第91話:カウントダウン残り10分! 冷却水バイパス直結オペレーション
ドゴオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!
地底三万二千メートルのボーリング孔から、星の核が咆哮を上げたかのような凄まじい地鳴りが轟き上がってきた。
三千気圧で圧縮されていた超臨界神聖水が、解放されたオリハルコンパイプの内部を音速近い猛烈な速度で駆け上がってくる!
配管全体が猛烈に軋み、周囲の地面の砂利が超音波振動によって宙に浮き上がった。
超臨界水とは、液体と気体の境界が消失した極限の流体状態。驚異的な熱容量と浸透力を持ち、星の原初の生命エネルギーそのものが濃縮された奇跡の水である。
「ガンツ、高圧ウェルヘッド(坑口バルブ)を一斉閉鎖! 水圧で吹き飛ばされるなよ!」
「任せときな! 耐圧千気圧ドワーフ特製チタンヘッド、ガッチリロック完了だぜぇぇっ!!」
ガンツが太い腕で巨大レンチを叩き込み、坑口に設置された特大バイパスバルブを渾身の力で閉鎖。
パイプの圧力計の針がグングンと跳ね上がり、赤色危険域の直前でキィィンと甲高い音を立ててピタリと止まる。
アッシュは坑口から伸ばした直径二メートルの耐圧フレキシブル送水幹線を軽々と担ぎ上げ、アクア・エクスプレスの中継ポンプへと直結させた。
「コレット、ボイラーのメイン冷却水導入口はどこだ!?」
「中央タワーの地下第一シャフトです! でも……爆発まであと【九分】しかありません!」
遠くそびえ立つギガ・ボイラーの巨塔の頂上から、すでに不気味な赤黒いマグマの閃光が噴煙とともに漏れ出し、大地が激しく波打っていた。
都市の全域で、非常事態を告げる空襲サイレンが狂ったように鳴り響いている。
市民たちは逃げ場を失い、泣き叫びながら広場へと逃げ惑っていた。
アッシュはアクア・エクスプレスの操縦席に飛び乗り、メインスロットルを限界まで倒した。
「全速前進! ボイラーへ突っ込むぞ!」
ドバアアアアッ!
アクア・エクスプレスが砂漠の廃墟と崩落した真鍮配管の隙間を、低空飛行で猛烈な速度で疾走!
背後からは、地底三万メートルから汲み上げた超臨界水を送る銀色の極太ホースが、まるで巨大な白銀の大蛇のように唸りを上げて伸びていく。
途中、崩落した瓦礫が前方を塞ぎかけるが、不死鳥ルビーの火炎と紫電鹿ライカの雷撃が一瞬で粉砕!
そして――都市の中央を貫くボイラー直下の地下シャフトへ突入した時、カウントダウンは残り【三分】を切っていた!
チク、タク、チク、タク……!
『警告! 炉心温度、摂氏二千四百度突破! 冷却水残量ゼロ! 臨界融解まであと百二十秒!』
地下シャフトの奥からは、呼吸するだけで喉が焦げるような猛烈な放射熱波が吹き荒れていた。
ボイラーの外壁を覆う巨大な鋳鉄製配管は真っ赤に赤熱して飴のようにグニャリと歪み、溶けた真鍮のリベットが雨のように降り注いでいる。いつ大爆発が起きてもおかしくない極限状態。
「アッシュ、冷却水の投入口が……熱変形でドロドロに溶けて塞がっていますわ!」
エレナが魔導オシロスコープの映像を見て悲鳴を上げた。
メイン注水フランジの継手が熱膨張で癒着し、巨大なバルブハンドルが焼き付いてピクリとも動かない。
残り時間は六十秒を切った。
アッシュは工具ベルトから特大ラチェットレンチを抜き、赤熱する配管の足場へと身軽に飛び移った。
「開かないなら、俺が新しい接続口を穿つまでだ!」
アッシュは左手を赤熱するチタン合金配管へと押し当て、魔力を解き放った。
「――《真理の濾過・配管金属分子再構築》!!!!」
キィィィィィィィィンッ!
アッシュの掌から放たれたサファイアブルーの神聖光が、溶けかけていたチタン配管の金属結晶から酸化不純物を一瞬で排除。
飴のように歪んでいた注水口が、ミリ単位の狂いもない完璧な規格サイズの高圧カプラーへと瞬時に再成型された!
そこへ、アッシュは担いできた直径二メートルの送水ホースをガチリと叩き込んだ!
「全系統接続完了! ……超臨界神聖純水、全開圧送開始!!!!」
ガッコンッッッ!!
アッシュがメインバイパスレバーを渾身の力で引き倒した。
ジュオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!
ズバババババババババッッッ!!!!
毎秒十万トンに達する超臨界純水の奔流が、赤熱していたギガ・ボイラーの炉心ジャケットへと雪崩れ込んでいった!
二千度を超える灼熱空間に、分子レベルで極限まで精製された神聖水が接触した瞬間――。
普通の泥水なら一瞬で起きていたはずの急激な水蒸気爆発は、一切発生しなかった。
アッシュの《真理の濾過》があらゆる急激な気化エネルギーを整流し、炉心の超高熱を極めて穏やかかつ驚異的な超伝導スピードで吸い尽くしていったのだ!
二千四百度あった炉心温度が、二千度、千五百度、千度、五百度へと急降下していく!
シューーーーーーーーーッ……。
ボイラーの計器に灯っていた真っ赤な臨界警告ランプが、パチリと消えた。
代わりに灯ったのは、平常運転を示す美しいエメラルドグリーンの安定ランプ。
炉心温度、摂氏三百五十度――完全なる臨界冷却成功!
大陸全土を灰燼に帰すはずだった未曾有の大爆発の危機が、完璧に粉砕された。アッシュは荒い息を吐きながら、熱を持つ配管からゆっくりと手を離した。




