#2 指輪
アリーヤ達が乗る宇宙船スコーピオン号は、ヌール星のダーク・エリア上空に居た。記録係のローラ隊員と共に、アリーヤは船内エレベーターに乗る。アリーヤが口を開く。
「情報をもらった。助けた地球人について。彼らはレジスタンス」
「レジスタンス?」
「ヌール政府の暴力支配から地球難民を解放するレジスタンスだよ。ヌール星のクイーン・ファゴットがダークエリアに来るらしい」
「何のために?」
「話によると、ヌール星のファゴット一族は、先にいた地球難民を隔離して奴隷にしている。レジスタンスは、ファゴットがダークエリアの視察に来るという情報を聞きつけて、全員で奇襲を仕掛けた。でも、ヌール政府の圧倒的な力によりレジスタンスは壊滅、生き残ったチェンとゴヌは下水道へ逃げ込んだ」
船内エレベーターが停まり、廊下を歩くローラとアリーヤ。
「調査班がダークエリアに潜り込んでるけど、空気は澄んでる代わりに地球人が強制的に働かされているって。無償でね」
ダークエリア内部では、ヌール星人にムチうたれて働く地球難民たちを、双眼鏡でイトウ・マイク隊員が見ていた。
アリーヤとローラはスコーピオン号の操縦室に着いた。自動扉が開き、ジュリア副長が待っている。オレンジ色の瞳を持つ黒髪の女性。アリーヤより背が高く、歳上だ。
「隊長、今後の行動計画について幹部会議の時間です。それと、先ほどダークエリア側から反応がありました。言語解析の結果、返信が来ています」
副長はタブレットを差し出す。アリーヤが読み上げる。
「えっと……”よそ者が何の用だ。帰れ”……ただし、昨日の連中を追い払った件については、借りがある。話だけは、聞いてやる。素直じゃないね」
アリーヤはタブレットを副長に返し、背伸びをした。副長が心配そうに言う。
「こちらから使者を出しますか?」
「使者は私が行く。チェンを連れてく」
ジュリアの眉間にしわが寄る。
「今度は護衛を2人はつけてください」
「分かったよ。言っとくけど、私は現場主義なの」
アリーヤはそう言って、タブレットを副長に返した。副長が呼びかける。
「隊長」
「何?」
少し間を置いてから、副長が忠告をした。
「カメラの使用は控えてください」
副長の言葉に、アリーヤは微笑みながら返す。
「わかってる」
ダークエリア内部・東側。アリーヤは、護衛のニール隊員とレニー隊員、そしてチェンと共にダークエリア内を歩く。チェンには丈の合うシャツをあげ、それを着てもらった。
ヤダヌキ星人のレニー隊員が、遠くに居るヌール兵を見つけた。
「隊長、昨日のヌール兵がこっちを見てるぜ。」
アリーヤは気にせず歩いた。
「だいじょうぶ。撃ってこないし」
通りの奥からの視線。ぼろぼろのマントとフードを着た大男が一人立っている。アリーヤは小さく息をつく。
「返事をくれた人?救助隊の使者です。」
風が通り抜ける。大男の顔はフードで隠れて見えない。
「昨日、ヌールの犬を叩いたのはお前か」
「叩いてない。向こうが逃げた」
「対価は」
「……宇宙」
「宇宙だと?」
そっとカメラを握るアリーヤ。敵意じゃない。建物の影、窓の奥、路地の角、地球難民7、8人が全員こちらを見ている。
大男は片手を軽く上げる。気配のいくつかがスッときえる。
「見ての通りだ。ここはお前が思うほど平和じゃない」
「わかってる。だから来た」
「教会にネドという老人が居る。話はそいつとしろ。」
チェンはビクリとした。アリーヤが訊ねる。
「教会、知ってる?」
チェンは顔をふせて言った。
「……イヴがいる」
「イヴ?」
「何でもない、こっちだ」
4人は崩れた街並みを進む。宇宙文字の看板は、朽ちて読めない。どこもかしこも朽ちている。教会は、上り坂の上のガレキの隙間から古びた鐘が覗いた。昨日のあの音がした。蔦におおわれた石造りの建物。屋根の一部は落ち、ステンドグラスは半分割れているが、教会はまだそこにあった。教会の扉から、短い銀髪の少女が出てくる。青白い肌、古い傷跡がいくつもある。
「チェン」
チェンを呼んだ少女は、アリーヤを見ても無表情だ。チェンは、ばつが悪そうに頭をかく。
「イヴ……あー、その、こいつら昨日ヌールの兵士を・・・・・」
「ネドに用?」
イヴと呼ばれた少女は、アリーヤに向かって言った。アリーヤは応答した。
「うん、ネドさんに会いに来た」
イヴは、扉を開ける。
「どうぞ。ただし、中で変なことをしたら、帰れると思わないで」
(教会の中は幾分マシ。割れたステンドグラスから差し込む光が、ホコリの粒子を金色に照らす。長椅子は半分朽ちていたが、残りはまだ座れそう)
ステンドグラスのそばの小さな椅子に、小柄な老人が腰かけている。白髪と白髭に埋もれた顔の中で、目だけがギョロリと光っていた。ネドだ。アリーヤをじっと見つめる。
「お前さんか。外から来たのは」
ネドの隣に、静かに座るイヴ。アリーヤは自己紹介をした。
「アリーヤ・カルティエ。救助隊の隊長です」
「隊長ね、ずいぶんと若い。」
「ダークエリアの人たちを助けに来ました。欲しいものは?」
ネドは、ツエをゴツンと鳴らして白いあごひげを撫でた。
「欲しいもの、ときたか。」
イヴは動かない。チェンは入り口近くの壁にもたれて腕を組んでいる。
ネドは猫背のまま、指折り数える。
「水、食い物、薬。安全、あとは、自由。全部ない。ここにあるのは名前だけだ」
「全部は保証できませんが、用意します」
「「全部は」、か。正直だな」
レニー隊員とニール隊員が言い返す。
「安請け合いできる規模じゃねえんだよ」
「助けられる側の自覚ある?」
アリーヤは隊員2人を静止する。
「やめて、2人とも。できることはする!」
ネドはイブを横目で見る。イヴは首をわずかに横に振る。信用するな、という意味か。
アリーヤに視線が向いた。
「1つ聞く」
「何?」
「お前さん、何が目的だ?」
アリーヤは、首に下げたカメラを開き、内部の赤いレンズを見せる。赤いレンズは金色の指輪にはめられており、薄く光っている。ネドの目つきが変わった。
「!!……それは!!」
ネドが指輪を見た瞬間の反応は、明らかに初めて目にするものに対するそれではない。アリーヤは指輪の説明をした。
「宇宙に散らばる12個の指輪の1つ。この指輪を全部集めると、どんな願いでも叶うって言われてる。ま、簡単には手に入らないけど」
ネドは髭をさすった。
「なるほどね」
その時、ニール隊員の腕時計型通信機に通信が入った。仲間の隊員からだ。
「ダークエリアの中央部で放送が流れた!ヌール星人め、何かやらかすつもりだぞ!」
教会を飛び出すアリーヤ。大音量での放送が流れる。
「レジスタンスよ、降伏してファゴット城に来い。私はクイーン・ファゴット!レジスタンスよ!降伏か死か!」
「……下衆め」
アリーヤはまだ見ぬ敵に毒づいた。ダークエリア内部の町を、ヌール星人の兵が武装し、パトロールしている。武装兵は地球難民の一般人を警棒で殴りつける。朽ちた建物は重機で破壊され、町は混乱状態だ。ヌール兵の1人がアリーヤに気付く。
「動くなよって言ったよなぁ、お嬢ちゃん」
アリーヤとネド、イヴ、チェン、そして護衛の2人も、抵抗むなしくヌール兵に押さえつけられた。
「クイーン・ファゴット様からの命により、レジスタンスを連行する!」
アリーヤは笑った。怒りを隠す為の作り笑いだ。
「ボスに会わせてくれるの?」
ヌールの兵士に取り押さえられたアリーヤ達は、囚人用の馬車に乗せられ城に向けて連れていかれた。
大型の爬虫類が引く馬車は、乗り心地がイマイチだった。
やがて、ダークエリアの中央に差し掛かると、大きな城が見えてきた。
つづく




