップをかき集めて作ったような宇宙船に、トレジャーハンターである、トランが居た。バザラジア星人トランは、拳を壁に叩きつける。他のバザラジア星人や、ウィーヴィル星人等の取り巻きが一瞬、沈黙した。
「ゴヌに指輪を集めさせてたまるか!あれは俺が先に見つけたんだぞ!」
トランは指輪を力としてしか見ていない。サメのような歯をガチガチ鳴らしながら、トランは自分のボディガードのネイビーピューマに命令を下す。
「おいピューマ。次の惑星で情報を集めろ。ゴヌがどこへ向かったか……」
しかし、ネイビーピューマは振り向かず、淡々と返事をした。
「報酬分の仕事はする。それ以上は約束していない。」
ネイビーピューマは窓を見る。ヘルメットで顔を隠し、装甲服で身を包んでその場に立っていた。窓の向こうには宇宙空間が広がっていた。
スコーピオン号の会議室では、アリーヤがゴヌの処置で他の幹部たちと話し合っていた。ゴヌ本人には来客室に居てもらっている。来客室の入り口には見張りの隊員が2人立っている状態だ。会議室に居る幹部の1人、フロル隊員が話し出した。
「ゴヌの事だが、慎重になった方がいいぜ」
メイティン隊員も同意見のようだ。
「彼の目的が何であれ、あの指輪を持ってる事実は変わりないからね」
ガストニオン族のバルド隊員が意見する。
「それを分かった上でどうするって話じゃないのか?この会議は」
ジュリア副長は眉間にシワを寄せたまま、腕を組んだ。
「得体の知れない人物を乗せたまま、救助活動は継続できません。どこかの星に降ろして行かないと」
アリーヤは皆の意見を聞きながら、黙って座っていた。すると、会議室にゴヌがひょろっと入って来た。
「本人不在の会議って訳かな?おれも仲間に入れてよ」
幹部たちがざわめくが、アリーヤがゴヌに訊いた。
「見張りはどうしたの?」
「ジェイソンさんとリッキーさんには、眠って貰ってるよ。」
ゴヌは過去を話し始めた。
「おれの親父はフェンリル星人だ。子どもの頃、大人たちは指輪を欲して内戦を始めた。正義の為じゃない。欲のためだ。一つの星を焼くほどの欲だよ」
ゴヌ・ピットはアリーヤをまっすぐ見た。
「だから聞きたい。君は指輪を12個すべて集めて、何を願う?」
「……宇宙平和」
「……綺麗事だね。俺の親父はそれで死んだんだよ。平和のためにね」
アリーヤは言い返す。
「平和が好きって言ってなかった?」
ゴヌは黙り込んだ。突如、船内に警告アラームが鳴り響く。
「フェンリル星と本艦付近に高エネルギー反応!」
ゴヌの顔色が変わった。椅子を蹴って立ち上がる。
「なんだと!?あれは40年前に全機停止したはず―」
ナビゲーターの悲鳴のような報告。
「数6!こちらに向かっています!」
アリーヤは走り出した。
「全員戦闘配置!」
つづく




