第71話:【黄泉がえり極上地熱炭酸温泉】開通!〜凍てつく死者の魂を解凍せよ〜
冥王ハデスの全面的な協力と全権委任を取り付けたアッシュが、ハデス宮殿の広大な中央広場に、ガンツ率いる工兵隊とともにわずか半日で組み上げたもの――それは、冥府の暗黒の歴史を根本から塗り替える奇跡のインフラ、総黒曜石とチタン配管で築かれた【黄泉がえり超大露天風呂】であった。
「な……なんじゃ、この温かい湯気は……!? 凍てつく冥府の空気が、まるで春の日だまりのように温められていくぞ……!」
広場を取り囲んだ数百万の死者たちと死神たちが、濛々と立ち上る純白の湯気を見上げて目を丸くした。
冥府は本来、太陽の温もりが届かず、骨の髄まで冷え切るような死の冷気に満ちた世界である。
だが、アッシュが建設した幅百メートルを超える巨大露天風呂からは、パチパチ、シュワシュワと心地よい高濃度炭酸の弾ける音とともに、ほんのりと甘美な硫黄とヒノキの香りを帯びた、乳白色の極上の湯が滔々と溢れ出していた。
「アッシュ、熱交換ユニットの同期、誤差ゼロよ!」
司令塔のエレナが、誇らしげに魔導ゲージを掲げて報告する。
アッシュが採用したのは、名付けて【冥界超深層地熱・シェル&チューブ式多段熱交換工学】!
冥府のさらに底、奈落に眠る超高熱マグマ脈から、ガンツが鍛え上げた耐熱オリハルコンパイプを通じてクリーンな地熱エネルギーを安全に抽出。
それを地上からパイプラインで送り込まれる超高純度神聖水へとダイレクトに転写し、さらに冥界の大地に眠る薬効鉱石のミネラルを《真理の濾過》で完璧な黄金比率に調合。
疲労回復、胃腸疾患の治癒、そして魂の未練を優しく解凍する奇跡の【超高濃度・天然硫黄炭酸泉】を人工湧出させたのだ!
「よし、ハデス。まずは言い出しっぺのあんたから入れ。胃の痛みが一発で吹き飛ぶぞ」
「か、忝い……!」
ハデスは王冠を脱ぎ捨て、黒マントを脱ぎ去ると、おっかなびっくり乳白色の湯船へと身を沈めた。
ザブゥゥゥゥゥンッ……!!
「…………っっっっっっっっっっっっっっっ!!!!」
肩まで湯に浸かった瞬間、冥王の口から、全宇宙の言語を絶する至福の絶叫が漏れた。
湯加減は、冷え切った肉体と魂にガツンと効く、計算され尽くした摂氏四十二・五度。
無数の微細な天然炭酸バブルが全身の皮膚にビッシリと吸い付き、毛細血管を極限まで押し広げて血流を爆発的に促進する。
数千年間、胃袋を錐で揉まれるように苛み続けていたキリキリとした激痛が、まるで温かい毛布で包まれたかのように、サラサラと音を立てて霧散していくのだ!
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ!! 痛みが……余の胃の痛みが……消えていく……!! 温かい……こんなにも温かく、優しい世界が、この世にあったのか……!!」
ハデスは湯船の縁に頭を預け、大粒の涙をポロポロと流しながら、白目を剥いて完全に脱力した。
それを見た死者たち、老船頭カロン、死神タナトスたちも、歓声を上げて大浴場へと飛び込んでいった!
ザババババババッ!!
「「「ふあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」」」
広場全体から、百万人同時の昇天の溜め息が轟き渡った。
死者たちの青白く凍りついていた霊魂が、温かい乳白色の湯に浸かった瞬間、生前の苦しみや無念が優しく解きほぐされ、眩い黄金色の光を帯びてキラキラと輝き始めたのだ!
悪霊化しかけていた魂が、極上温泉の温もりによって完全な安らぎを取り戻し、次々と清らかな光の蝶となって、天の輪廻転生へと笑顔で旅立っていく。
湯船の浅瀬では、クロ(三頭ポメラニアン)が三つの頭を仲良く湯船の縁に乗せて「くふぅ〜ん♪」「わふぅ〜♪」「ふひゃ〜♪」と極楽顔で浮かび、コハクが「ふぃ〜」と手足を伸ばしてのぼせそうになり、サファイアが楽しそうに潜水している。
冥府が始まって以来の奇跡――【温泉による魂の完全デトックス】が、成し遂げられた瞬間であった。




