#29 愛情
宇宙船スコーピオン号は、アリーヤと火星政府の指示で、火星の衛星フォボスの地表に着陸していた。前回、ピンク・スコーピオンが地球へ来た時、宇宙人が目撃されたと地球中で騒ぎになったからである。デラウマ星人デックス隊員は、また地球へ行けると楽しみにしていただけに、それはもうガッカリしたとのことだ。
「おいら、また地球のフランクフルトが食べたいよ……」
ローラ隊員がデックスをなだめた。
「しょうがないよ、前に私ら、地球のパトカーに追いかけられたし、安全のためには火星かフォボスに居るしかないよ」
通信員のヴィナ隊員が、操縦席に居るジュリア副長に報告をする。
「火星政府から惑星上陸の許可が下りました」
「そうか。ではしばらく、火星のリゾートパークで休憩しようか」
ジュリア副長が返事をすると、デックスは目を輝かせた。
「火星ってうまいもんあるかなぁ!!」
「そりゃあるとも。私はオリンポス山付近の化石を観察してみたいね」
フロル隊員とレベッカが、操縦室に入って来た。
「スコーピオン号の内部メンテナンス、全て完了しました。」
ジュリア副長が返事をする。
「ご苦労。フロル、レベッカ。火星で休暇を取るよ」
レベッカが目を丸くした。
「アリーヤがまだ地球にいますよ?」
「隊長は良いんだ。今頃デートの最中さ」
「デ、デデデート!?お相手は……」
フロルがレベッカのおでこを人差し指で押した。
「変なこと訊くな、馬鹿。個人的な用事だよ」
「馬鹿とは何よ!」
フロルは小声で耳打ちする。
「火星リゾートに行くんだ。マイクと二人きりになれるチャンスだぞ」
そう言われてレベッカは、顔から火が出るような顔になって言い返す。
「そういうこと、ここで言わないで!」
レベッカは恥ずかしさのあまり操縦室から廊下に走り出て行った。ジュリア副長が不思議そうに訊く。
「マイクがどうかしたのですか?」
フロルは答えた。
「個人的な事さ」
スコーピオン号にはナリナァも乗っていた。地球に来る前にブルーム星に寄ったらしい。医務室で、船医のセリアと話をしていた。セリアがナリナァの健康診断をしながら茶化して言った。
「あんたがこの船に乗ってるの、初めて見たわ。」
「初めて乗るからね。悪くない。」
「あたしらの付き合いももう2年ね」
「モヨがあんたとアリーヤ達を連れて来てたね。あんたが洞窟の穴に落っこちて、アリーヤが助けに行ったんだ」
「覚えてるわよ。そこで初めて会ったんだもの」
「モヨはブルーム星人全員を気にかけてくれてるよ。天国にいる、今もね。墓守はあたしのひ孫に任せてある。あいつももう大人だからね」
「ブルーム星人の成人って何歳からなの?」
トレーニングルームでは、マイク隊員が体を鍛えていた。かつての傷もすっかり治り、ダンベルを使うマイク。トレーニングルーム責任者のポール隊員が見守っていた。
「あんまり無理するなよ、マイク。火星のリゾートパークに行くんだ。プールで泳いで来いよ」
「ここでいい。」
「そんなこと言ってたら人生楽しめねえぞぉ?遊ぶことだって大事だ」
「……余計なお世話だ」
マイクはダンベルを置いてシャワールームへ向かった。特に惑星からの救助依頼も無く、一見すると平和な日々が続いている。マイクがトレーニングルームから出ると、ハズク星人の情報員・ピグー隊員が立っていた。赤い瞳をしたフクロウ型のハズク星人は、くちばしを鳴らしてからマイクに近づいた。
「アリーヤが地球でデートしてるって噂だよ」
「何が言いたい?」
「あたいはね、分かるんだよ。あんた、アリーヤが好きなんだろ?」
「さぁな。噂好きもたいがいにしろ」
「噂話を事実に結び付けるのがあたいの仕事さ。レベッカとフロルの噂も聞いていくかい?」
マイクの足が止まった。背の低いハズク星人を睨み見る。
「俺にまとわりつくな。」
ピグーはひひひと笑った。
「おお、怖い。用事ができたから、ムルミンの部屋に寄るよ」
マイクは返事をせずに歩き始めた。ピグーは逃げて行った。廊下を歩いている最中に、レベッカと出会った。レベッカが目を見開くのを見て、マイクは眉をひそめた。レベッカが声をかける。
「あ、あの、マイク……」
「何だ」
「こないだはさ、あんたの脚、蹴ったりしてごめん」
「いつの話だ」
マイクが歩き去ろうとすると、レベッカがしがみつく。さすがにマイクも驚いた。
「何の真似だ?」
「……好き」
「……は?」
レベッカはマイクにしがみついたまま、クッキーが入った箱を見せる。
「クッキー焼いたから、食べて。好きって意味わかるよね?愛してるって意味だよ」
そう言ってレベッカは、焦るようにむりやりマイクにクッキーをプレゼントして、走り去って行った。
「おい!」
マイクが呼び止めようと叫んだ頃には、彼女はもう走り去った後だった。箱の中にハート型のクッキーが並ぶ。ため息をつくマイク。アリーヤに振られた日から何週間も経っているが、心の底では、まだアリーヤのことを諦めきれずにいた。
部屋に戻り、机にクッキーの入った箱を置いた。背中で壁にもたれ、そのまま座り込む。ゴミ箱に目をやった。が、考え直して視線を戻した。息を吸って、吐いた。
「どうすりゃいいんだ……」
マイクはつぶやいた。一方、地球では、アリーヤとホノカが昨日の公園で待ち合わせをして、ソメイヨシノのサクラの木の間を2人で歩いた。ベンチが見えた。アリーヤがホノカの手を引いて言う。
「あそこのベンチでお昼にしようよ!今朝、お弁当作ったからさ!」
「手作り!?」
「そうだよ。お花見しながら食べるの!」
アリーヤはにっと笑った。2人がベンチに座ると、急にアリーヤがホノカにハグをする。ホノカは戸惑う。
「この前のお礼がまだだったから、させてもらうね……」
アリーヤは自分より背の高いホノカの顔に顔を近づけ、彼女の唇にキスをした。
ホノカは座ったまま、アリーヤからの口づけを受け入れた。ソメイヨシノの花が満開だった。
つづく




