第86話:高圧スチーム洗浄と、第六神獣メカ白狐シロガネの目覚め
「ガンツ、アクア・エクスプレスから高圧神聖スチームボイラー直結! 吐出圧百二十メガパスカル、過熱蒸気温度百八十度でスタンバイしろ!」
「へいよ旦那! ドワーフ特製・超高圧洗浄ブラスターノズル、接続完了だぜぇぇっ!!」
ガンツが船から伸ばした極太の耐熱ホースのコックを勢いよく捻った。
アッシュが両手で構えたのは、チタン合金製の特大ツインノズルブラスター。
世界樹直通の高純度神聖水を超高温で過熱蒸気化させた、配管洗浄の究極兵器である。
「ちょっと熱いだろうが、歯を食いしばって我慢しろよ! ……いくぞ!」
アッシュは巨獣の胸元へ飛び移ると、左手を装甲の奥深く――閉塞したオイルラインの元栓へと押し当てた。
「――《真理の濾過・超高圧神聖スチームブラスト》!!!!」
ドッシャアアアアアアアアアアッッッ!!!!
ジュワァァァァァァァァァッッッ!!!!
凄まじい轟音とともに、ブラスターの銃口から眩い純白の過熱神聖蒸気の間欠泉が噴射された!
アッシュの《真理の濾過》が蒸気分子の微細振動と完全に同期。
何百年もの間、巨獣のギアやシリンダーにこびりついていたタール状の重油スラッジ、硬化したアスファルト、そして赤錆の層が、分子結合を瞬時に切断されてサラサラの白い砂塵へと分解されていく!
ピキピキピキッ……カチリ! カチリ!
熱膨張で焼き付き、癒着していた何万個もの精密歯車が、神聖純水の冷却と潤滑効果によって一気に息を吹き返し、心地よい精密時計のビートを刻み始めた!
全身のオイルラインに詰まっていたヘドロが、勢いよく排気弁から黒煙となって吹き飛ばされ、代わりに透き通る神聖エーテルが全身の油圧チューブを満たしていく!
『ア……アァァァァァァッ……!! アツイノガ……キエテイク……! からだが……カルイ……!!』
巨獣のスピーカーから、歓喜と驚嘆の叫びが響き渡った。
その洗浄の最中、巨獣の頭部から突然、眩いホログラム光が夜空に向かって投射された。
それは、巨獣のメモリクリスタルに封印されていた太古の記憶映像であった。
かつてこの星を満たしていた、エメラルド色の豊かな大森林と巨大な湖。
そして――空が真っ黒に裂け、空間の裂け目から現れた【謎の超巨大な黒い立方体構造物】の姿。
その立方体から伸びた無数の黒い送水管が、惑星の大地へ突き刺さり、わずか数ヶ月のうちに星のすべての地下水脈を異次元へと吸い上げて持ち去っていった戦慄の光景――!
「な、何ですのあの立方体は……!? この星の水を、誰かが意図的に吸い取って持ち去ったというのですか!?」
エレナが驚愕の声を上げた。アッシュもまた、その黒い立方体の側面に刻まれた不気味な紋章――『蛇が巻き付いた三叉の水滴』を網膜に焼き付けた。
(多次元水道カルテル……! この星を干からびさせた黒幕は、奴らだったのか……!)
そして――全身の錆と油が完全に洗い流されたその瞬間!
キィィィィィィィィィィィィンッ!
ポフンッ! ポフンッ! ポフンッ!
心地よい高周波の共鳴音とともに、眩い銀色の蒸気の雲が立ち込めた。
体長三十メートルに及んでいた巨大な機械の影が、みるみるうちに光の粒子となって縮小していき――蒸気が晴れた後に現れたのは。
「……きゃああああっ!? か、可愛すぎるぅぅぅぅっ!!」
エレナが思わず両手で口を押さえて飛び跳ねた。
そこにちょこんと座っていたのは――体長わずか四十センチ。
まるで磨き抜かれた純銀のシルクのように柔らかく光るナノファイバーの毛並みと、先端にエメラルドグリーンの光ファイバーが灯る【九本のフワフワの尻尾】を持った、**愛らしすぎるメカ白狐**であった!
「きゅ〜ん♪ きゅいっ♪」
大きな耳の付け根には精巧な金色の歯車がアクセサリーのようにあしらわれ、大きなサファイアブルーのレンズの瞳をパチクリと瞬かせている。
そして、命の恩人であるアッシュを見上げるや否や、短い手足でピョンッと飛び跳ね、アッシュの肩の上へと飛び乗ってきたのだ!
九本のモフモフの尻尾がアッシュの首元にマフラーのように温かく巻き付き、冷んやりとして滑らかな金属の鼻先でアッシュの頬をスリスリと甘噛みしてくる。
「ははっ、くすぐったいって! ……全身のギアの噛み合わせも完璧だな。良かった」
「きゅるるんっ♪」
嬉しそうに喉の奥の超微細な精密モーターをゴロゴロと鳴らす白狐。
さらに白狐は、呆然と見つめていたコレットの元へと飛び移り、その九本の尻尾でコレットの真鍮の義肢を優しく包み込んだ。
フワッと神聖なエーテル光が灯り、コレットの義肢に最高のナノ潤滑膜が施される。
「あ……! 腕が……こんなに滑らかに動くなんて……! 痛みが完全に消えた……!」
コレットの目からポロポロと涙がこぼれ落ちる。
「わふんっ!?」
「「「わふぅぅぅっ!?」」」
その瞬間、我に返った天狼コハクとケルベロス・クロが「僕たちのアッシュだぞ!」と猛烈な勢いで駆け寄ってきた!
コハクがアッシュの右足を両前足でぎゅっと抱え込み、クロの三つの頭がアッシュの左腕、腰、膝をそれぞれ奪い合って「ガルルッ!」と肩の白狐に激しく嫉妬の唸りを上げる。
だが、白狐は全く動じず、九本の尻尾をパタパタ振ってコハクの鼻先をコチョコチョとくすぐり返した。
「ふ、ふぁっ……ふぁっくしょん!」
コハクはたまらず豪快なくしゃみをしてひっくり返り、クロの三つの頭も尻尾のフサフサに包まれて「くぅ〜ん」と脱力してしまった。
その微笑ましい光景に、不死鳥ルビーが翼をパタパタと鳴らして笑い、紫電鹿ライカが目を細め、海竜サファイアが空中に綺麗な水の輪を作って祝福した。
「白銀の装甲と、澄んだ心を持つ狐だから……お前の名前は『シロガネ』だ」
「きゅいっっっ♪」
シロガネが嬉しそうに一声鳴き、アッシュの胸ポケットにすっぽりと潜り込んで顔を出した。
太古の四大神獣、冥界の三頭犬クロに続き、機械世界の守護機獣シロガネが加わり――頼もしくも賑やかな【六大神獣モフモフ戦隊】が、ここに勢揃いしたのだ!




