第73話:冥界絶品グルメ! 漆黒トリュフと地底極上魚の天ぷら飯テロ
「ぐううううううぅぅぅぅぅぅぅぅ……っ!!」
ハデス宮殿の露天風呂から上がり、清潔な麻の湯浴み着を羽織った冥王ハデスの腹から、宮殿の大広間中に響き渡るような豪快な虫の音が鳴り響いた。
数万年間にわたって激痛と胃酸過多に苛まれ、固形物すら満足に喉を通らなかった冥界の絶対支配者。
だが、アッシュの極上地熱炭酸温泉に浸かったことで、全身の血流が爆発的に改善し、胃腸の粘膜が奇跡の完全復活を遂げたのだ。
その結果――訪れたのは、神として生まれてから一度も経験したことのない、狂おしいまでの【究極の空腹と食欲】であった!
「お、腹が……! 腹が減って減って、目の前の黒大理石の柱すら齧りつきたいほどじゃ……!!」
「ハデス様、わたくしもですわ! 白泥パックでお肌が蘇ったら、急激に喉とお腹がペコペコに……!」
ペルセポネも、死神タナトスも、老船頭カロンも、全員が飢えた狼のように目を血走らせている。
そこへ――白い割烹着を身に纏ったアッシュと、エプロン姿のエレナが、濛々と芳香の湯気を立ち上らせる特大の漆塗り大盆を抱えて現れた。
「お待たせしました。冥府の大復興を祝う、本日の特製サウナ飯コースです!」
パカッ!と蓋が開けられた瞬間。
大広間一面に、鼻腔を狂わせるような暴力的かつ甘美な芳香が爆発した!
「な……な、なんじゃこの神々しき香りはぁぁぁっ!?」
ハデスが思わず立ち上がった。
テーブルの中央に鎮座するのは、アッシュが土鍋で炊き上げたばかりの【神聖米と冥界漆黒トリュフの極上釜飯】!
冥府の霊樹の根元深くでしか採れない、神々ですら滅多にお目にかかれない幻の超高級キノコ『漆黒トリュフ』。それを惜しげもなく丸ごと何個も、極薄のスライスにしてご飯の上にぎっしりと敷き詰めてある。
神聖水で一粒一粒ふっくらと艶やかに炊き上がった銀シャリと、トリュフの濃厚で土の温もりを感じさせる高貴なアロマ。そこに、上質な特製出汁醤油のおこげの香ばしさが重なり、湯気となって立ち上っているのだ。
「さらに、こちらがメインの揚げ物よ!」
エレナが笑顔で差し出した特大皿には、黄金色にカラリと揚がった【ステュクス産クリスタル・トラウトと冥界山菜の天ぷら盛り合わせ】が山盛りに盛られていた。
清流を取り戻したステュクス川で獲れたばかりの、白身に上質な脂をたっぷり蓄えた地底魚。
アッシュの神聖純水と極冷氷水で溶き、グルテンの形成を極限まで抑えた特製薄衣にくぐらせ、ガンツ特製の高温魔導胡麻油でサクッと揚げた究極の逸品である。
「アッシュ特製の【冥界結晶岩塩】を少しだけつけて、熱々のうちに召し上がれ!」
「い、いただきますぞぉぉぉっ!!」
ハデスは震える手で黒漆の箸を取り、トラウトの天ぷらを一口かじった。
サクッ……!!
ジュワアアアアアアッ……!!
「…………っっっっっっっっっっっっっっっ!!!!」
冥王の瞳から、大粒の涙がボロボロと溢れ出た。
信じられないほど軽やかな衣の歯触り。
その直後に口内いっぱいに弾け飛ぶ、フワッフワの白身魚の極上の甘みと、ジューシーな脂の旨味!
結晶岩塩のミネラルが魚のピュアな輪郭を極限まで引き立て、油っこさは微塵もない。
「う……美味い……!! 美味すぎる……!! なんだこの衣の軽さは!? 白身魚が雪のように舌の上で溶けていくぞ……!!」
すかさず、ハデスはトリュフ釜飯を茶碗によそい、豪快にかき込んだ。
噛み締めるたびに広がる、神聖米のモチモチとした甘みと、鼻腔を突き抜けるトリュフの濃密な高貴の極み。
そこへ、エレナが琥珀色に輝くクリスタルグラスを差し出す。
「ハデス様、こちらをどうぞ。冥府の霊草と最果ての神聖純水で仕込んだ、私特製の【冥界スモーキー・クラフトハイボール】ですわ!」
シュワシュワと弾ける強烈な炭酸バブル。
ハデスがグラスを両手で持ち、一気に呷る。
ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ……ぷはあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
「くぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーっっ!! 五臓六腑に染み渡るぅぅぅっ!!」
天ぷらの上質な脂を、キンキンに冷えたハイボールの爽快な炭酸が一瞬で洗い流し、口の中をリセット。そして再び熱々の天ぷらへ。
無限ループの至高の快楽。
タナトスもカロンも、ペルセポネも「美味い!」「生きてて――いえ、死んでてよかった!」と涙を流して爆食いしている。
クロ(三頭ポメ)とコハク、ライカにも、味付け前の素焼き魚がボウルいっぱいに振る舞われ、クロの三つの頭が「ハフハフ!」「むしゃむしゃ!」「わふ〜ん♪」と競い合うように平らげ、尻尾をブンブン振って大喜びしていた。
だが――その至福の大宴会を、地獄の底から引き裂くような大激震が襲った。
ドゴオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!
宮殿の床が跳ね上がり、警報魔導鐘が狂ったように乱打されたのだ。




