第88話:メガ・バロン重工の急襲! 重油放射機兵部隊
ババババババババババッッッ!!
上空を旋回する十数隻の戦闘飛行艇のガトリング重機関銃から、無数の徹甲弾が火花を散らして降り注いだ。
スクラップ・キャニオンの鉄屑の山が蜂の巣のように粉砕され、周囲の真鍮プレートが甲高い悲鳴を上げて四方八方へと吹き飛ぶ。
砂嵐を割って廃棄場を完全包囲したのは、黒光りする重油複合装甲に身を包んだ、全高三メートルの二足歩行機兵――メガ・バロン重工の私設特務部隊【重油放射機兵大隊】であった。
その数、実に三百機。
油圧シリンダーが重々しい駆動音を立て、地面の砂利を踏み砕きながら、逃げ場のないすり鉢状の谷底へと包囲網を狭めてくる。
各機体の胸元には、メガ・バロン重工の不吉な歯車社章が真鍮で刻まれ、両腕のマズルからは、赤黒く泡立つ沸騰重油がボタボタと滴り落ちて地面の砂をジュージューと焦がしていた。
そして、その中央に陣取る全高五メートルの超重装甲指揮官機【アイアン・バレル号】のコクピットハッチが開き、筋骨隆々の巨漢が嘲笑を浮かべて姿を現した。
『久しぶりだな、エジソンの娘コレット。ネズミのように下水道へ逃げ延びたかと思えば、こんな吹き溜まりで死に損ないのスクラップを漁っていたとはな!』
その声を聞いた瞬間、コレットの全身が凍りついたように硬直した。
「ば、バレル隊長……! 父の工房を焼き討ちし、父を……油圧プレスで押し潰した張本人……!」
コレットの細い肩が怒りと恐怖で激しく震える。
数年前、街の水道を取り戻そうと立ち上がった父エジソンを、グレゴリーの命令で無残に処刑したメガ・バロン重工の処刑人、機兵隊長バレル。
バレルは右腕の超重量パイルバンカーをガシャンと鳴らし、冷酷極まりない豚のような哄笑を響かせた。
『ガハハハッ! あの老いぼれ技師の最後の叫びは傑作だったぜ! “水はみんなのものだ”などと寝言をほざきおって! 貴様ら貧民は、我が社の重油の残りカスをすするだけの家畜! 家畜が人間様のビジネスに口を挟むなど、百年早いわ!』
さらに、上空にホバリングする巨大な旗艦装甲飛行艇の特大スピーカーから、脂ぎった下品な男の声が重々しく割り込んできた。
『よく言ったぞバレル! 貧民の分際で、我が社の独占水利権に泥を塗るなど言語道断だ!』
空中に投影された巨大なホログラムモニターに映し出されたのは、金糸刺繍の真鍮特注軍服に身を包み、太った首筋に金鎖をジャラジャラと巻き付けた男――CEOグレゴリーその人であった。
片手には高級ブランデーのグラス、もう片手には紫煙を燻らせる極太の葉巻。
「グ、グレゴリー……!」
コレットが憎しみに真鍮の拳をギリギリと軋ませた。
『フハハハ! コレットの小娘め、異世界から助っ人を連れてきたと思えば、ボロ作業着の配管工ごときとはお笑い草だ! よいか、この星の水はすべて我が社の資産であり、我が社の株価そのものなのだ! 原価ゼロの油泥水をコップ一杯金貨百枚で売り捌く……これぞ究極の独占資本主義! それをタダで掘り起こそうなど、神聖なる我が社のバランスシートに対する重大な冒涜である!』
「街のみんなは喉が渇いて死にかけてるのよ! ギガ・ボイラーの炉心冷却水が底をついて、あと三日で大爆発が起きるのも全部知ってるんでしょ!? 自分たちだけ逃げるつもりなんでしょ!!」
『フン、知れたことよ! ボイラーが臨界熱暴走して吹き飛ぼうが、貧民どもが何千万人灰になろうが知ったことか! すでに最上層カタパルトの超巨大次元脱出艇【メガ・アーク号】には、世界中から奪い集めた金銀財宝とレアメタルを積み込み終えておる! 爆発の直前に別の豊かな次元へ逃げ出せば、我が社は何一つ困らんのだ!』
「何千万もの命を……ただの使い捨てにする気なの……!?」
『当然だ! 貧民の肉体など、我が社の蒸気炉のスクラップ部品以上の価値はない! 貴様らが嗅ぎつけた地下水脈のデータも、その珍しい毛並みの獣どもも、すべて我が社が没収する! ……バレル隊長、撃て! ドブネズミどもを、沸騰重油火炎で骨の髄まで焼き尽くせぇぇっ!!』
グレゴリーの非情な虐殺命令とともに、三百体の重油機兵が一斉に射撃体勢に入った!
腕部のマズルがカチリと開き、千度を超える超高熱の沸騰重油火炎が、夜の砂漠を埋め尽くす黒煙とともに解き放たれる!
ゴオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!
天を覆い尽くす業火の津波。
触れたものすべてを焼き尽くし、酸素を奪い去る致死性の火炎地獄が、アッシュたちめがけて一瞬にして押し寄せる!
周囲の鉄屑が一瞬で赤熱してドロドロに溶け始め、コレットが「きゃあああっ!」と悲鳴を上げて目を瞑り、頭を抱えた。
だが――。
「人の現場に土足で踏み込んできて、勝手に油を撒き散らすな」
アッシュの冷徹な一言が、炎の轟音を切り裂いて静かに響いた。
その瞳には、かつて帝都の私利私欲に狂った貴族たちを粛清した時と同じ、冷徹にして揺るぎない【現場の職人の怒り】が宿っていた。
次の瞬間、アッシュの足元から、頼もしすぎる守護神たちが一斉に解き放たれたのだ!




