第95話:砂漠の絶品グルメ! 骨付き燻製リブとルビーカクタス・シャーベット
「ぐううううううぅぅぅぅぅぅぅぅ……っ!!」
熱々の鉱石砂風呂と真鍮スチームサウナで極限まで老廃物を絞り出し、冷水風呂と外気浴で「完全にととのった」コレットの腹から、地平線の彼方まで届きそうな豪快な虫の音が鳴り響いた。
続いて、周囲にいた機械工たちや露天風呂に浸かっていた市民たちの腹からも、まるで連鎖爆発のようにゴロゴロ、ギュルルと猛烈な腹鳴りが響き渡る。
全身の血行が劇的に促進され、長年こびりついていた重油のスラッジが清らかな汗とともに抜け落ちた身体は、今まさに新たな純粋なエネルギーを激しく欲していたのだ。これまでの人生で一度も味わったことのない、狂おしいほどの強烈な空腹感であった。
「あ、あはは……。なんだかお腹が空きすぎて、目が回りそう……」
「がはは! コレットちゃん、そりゃそうさ! こんな極上の風呂に入って毒素を出し切ったんだ、身体中の細胞が『飯を食わせろ』って叫んでやがる!」
長老技師が笑いながら腹をさすった、その時――。
工房の通用門から、白い清潔なエプロンを身にまとったエレナと、大型の耐熱真鍮トングを手にしたアッシュが、濛々と香ばしい白煙を立ち上らせる特大の鉄板ワゴンを押して現れた。
「皆様、大変お待たせいたしました! 砂漠世界の大復興とギガ・ボイラー再稼働を祝う、本日の特製サウナ飯コースですわ!」
ジュウウウウウウウウウッッッ!!
ワゴンが近づくにつれ、広場全体に暴力的なまでの肉とスパイス、そして燻製の芳香が解き放たれた。
薪には、砂漠特有の油分を含んだ香木と、アッシュが地上世界から持ち込んだ乾燥ヒノキのチップを贅沢にブレンドして使用している。立ち上る煙の匂いだけで、喉仏がゴクリと上下し、口の中に唾液が洪水のように溢れ出す。
「な……な、なんですかこの、嗅いだこともないいい匂いはぁぁぁっ!?」
コレットが琥珀色の瞳を丸く輝かせ、身を乗り出した。
巨大な鉄板の上に山のように積み上げられていたのは、アッシュがギガ・ボイラーの排熱スチームオーブンを駆使し、超臨界蒸気の減圧低温スチームでじっくり六時間蒸し焼きにした後、高温の遠赤外線で香ばしくローストした【砂漠野牛の骨付きジューシー燻製リブ】であった!
砂漠の大地に自生する野生のハーブと神聖粗塩を擦り込み、エレナ特製のスモーキーバーベキューソース――完熟トマトと蜂蜜、林檎果汁、スパイスを神聖純水で煮詰めた漆黒のタレ――を何重にも塗り重ねて焼き上げられている。
艶やかに黒光りするソースの表面で、透明な肉汁がチリチリと音を立てて弾けていた。
「熱々のうちに、トングなんか使わず手掴みで豪快にかぶりついてくださいまし!」
「い、いただきますっっ!!」
コレットは真鍮の指先で骨の両端を掴むと、立ち上る湯気も構わず、大口を開けてかぶりついた。
パリッ……!
ジュワアアアアアアアアッッッ!!!!
「…………っっっっっっっっっっっっっっっ!!!!」
噛み締めた刹那、コレットの動きが完全に静止した。
次の瞬間、琥珀色の大きな瞳から、大粒の涙がボロボロと溢れ落ちる。
カリッと軽快な音を立てて弾けた香ばしい皮目。その直後に押し寄せてきたのは、信じられないほど柔らかい肉の繊維と、舌全体を覆い尽くす濃厚で甘やかな肉汁の津波だった。
燻製の奥深いスモーキーな香りと、甘辛くスパイシーなソースのコクが、野牛の野性味あふれる赤身の旨味を極限まで引き立てている。歯を軽く立てただけで骨からスルリと肉が離れ、噛む必要すらないほどホロホロと口の中でほどけていくのだ。
「う……美味い……!! お肉が……お肉が舌の上で溶けていくよぉぉぉっ!! 柔らかくて、ジューシーで……こんなご馳走、生まれて一度も食べたことない……!」
周囲の市民や技師たちも、我先にと骨付き肉に飛びついていた。
『うめええええええっ! なんだこの肉の柔らかさは!?』
『今までメガ・バロン重工に配給されてた、重油臭くてパサパサの合成タンパク質ブロックとは天と地ほどの差だ!』
『骨から肉がするりと外れるぞ! 脂が甘い! 噛むたびに肉汁のスープが口から溢れ出して止まらない!』
老いも若きも油まみれの手でリブを掲げ、指についたタレまで愛おしそうに舐めながら、涙を流してかぶりついている。
そこへ、エレナが霜の降りた銀の特製ジョッキをコレットに差し出した。
「コレット、これでお口を潤してくださいな!」
雨によって奇跡の復活を遂げた砂漠の幻の多肉植物『ルビー・カクタス』。その真っ赤に熟れた甘酸っぱい果汁を、神聖水のクラフトエールに贅沢にブレンドした【特製ルビーカクタス・フローズンビアカクテル】!
ジョッキの表面にはシャリシャリとした細やかな氷の泡が盛り上がり、ルビー色の液体が夕陽のように輝いている。
コレットがジョッキを両手で持ち、喉を鳴らして一気に煽った。
ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ……ぷはあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
「くぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーっっ!! 冷たいっ! 甘酸っぱくて、シュワシュワして……最高ぉぉぉっ!!」
濃厚なリブの脂とスパイシーなタレを、キンキンに冷えたフローズンエールの爽快な炭酸とフルーティーな酸味が一瞬で洗い流し、口内を爽やかに整える。そして口がさっぱりした瞬間、再び熱々の骨付き肉にかぶりつきたくなるという、禁断の無限ループ!
さらに付け合わせとして振る舞われた、排熱オーブンで皮ごとホクホクに焼き上げた【砂漠芋の神聖発酵バター添え】や、冷水でシャキシャキに締めた砂漠レタスとオニオンのピクルスが、肉の旨味をどこまでも後押しした。
「がはは! 美味い、美味すぎる! 酒も肉も無限に腹に入るぞ!」
「神聖浄化水道局、万歳! アッシュ様、万歳だーっ!」
広場は歓喜の怒号と笑い声に包まれ、誰もが腹の底から笑い合っていた。
宴の主役たちである神獣たちも、それぞれの大好物に夢中だった。
白銀の天狼コハクとケルベロスのクロは、アッシュが切り分けた特大の骨付き肉を骨ごとバリボリと豪快に噛み砕き、満足げに尻尾を振り回している。不死鳥ルビーは香草をまぶした焼き肉を嘴で器用についばみ、第四の神獣である紫電の神鹿ライカは、紫水晶の角を夜空に煌めかせながら、神聖水で洗った瑞々しい香草ハーブと果実を嬉しそうに咀嚼していた。
そして――新たに仲間に加わった第六神獣、メカ白狐シロガネの前には、専用の真鍮ボウルが置かれていた。
中に入っているのは、アッシュが神聖純水と高純度エーテルオイルを黄金比でブレンドし、超音波で細かく乳化させた【特製ナノエーテルミルク】だ。
「ほらシロガネ、お前の分のサウナ飯だ。しっかり燃料補給しろよ」
「きゅるるんっ♪」
シロガネはエメラルドの瞳を嬉しそうに細めると、九本のフワフワした尻尾をプロペラのように高速回転させながら、夢中でボウルに顔を突っ込んでミルクをペロペロと平らげ始めた。
白銀のナノ装甲がミルクを吸収するたびに美しく輝きを増し、満腹になったシロガネは、アッシュの膝の上にコロンと丸まって幸せそうな寝息を立て始めたのだった。




