第90話:ダイヤモンド超硬掘削ドリルと真理の濾過
敵の地上部隊を蹴散らしたアッシュたちは、即座に超臨界水脈の掘削作業へと取り掛かった。
ギガ・ボイラーの臨界熱暴走まで、残されたタイムリミットは刻一刻と削り取られている。
一分一秒の遅れが、何千万人もの生命の喪失に直結する極限のプレッシャーの中、ガンツがドワーフの魂を込めて金槌を振り下ろした。
「ガンツ、掘削リグの固定完了だ!」
「おうよ旦那! オリハルコン製超特大スパイラルドリル、モーター回転数毎分一万回転! 高圧泥水循環ラインも全開! いつでもいけるぜぇぇっ!!」
ガンツが廃棄場の中央に組み上げたのは、高さ三十メートルに及ぶ超巨大油圧ボーリングタワーであった。
先端に装着されているのは、ドワーフの秘術で鍛え上げられた、直径三メートルのオリハルコン・人工ダイヤモンド複合ドリル刃。
硬度十の人工ダイヤモンドチップがフィボナッチ螺旋配列で精密に埋め込まれ、岩盤を微細に破砕しながら瞬時に地上へ排土する究極の掘削機構である。
さらに、ドリル内部の冷却水路には、アクア・エクスプレスから世界樹の神聖水が超高圧で循環供給され、ドリルシャフトの摩擦熱を極限まで奪い去る設計となっていた。
「ボーリング開始! 地底三万二千メートルへ向けて突貫だ!!」
ズズズズズズズズズズッ……!!
ギュオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!
大気を引き裂く凄まじい大轟音とともに、巨大ドリルが砂漠の岩盤へと垂直に突き刺さった!
砂煙と砕石が猛烈な勢いで排土パイプから吹き上がり、周囲の大地が震度四の地震のように激しく揺れ動く。
深度千メートル、三千メートル、五千メートル……!
シロガネが投射する地質ホログラムの最適ルートをトレースしながら、ドリルは信じられないスピードで地殻を掘り進んでいく。
地殻内部は、深くなるごとに地熱と圧力が急激に跳ね上がる過酷な世界だ。
深度一万メートルを突破した頃には、岩盤温度は摂氏五百度に達し、地下の超高圧ガスがドリル孔から白煙となって噴き上がり、足場がグラグラと激しく震動した。
ガンツが排圧バルブを巧みに操作し、破裂の危険を逃がしていく。
深度一万五千メートル……二万メートル!
ここまでは順調だった。世界樹の神聖冷却水とドワーフのダイヤモンド刃が、玄武岩も花崗岩も豆腐のように砕いて突き進んでいた。
だが――深度【二万二千メートル】に達したその瞬間!
ギギギギギギギギギッッッ!!
キィィィィィィィィン……ッ!!
ドリルタワーから激しい白煙と火花が噴き上がり、猛烈な軸ブレ振動とともに回転速度が急激に失速した。
制御盤の温度計の針が振り切れ、極太のオリハルコン製ドリルシャフトが真っ赤に赤熱し始める!
「旦那、まずい! 地殻最下層の【超硬ダイヤモンド・マントル層】にぶち当たった! マントルの超高圧と超高熱で炭素が自然結晶化した、厚さ数百メートルのダイヤモンド単結晶岩盤だ! 硬すぎる! 摩擦熱が千八百度を超えた、このままじゃオリハルコンの刃先が溶けちまうぞ!」
「アッシュ、ボイラーの臨界爆発まで……あと【四十五分】しかありませんわ!」
エレナが魔導オシロスコープを見つめながら悲鳴のような声を上げた。
ギガ・ボイラーの炉心温度はすでに限界値寸前。熱交換パイプの亀裂から高熱マグマが浸入し始めており、今ここでドリルが破損すれば替えの刃はない。その時点でゲームオーバー。首都スチーム・シティも大陸も、すべてが水蒸気爆発で消し炭になる。
ドリルシャフトからは、金属が悲鳴を上げるような高周波の軋み音が響いていた。
あと三十秒で、刃先が熱変形を起こして粉々に砕け散る。
だが――アッシュは作業靴でドリルタワーの頂上へと駆け上がると、両手を高速回転する超高温シャフトへと迷わず押し当てた!
「アッシュさん、危ない! 手が摩擦熱で消し炭になります!」
コレットが悲痛な叫びを上げる。
しかし、アッシュの掌からは、摩擦熱を完全に無効化するサファイアブルーの光が解き放たれていた。
「――《真理の濾過・摩擦熱ならびに不純物ゼロ結晶化》!!!!」
キィィィィィィィィンッ!
アッシュの魔力がドリル刃の原子構造へと直接浸透した。
ドリルを焼き焦がしていた数万度の摩擦熱という「分子の無秩序な熱振動」が、分子レベルで瞬時に「純粋な回転運動エネルギー」へと変換・濾過される!
さらに、ドリル先端の金属結晶から微細な不純物と転位欠陥が排除され、完全無欠の単結晶オリハルコンへと再構築された!
刃先と岩盤との摩擦係数が物理限界を超えて【完全なゼロ】へと突入する!
摩擦がゼロになれば、熱は一滴も発生せず、投入されたエネルギーのすべてが岩盤の原子結合を切り裂く回転トルクへと集中する!
シュルルルルルルッ……!
ズッバアアアアアアアアンッッッ!!!!
「ぬ、抜けたぁぁぁぁぁぁっ!?」
ガンツが叫んだ。
刃先の抵抗が完全に消失したドリルが、熱したナイフで冷たいバターを切り裂くようにダイヤモンド・マントル層を一瞬で貫通!
そして深度三万二千メートル――超臨界水脈の天蓋を、力づくでぶち抜いたのだ!
地底の奥深くから、青白く輝く原初の水の鼓動が、大地を揺るがして響き渡った!




