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第78話:全三界の蛇口を握る男、今日も気ままに仲間と乾杯を

すべての激闘と前代未聞の大工事を終え、数日が過ぎた。

 天界、地上、冥界を貫く世界樹ユグドラシル・アクアの巨大な大枝――地上五千メートル、天界と地上と冥界のすべてを一望できる特等席に新設されたのは、総オリハルコンと古代ヒノキで組み上げられた【三界展望大空中庭園露天風呂】であった。


 ――ザアァァァァァ……。


 見上げれば、宝石を散りばめたような天界の星空と柔らかな月光。

 見下ろせば、黄金色の雲海と、穏やかに灯りがともる地上の大陸。

 そして世界樹の主幹の内部に穿たれたクリスタル窓の遥か深層には、紫のオーロラを映して美しく輝く冥界のステュクス川。

 湯船に注ぎ込まれているのは、天界の純水、地上の神聖温泉、そして冥界の地熱ミネラルが完璧な黄金比でブレンドされた、全宇宙至高の【三界超合体・奇跡の琥珀温泉】。


「ふううううううぅぅぅぅぅぅぅ……っ!!」


 アッシュは肩まで湯に浸かり、魂の底から至福のため息を吐き出した。


「たまらん……! やっぱり、苦労して引いたパイプの先で入る風呂は、全宇宙で一番の極上だな……!」


 湯船の中には、アッシュだけではない。

 膝の上には、子犬姿のコハクと、三頭ポメラニアンのクロが仲良く乗っかり、頭を預けて完全に脱力している。

 右隣では子鹿姿のライカが角をパチパチさせて目を細め、左の縁では不死鳥ルビーが羽をパシャパシャと洗い、浴槽の底からはミニ海竜サファイアがアッシュの足の裏をつついて遊んでいた。

 五大神獣が全員揃って、完全無防備なモフモフ生物と化して湯に浸かっているのだ。


「ぷはっ! アッシュ、サウナ上がりの打ち上げ宴会、準備万端よ!」


 露天風呂の脇に設置されたヒノキサウナから、上気した顔のエレナが姿を現した。

 湯浴み着を纏い、濡れた亜麻色の髪を後ろで束ねた彼女の手には、濛々と湯気と極上の香りを放つ特大の銀盆が抱えられていた。


「アッシュ、今夜の三界コラボ特製フルコースよ!

 まずは地上の帝国から届いた極上牛を使った【霜降りアンガス牛ヒレステーキ・冥界漆黒トリュフソースがけ】!

 そして天界の黄金リンゴを丸ごと低温発酵させた、私特製の【神界黄金クラフトシードル】!

 さらに、冥王ハデス様からいただいた【冥界極上スモーキーウイスキー】よ!」


 ジュウウウウウウッ……!

 テーブルの上に広がる、視覚と嗅覚を暴力的に刺激する究極の飯テロ空間。

 そこへ、湯船から上がったハデス、ペルセポネ、アフロディア、バルドル、ガンツ、そしてアレクサンダー皇帝もジョッキを手に合流した。


「みんな、三界パイプラインの全面開通、本当にお疲れ様だった! 乾杯!!」

「「「乾杯っっっ!!!!」」」

「わふん!」

「ピピィ!」

「キュルルン!」

「ピュルッ!」

「「「わふんっっっ♪」」」


 ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ……ぷはあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!


「くぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーっっ!! 美味ええええええええっ!!」


 冷え切った黄金のシードルが、火照った喉をダイレクトに駆け抜けていく。

 そこにすかさず、分厚く切られたアンガス牛ステーキを一切れ口に運ぶ。

 ジュワリッ……!

 噛み締めた瞬間、極上の肉汁と、冥界漆黒トリュフの高貴な芳香が口内いっぱいに爆発した。肉の旨味を噛み締めながら、今度はスモーキーなウイスキーハイボールを流し込む。

 完全なる天国。全宇宙の至高の調和であった。


「はむっ……! このステーキ、お肉が柔らかくてとろけそうですわ……!」

「うむ! このシードルと肉の相性、神話の神酒を遥かに凌駕しておるぞ!」


 ペルセポネとハデスが満面の笑みで頬張り、バルドルとガンツがジョッキをぶつけ合って豪快に笑っている。

 コハクとクロには、味付け前の特選赤身肉が山盛りに振る舞われ、二匹は尻尾をプロペラのように振り回しながら夢中で平らげていた。


「ふふふ……本当に、信じられませんわね」


 アフロディアが優しく微笑みながら、アッシュの隣に腰掛けた。


「天界も、地上も、そして冥界も。今や貴方がバルブをひとひねりすれば、全宇宙が一日で干からびて跪く……宇宙で最も強大な支配者になられたというのに」

「支配者、なんてガラじゃないよ」


 アッシュは夜空を見上げ、満足そうに目を細めた。


「蛇口を捻れば、清らかな水が出る。

 湯船に浸かれば、今日一日の疲れが吹き飛ぶ。

 風呂上がりに、美味い飯と酒を仲間と囲む。

 それ以上の幸せなんて、この宇宙のどこを探したってありはしないんだからな」


 コハクがアッシュの膝に顎を乗せ、クロの三つの頭がスリスリと甘えてくる。

 エレナが優しく微笑みかけ、夜空には満天の星屑がキラキラと輝いていた。

 追放された元下水掃除人のスローライフ温泉奇譚――全三界を潤し、仲間たちと笑い合うその伝説は、今日もまた、最高の温泉日和とともに永遠に続いていくのであった。



(第5章 深淵の冥府と三途の川大浄化編 完)

ここまで読んでいただきありがとうございました。


6章の執筆はじめました。ブックマークと評価よろしくお願いします!

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