第77話:三界水道サブスク開通!〜天・地・冥から毎秒トリプルチャリンチャリン〜
カオス・スラッジの消滅から数日後。
かつて恐怖と絶望の底であった奈落タルタロスは、透き通るクリスタルの奇岩から清純な神聖水が湧き出る、全宇宙で最も美しい大渓谷へと劇的な変貌を遂げていた。
そして――ハデス宮殿の絢爛豪華なる大円卓の間に、宇宙の歴史上、一度たりとも相見えたことのない錚々たる首脳陣が一堂に集結していた。
天上界代表――愛と美の最高女神アフロディア、軍神バルドル。
地上代表――アルカディア帝国皇帝アレクサンダー三世。
冥界代表――冥王ハデス、冥妃ペルセポネ。
天、地、冥の三界を統べる最高権力者たちが、円卓の上座に腰掛ける作業着姿のアッシュと、その隣で書類を揃えるエレナを、深い敬意と憧憬の眼差しで見つめていた。
「皆様、お待たせいたしましたわ」
エレナが凛とした微笑みとともに、三界の古代言語で書かれた羊皮紙の条約文書を広げた。
「これより、天界・地上・冥界の全インフラを一本に統合し、公平かつ持続可能な水利利用を定める――【全宇宙三界水道協定・超次元サブスクリプション条約】の調印式を執り行います!」
アッシュが背後の黒板をトントンと指し棒で叩く。
「ルールは今まで通りだ。『使った分だけ、きっちり利用料を支払う』。
天界は【神力コイン】。
地上は【金貨および特産資材】。
そして冥界は、死者の魂の未練を浄化した【冥力エーテル結晶】。
これらを各界の蛇口に取り付けたオリハルコン製【超次元スマート・バルブ】を通じて、俺の中央口座へ自動決済する。異存はあるか?」
「あるはずがなかろう!」
「むしろ、願ったり叶ったりじゃ!」
ハデスが満面の笑みで羽ペンを取り、一番乗りで契約書に血判を押した。
続いてアフロディアが優雅に神紋を捺印し、アレクサンダー皇帝が感涙に咽びながら署名する。
全三界の首脳が、自らの意志でアッシュの水道規約に完全合意した瞬間であった!
「よし、条約締結だ。……全三界、一斉通水開始!」
カチリ。
アッシュが親元栓を回した瞬間、天界の全神殿、地上の全都市、冥界の全宮殿の蛇口から、一斉に奇跡の神聖水と極上温泉が解き放たれた!
そして――アッシュの作業場に設置された、ミスリル製の【超次元自動引き落とし大金庫】が。
ジャラララララララララララララララララッ!!!!
チリリリリリン! ガッチャン! チャリンチャリンチャリン!!
「ひ、ヒィィッ!? アッシュ、金庫が……金庫が爆発しそうですわぁぁっ!!」
エレナが悲鳴を上げて飛び退いた。
天界から青白い「神力コイン」!
地上から黄金に輝く「帝国金貨」!
冥界から紫の光を放つ「冥力エーテル結晶」!
三つの異なる世界の最高級通貨が、まるで巨大ダムが決壊したかのような凄まじい濁流となって、投入口から部屋中へ吹き荒れていたのだ!
『現在累積資産:三千万……八千万……一億五千万……毎秒三倍速で増加中……』
「ちょ、ちょっと待て! 床が抜けるぞ!」
アッシュが苦笑いを浮かべる中、部屋一面に山のように積まれたコインと宝石の海の上で。
「わふ〜ん♪」「ピピィ!」「キュルルン!」「ピュルッ!」「「「わふんっっ♪」」」
白銀狼コハクが仰向けになってゴロゴロ転がり、不死鳥ルビーが金貨を嘴で積み上げ、海竜サファイアが宝石の波をスイスイ泳ぎ、紫電鹿ライカが角でコインをカチャカチャ鳴らし、そして三頭黒ポメラニアンのクロが、三つの頭で金貨の山にダイブして大はしゃぎしていた。
全宇宙の富とエネルギーが、たった一人の配管工の元へと毎秒集まる。
追放された元ドブ掃除人は、気付けば宇宙のすべての経済と命脈を統べる、絶対無比の存在となっていたのだ。




