#27 子どもたちの選択
「ウルカスが生きてる間は、やつはギルズ側の利権をずっと狙っていた。グネルはオクティア星の首都ワモンに居る。やるか?」
セリアは静かにうなずく。老人は笑った。
「利害の一致だ。よろしくな、相棒」
2人は基地を抜け出した。老人は基地の構造を知り尽くしていた。排水トンネル、古い換気扇、職員専用の裏口。まるで自分の庭を歩くように。老人が足を止めた。ダクトの出口。首都ワモンのビル群が、眼下に広がる。
「あれだ」
首都の中心にそびえる黒い塔。オクティア星政府庁舎。屋根にオクティアの国旗がはためいていた。老人は声を潜めて言った。
「グネルは最上階。護衛は20人」
グネルはこの星のビームガンをセリアに渡した。
「ビームガンは敵をマヒさせる。殺しはしない。実験の証人には生きていてもらわんとな」
2人が庁舎に侵入した。非常階段を駆け上がる。15階、20階。警報が鳴る前に老人が制御盤を切った。電源が落ち、暗闇の中を進む。30階の踊り場。見張りが2人。ビームが2筋。マヒした護衛が床に転がった。先へ。セリアと老人は走る。老人は息が荒い。
「あと少しだ。」
最上階の真ん中に大きな扉がある。電子ロック。だが老人が端末を繋ぐと、あっけなく解除音が響いた。重い扉が開いた。扉の向こうには巨漢のオクティノイドがいた。惑星オクティアの支配者・グネルだ。
「クトゥール博士か。何の用だ?」
背後からタコ型ヒューマノイドのオクティノイド兵が姿を現した。オクティア星の光学迷彩。部屋の隅に潜んでいたらしい。銃口はセリアと、クトゥールと呼ばれた老人のオクティノイドに向いている。グネルが口を開いた。
「やれ」
兵士が老人をビームガンで撃つ。青い血が飛んだ。胸を押さえて膝をつく。セリアが老人に駆け寄る。グネルは葉巻の煙を吐いた。
「裏切者が」
セリアはビームガンを構える。グネルは動じない。
「撃てばいい。その瞬間お前も終わりだ」
オクティノイドの兵士の銃がセリアを捉えている。絶体絶命。これまでか―
セリアが目をつむったその瞬間、グネルの目の前に、セリアを助けたあの少女が現れた。グネルの顔色が変わった。葉巻が手から落ちる。
「な―お前は―」
動揺したグネルがマシンガンを取り出すが、少女は消えていた。兵士がグネルに気を取られている隙に、セリアは場の全員にマヒ弾を撃った。青白い光が部屋を走った。兵士5人が次々と倒れる。オクティノイドたちは痙攣しながら床でのたうつ。グネルはマヒ弾を食らって片膝をついている。巨体が震えている。
「き、貴様……」
セリアは息を吸って、吐いた。
「オクティア星のグネル。あんたは宇宙警察行きよ」
セリアの目の前にあの少女が現れ、微笑んで消えた。セリアは少女が居た場所を見つめた。一瞬だけ。
「……ありがとね。」
老人はまだ息があった。セリアはその場の物でできるだけの応急処置を、老人に施した。老人は咳き込みながら、笑った。掠れた声で。
「ざまぁみろ、グネル」
後日、アリーヤたちは開放された。ギルズ側の共犯者リストをギルズ警察に見せると、アリーヤの指紋がついた偽証拠のリップクリームは焼却処分された。船医セリア、副長ジュリア、そしてバルド隊員含む全員がスコーピオン号に集合できた。アリーヤは全員の顔を見渡した。欠けた者がいないことを確認して、謝った。
「みんな、ごめん。」
ジュリア副長が手を叩いて言った。
「結果オーライですよ。ね、皆さん!」
船内に拍手と笑い声が広がった。重かった空気が溶けていく。1時間後、ジュリア副長はタブレットをアリーヤに渡した。
「エルク星、ギルズ星、そしてセリアが体験したこと全部まとめてあります。読んでおいてください。あと、エルク星のポッドはギルズ星のものであると、データ分析結果が出ました」
アリーヤは息をついた。
「読書は好きだよ。セリアを助けてくれた子、きっとセリアに感謝してるよ」
スコーピオン号は支援物資を積んで再びエルク星に向かっていた。
「子どものまま永遠に楽しい時を過ごすのが、幸せなのか、それとも現実に向き合って大人になるのが正しいのか……」
その選択は子どもたち自身が決めるだろう。
つづく




