↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

87/97

第87話:砂漠の地下三万メートル、超臨界水脈のボーリング調査

白銀のメカ白狐シロガネが正式に仲間に加わったことで、アッシュたちの作戦はいよいよ核心部――【砂漠の超深層水脈探査】へと突入した。

 ギガ・ボイラーの炉心冷却水が枯渇するまで、残された時間はあと七十時間を切っている。

 世界樹から引いてきたワームホール送水幹線は現在も安定して神聖水を送り続けているが、次元間の圧力差とパイプ径の限界から、都市全体の巨大ボイラーを緊急冷却し、なおかつ何百万もの市民の乾きを癒すには、どうしてもこの星自体の眠れる水脈を呼び覚ます必要があった。

「世界樹からの送水は、いわば生命維持装置の点滴だ。だが、この星そのものを蘇生させるには、この星自身の心臓と血管を動かさなきゃならない」

 アッシュが作業着の埃を払いながら呟く。


「シロガネ、お前の内蔵ソナーなら、この死んだ大地の最深部までスキャンできるか?」

「きゅいっ!」


 アッシュの問いかけに、シロガネが自信満々に小さな胸を張った。

 アッシュの肩からヒラリと軽やかに飛び降りると、純銀の前足を砂漠の赤茶けた硬質岩盤へとピタリと接地させる。

 九本のモフモフの尻尾の先端から、エメラルドグリーンに輝くナノ光ファイバーがスルスルと無数に伸び、まるで根を張る植物のように地中深くの微細な亀裂へと潜り込んでいった。

 カチリ、チチチチ……と耳の付け根の精密な金色歯車が超高速で回転し、サファイアブルーのレンズ瞳が青白い光を帯びる。


 ピピピピピピピッ……ピィィィィンッ!


 シロガネの額に埋め込まれた六角形多面体クリスタルレンズから、前方の空間へと巨大な三次元地質立体ホログラムが青白く投影された。

 地表から地下数百メートル、数千メートル、そして一万メートル……。

 地層の緻密な密度分布、亀裂の走り方、そして音響インピーダンスの差異が、驚異的な超解像度でリアルタイムに描き出されていく。


「す、すごいですわ……! 我が帝国のいかなる最高峰魔導地脈測定器よりも精密なデータですわ!」


 エレナが魔導記録板を構え、画面に目まぐるしく流れる膨大な地質パラメータに目を丸くした。

 だが、映し出された地下五千メートルまでの地層断面図は、コレットが語った通りの残酷な歴史を物語っていた。

 深度五百メートル――かつて繁栄していた旧都市の地下水道網。今は干からびたパイプが赤錆びて崩落し、何十万もの市民が避難したまま干からびて息絶えた地下シェルターの残骸が、蜘蛛の巣のように朽ち果てている。

 深度二千メートル――かつて大陸全土を潤していた古帯水層。水分が分子レベルで完全に抜け落ち、スポンジのようにスカスカにひび割れた死の粘土層が横たわっている。

 深度五千メートル――地熱で焼結した玄武岩の厚い地層。

 どこを見渡しても、生命の潤いは微塵もない。


「やっぱり……何もない。水なんて、一滴も……。この星は、本当に骨の髄まで干からびてしまったのね……」


 コレットの顔に、再び深い絶望の色が差し込み、真鍮の拳が小刻みに震えた。

 だが――アッシュの職人の視線は、諦めるどころか、さらにその下――地殻の限界を超えた未踏の深度へと鋭く向けられていた。


「慌てるな、コレット。表面の泥水を探してるんじゃない。星の核に眠る原初の記憶を探すんだ。……シロガネ、探査深度を限界まで落とせ。地殻を突き抜けて、上部マントル層の境界面まで超低周波ソナーを叩き込むんだ!」

「きゅるるる……ッ!」


 シロガネの全身の精密ギアがキリキリと高周波の唸りを上げた。

 ソナーの周波数が岩盤を透過する極超低周波パルスへとシフトし、エメラルドの光ファイバーが大地を激しく震わせる。

 ケルベロス・クロの三つの頭も地面に耳を押し当て、地底深くの反響音を敏感に捉えようと集中した。

 深度一万五千メートル……二万メートル……二万五千メートル……。

 地殻の最底、莫大な地熱とマントル対流の巨大な圧力が渦巻く極限の境界層へとソナーが到達した、その瞬間!


 ピキィィィィィィィィンッッッ!!!!


 ホログラムの底に、眩いばかりの深碧(エメラルド)の超巨大エネルギー反応が、ドクンッと星の鼓動のように力強く脈動したのだ!


「な……何ですの、この巨大な反応は……!? 計器のスケールが振り切れますわ!」


 エレナが思わず叫んだ。

 深度三万二千メートル。大陸プレートの最底、超高圧マントル層と硬質花崗岩盤の間に、厚さ数百メートル、幅数十キロメートルにわたって閉じ込められた、巨大な超高圧レンズ状の空間。

 そこに満たされていたのは――。


「……あったぞ。エレナ、コレット、見ろ!」


 アッシュが確信に満ちた笑みを浮かべてホログラムを叩いた。


「【超臨界神聖水脈】だ! 気圧三千気圧、温度四百度を超える極限状態で、液体と気体の境界を失って凝縮された、太古の星の原初純水だ! その推定水量は……軽く【数百億トン】はあるぞ!!」

「す……数百億トン……!? この星の全人類が数千年間使っても使い切れないほどの水が、私たちの足元深くに眠っていたというのですか……!?」


 コレットがその場にへたり込み、両手で顔を覆って震えた。

 何世代にもわたって乾きに苦しみ、身体を切り刻んで機械に変え、重油混じりの泥水を金貨百枚で買わされていた人々の悲劇。その足元の奥底に、星を救う奇跡の泉がずっと眠り続けていたのだ。


「ああ。だが、深度三万二千メートルだ。並大抵の採掘技術じゃ、掘る前にドリルがマントルの超高熱と摩擦でドロドロに溶け落ちる」


 アッシュは背後のガンツを振り返った。


「ガンツ、出番だぞ。ドワーフの鍛冶技術と、俺の《真理の濾過》を融合させた、世界最強の超硬掘削ドリルを組み立てる!」

「おうよ旦那! 待ってましただ! オリハルコン積層ビットに、旦那の摩擦ゼロコーティングと神聖冷却配管をぶち込めば、マントルだろうがダイヤモンドだろうが豆腐みてえに貫通してやるぜぇぇっ!!」


 ガンツが特大の金槌を振り上げ、豪快に咆哮した。

 だが――まさにその時。

 廃棄場の頭上を覆っていた赤茶けた砂嵐の空から、けたたましい空襲警報サイレンと、重厚な無限軌道の地鳴りが大地を揺るがして轟き渡ってきたのだ!


 ウウウウウウウウウウウウウッッッ!!!!

 ドズドズドズドズドズッッッ!!!!


『警告! 警告! 不法占拠者ならびに反逆者コレットを発見! 我が社に仇なすドブネズミどもを、直ちに殲滅せよ!』


 空を埋め尽くしたのは、黒煙を撒き散らす重鉄の戦闘爆撃飛行艇部隊。

 そして地上を完全包囲したのは、メガ・バロン重工が誇る、凶悪な重油放射機兵大部隊であった!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。