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第92話:ウォーターカッター一閃! 重油要塞ごとCEOグレゴリー両断ざまぁ

「ボ……ボイラーの熱暴走が……止まった……!?」


 スチーム・シティの全市民が、そしてレジスタンスの工房の技師たちが、静まり返った都市の中央タワーを見上げて息を呑んだ。

 大地を揺るがしていた不吉な地鳴りは完全に消え去り、天を衝く何千本もの排気煙突からは、黒煙ではなく、透き通るような真っ白で清純な水蒸気がモクモクと空へ立ち上っている。

 その蒸気は、街を覆っていた重油の悪臭を吹き飛ばし、まるで雨上がりの森のようなみずみずしい潤いを都市全体へと届けていた。


『き、奇跡だ……! ボイラーが爆発しなかったぞ!』

『助かった……! 俺たちは助かったんだぁぁぁっ!!』


 街中の路地裏から、何百万人もの市民たちの涙と歓喜の大歓声が地響きのように爆発した!

 だが――その歓喜の空の下、たった一人だけ、絶望と怒りに顔を真っ赤に歪めている男がいた。


『お、の、れぇぇぇぇっ! 何という余計な真似をしてくれたのだ! 我が社の爆発保険金と、水独占による株価高騰のシナリオがすべて台無しではないかぁぁっ!!』


 メガ・バロン重工のCEOグレゴリーであった。

 都市の最上層カタパルトから、彼が乗り込んだ全長百メートルの超重戦車要塞型次元脱出艇『メガ・アーク号』が、黒煙を噴き上げて無理やり離陸しようとしていたのだ。

 船内には、市民から巻き上げた金銀財宝とレアメタル、そして世界中から奪い取った最後の重油タンクが山積みにされている。


『どけぇぇぇっ! 邪魔をする貧民どもは轢き殺して脱出する! 全次元推進器、最大出力ぉぉっ!!』


 超重戦車が幅広の巨大キャタピラで都市の防壁を粉砕しながら、猛烈な勢いでカタパルトへ突進してくる。

 その行く手に、一人静かに立ちはだかったのは――泥と煤にまみれた青い作業着を着たアッシュであった。

 腰には工具ベルト。右手には、地底三万メートルから直結された超高圧送水ノズルが握られている。


「コレットたちから水を奪い、街を爆破して自分だけ逃げようとしたツケだ。……きっちり耳を揃えて払ってもらうぞ」

『ガキが調子に乗るなぁぁっ! 水鉄砲ごときで、我が社が誇る重油複合オリハルコン装甲を傷つけられるものか! 主砲発射! ミンチにして粉々に踏み潰してくれるわぁぁっ!!』


 超重戦車の巨大な五百ミリ主砲が旋回し、照準をアッシュの眉間へと合わせた、その瞬間。

 アッシュはノズルのレバーを、カチリと最大角まで引き絞った。


「――《真理の濾過・神聖超高圧ウォータージェット(ハイドロ・スライサー)》!!!!」


 キィィィィィィィィィィィィンッッッ!!!!


 大気中のすべての音を消し去るほどの、超高周波の閃光。

 ノズルの先端から放たれたのは、針のように極細に収束された、吐出圧【五百メガパスカル】の神聖純水レーザーであった!

 厚さ一メートルの複合装甲すらバターのように切り裂く、物理切断の極致。

 アッシュが腕を水平に一閃させた瞬間――。


 スパーーーーーーッンッッッ!!!!


『……え?』


 グレゴリーが間抜けな声を上げた。

 次の瞬間。

 全長百メートルの超重戦車要塞が、分厚い装甲も、旋回する主砲も、巨大エンジンも、キャタピラも、寸分の狂いもなく水平に真っ平らに両断され、ズズズ……と上半分のブロックが滑り落ちたのだ!

 その切断面は、まるで鏡のように滑らかに磨き上げられていた。


 ドッシャアアアアアアアアアンッッッ!!!!


『ヒギャアアアアアアアアッ!?!?!?』


 要塞の屋根を失ったグレゴリーは、両断の衝撃波によって空高く放り出された。

 そして放物線を描いて真っ逆さまに落下した先は――。

 カタパルトの真下に口を開けていた、メガ・バロン重工の巨大な【廃重油・コールタール沈殿ピット(特大油肥溜め)】のど真ん中であった!


 ボッッッチャアアアアアアアアアンッッッ!!!!


『ゴボババババッ……!? ゲホッ、オエェェッ! く、臭い! 目がぁぁぁっ! 我が仕立ての良い特注スーツが、ドロドロの廃油まみれにぃぃぃぃぃっ!?』


 廃油ピットから這い上がってきたグレゴリーは、全身から黒いタールを滴らせ、見る影もない真っ黒な油ダルマと化していた。

 金鎖は油に沈み、トレードマークの葉巻は鼻の穴に突き刺さっている。


『いい気味だ!』『悪徳社長の油風呂だ!』『二度と戻ってくるな、ドロドロ豚野郎!!』


 駆けつけた何万人もの市民たちから、容赦ない罵声と腐った野菜が雨あられと投げつけられる。

 自慢の富も要塞もプライドも完全に粉砕されたグレゴリーは、アッシュの足元でペタリとへたり込み、泡を吹いて失禁土下座した。


「ひ、ヒィィィィッ……! も、申し訳ございませぬぅぅぅっ! 命だけは、命だけはお助けをぉぉぉぉぉっ……!!」


 悪徳独占企業の完全失脚。

 配管工の超高圧ウォーターカッターによって、砂漠の要塞都市を支配していた闇は、真っ二つの鉄屑となって崩れ落ちた。

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