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第55話:絶縁レンチとアース工事〜神鹿の角のスケール除去オペレーション〜

「全員、突入陣形をとれ! 神鹿の放電を世界樹のパイプラインに触れさせるな!」


 アッシュの号令とともに、世界樹の最頂部から雲海の嵐の中へと飛び出したのは、アッシュを核とした完璧なるチームであった。

 アッシュが身に纏うのは、ドワーフの神鋼オリハルコンに、高純度絶縁ゴムを何重にも積層圧着させた特製の【超高耐圧絶縁作業着】。

 数十万ボルトの直撃ですらグラウンドへと逃がす、インフラ技術者の最強の鎧である。


「グルアアアアッ!!」


 先陣を切ったのは、白銀の天狼コハクであった!

 体長十五メートルの巨獣へと変貌したコハクは、虚空を蹴立てて疾走すると、大地の引力場を歪めて強烈な【重力偏向シールド】を展開。神鹿から乱れ撃たれる紫電の槍を、ことごとく軌道修正して逸らしていく。

 さらに、天空からは不死鳥ルビーが舞い上がり、神聖火炎の熱波で雷雲の湿気を焼き払って放電効率を奪う。

 水槽から飛び出した海竜サファイアは、超高圧の神聖水膜バリアをアッシュの周囲に球状に張り巡らせ、漏洩電流を完全遮断!


「今だ、アッシュ! アース杭の接地ポイント、神鹿の真下十メートルの大枝よ!」

「了解だ、エレナ!」


 アッシュは成層圏の暴風を突き抜け、神鹿の足元の主枝へとダイブした。

 背負っていたのは、ガンツが鍛え上げた直径三十センチ、長さ五メートルの巨大な純銅製【超伝導アース接地アンカー】!


「オラァッ!! 世界樹の深層水脈へ……全部抜けぇぇぇぇぇっ!!」


 ガンツの超重量ハンマーが火花を散らし、アースアンカーを世界樹の芯へと一撃で打ち込んだ!

 カチリ、とアッシュがアンカーとパイプラインのアース接地ケーブルを直結した瞬間。


 ズドォォォォォォォォォンッ!!


 神鹿の全身から放たれていた数億ボルトの紫電プラズマが、巨大な光の濁流となってアース杭へと吸い込まれ、世界樹の根を通じて地上深層の巨大地脈へと安全にバイパス放流された!

 猛烈な放電の圧力が一気に抜け、神鹿の巨体がガクンと膝をつく。


「よし……アースバイパス完了! 本番はここからだ!」


 アッシュは命綱を跳ね上げ、神鹿の白銀の背中へと身軽に飛び移った。

 狂乱する神鹿の紫水晶の角。

 その根元には、悪臭を放つ漆黒のヘドロが炭化し、まるで硬質ガラスのように角の放電孔を塞ぎ切っていた。


「痛かっただろうが……今、楽にしてやるからな」


 アッシュは神鹿の額に左手を当て、魂のスキル《真理の濾過》を最大出力で注ぎ込んだ。

 キィィィィィィィィィン……!!

 澄み渡る高周波の共鳴音とともに、サファイアブルーの魔法陣が角全体を包み込む。

 分子結合を緩められた毒スケール。そこへ、アッシュは右手に構えたオリハルコン製大型絶縁レンチを、ガッチリとスケールの亀裂に噛み合わせた。


「ガンツ、エレナ、コハク! 力を貸せ! ……抜けぇぇぇぇぇぇっ!!」


 ギュオオオオオオオオオッ!!


 アッシュが全身の筋力を込めてレンチを時計回りに一気に捻り上げた。

 パキィィィィィィィィィンッッッ!!!!


 成層圏の天蓋に、美しいガラスが砕け散るような澄んだ破砕音が響き渡った。

 神鹿の角を縛り付けていた万年毒スケールが、粉々に砕け散り、アッシュの濾過光を浴びて純粋な紫色のエーテル粒子となって、夜空へとサラサラと溶け去っていったのだ。


「ブルルルルッ……!」


 放電孔が開通した瞬間、神鹿の角から、心地よい金色と紫の清涼な燐光がパチパチと優しく噴き上がった。

 激痛と狂気から解放された神鹿は、ゆっくりと長い首をもたげると、深く澄んだ紫の瞳でアッシュを見つめ――。

 その長い鼻先を、アッシュの胸元へと優しく、感謝を込めて擦り寄せてきたのであった。

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