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第50話:神獣コハクの【肉球スタンプ】〜神威を一瞬でぺしゃんこにする白銀のモフモフ〜

「死ねぃ、下界のドブネズミどもが! 我が神聖なる裁きの雷に打たれて消滅せよ!!」


 軍神バルドルは白銀の六翼を激しく羽ばたかせ、黄金の神槍グングニルに数千万ボルトに達する神聖プラズマ雷光を纏わせて急降下してきた。

 成層圏の大気を焼き焦がす凄まじい雷鳴。神話の時代に数々の邪神や魔竜の首を刎ねてきた必滅の一撃が、アッシュの脳天を目掛けて音速を超えて振り下ろされる。

 しかし――標的であるはずのアッシュ・ウォーカーは、作業着のポケットに両手を突っ込んだまま、眉毛一つ動かさず、避ける素振りすら見せなかった。


「……おいおい、現場に火気と致死性の放電を持ち込むなよ。コハク、ルビー、サファイア。現場の安全確保と、不審者の拘束を頼む」

「わふん!」

「ピピィッ!」

「キュルルン!」


 三つの軽やかな返事。

 次の瞬間、急降下する軍神バルドルの眼前に立ち塞がったのは――神話の時代にすら存在しなかった、完全なる【三大神獣の完璧なる連携制裁】であった。


 まず動いたのは、天空を統べる緋色の不死鳥ルビーであった。

 アッシュの肩からパッと飛び立ったルビーは、空中で優美に翼を広げると、太陽の核融合に匹敵する超超高温の【神聖浄化熱波】を、バルドルの手元へとピンポイントで放射した。

 ジュワァァァァァァッ!!


「ぐ、ぬおおおおっ!? 熱い! 熱いぞぉぉぉっ!? 我が神聖グングニルが……溶けるぅぅぅっ!?」


 オリハルコンを遥かに凌ぐ天界の神鋼で鍛え上げられていたはずの神槍が、まるで夏の陽射しに晒された飴細工のようにドロドロに融解し、火花を散らして蒸発していく!

 得物を一瞬で失い、推進力のバランスを崩して空中で錐揉み状態になったバルドル。

 そこへ――世界樹の枝の窪みにあった神聖水の泉から、碧海の海竜サファイアが螺旋を描いて天空へと昇龍の如く飛び上がった!


「キュオオオオオオオオオッッッ!!」


 サファイアの愛らしい見た目からは想像もつかない神威の咆哮とともに、絶対零度の神聖水流カッターが巨大な渦を巻き、バルドルの自慢の六枚の白銀の翼を、根元から容赦なくビショビショに濡らし尽くしたのだ!

 高密度の神聖水を吸い込んだ巨大な翼は、鉄の重りのようにズシリと重く垂れ下がる。


「ひ、ヒィィッ!? つ、翼が……重すぎて羽ばたけぬぅぅぅっ!?」


 航空力学的な揚力を完全に失った使徒神は、まるで撃ち落とされたカラスのように、成層圏から頭から真っ逆さまに枝の広場へと墜落していった。

 そして――その落下予想地点のど真ん中で、悠然と待ち構えていたのは。


 ズズズズズズズズズ……ッ!


 愛らしい子犬の姿から、一瞬にして体長十五メートルを超える神話の巨獣へと巨大化した――白銀の天狼コハクであった。

 月光のように輝く白銀の毛並みを波打たせ、コハクは落下してくる軍神を冷ややかな金色の瞳で見上げると――。

 大人の人間十人がかりでも抱えきれないほどの、極上の毛並みに包まれた分厚く巨大な【白銀の右前足(超特大モフモフ肉球)】を、スッと高く持ち上げた。


「あ……や、やめろ……! 我が輩は神界の治安を統べる偉大なる軍神バルドルだぞ!? 神を……神を踏みつけるなどという不敬が許されると――」


 ズボォォォォォォォォォンッッッ!!!!


 成層圏の雲海を根こそぎ吹き飛ばすような、重低音の破滅的破砕音が轟き渡った。

 コハクの無慈悲なる必殺技――【神獣肉球スタンプ(ギガント・パウ・プレス)】!

 何万トンもの惑星規模の重力質量を一点に凝縮させた白銀の肉球が、バルドルを世界樹の大枝の大理石敷石へと、寸分の狂いもなく叩きつけたのだ。


 めりめりめりっ……バキバキバキッ!


「アビャバババババッ……!!」


 頑丈な神殿の敷石がすり鉢状に粉々に陥没し、バルドルは完璧な人型にめり込んで、白目を剥いて卒倒した。

 神界が誇る白銀の神甲冑は粉々に砕け散り、股間からは黄色い液体がジュワリと滲み出ている。

 コハクが「ふんっ」と満足そうに鼻を鳴らして足を退けると、そこには全身をピクピクと痙攣させ、口から泡を吹きながら完全に沈黙した軍神の哀れな姿が転がっていた。


「わふん♪」


 コハクは満足そうに尻尾をブンブンと振ると、ポフンッと白い煙を上げて再び体長五十センチの愛らしい子犬サイズへと戻り、アッシュの足元へとトコトコ駆け寄って「褒めて褒めて!」と頭を擦り寄せてきた。


「よしよし、よくやったなコハク。ルビーもサファイアも完璧だ」


 アッシュがコハクの耳の付け根をワシャワシャと撫でてやると、コハクは目を細めて「くふぅ〜」と喉を鳴らした。

 横で見ていたエレナが、胸を撫で下ろしながら苦笑いを浮かべる。


「怪我人が出なくて――いえ、あちらの軍神様は全治三ヶ月の重傷のようですけれど、工事現場が無事でよかったですわね、アッシュ」

「ああ。労災事故にならなくて何よりだ。ガンツ、あのめり込んだ神様を端っこに転がしておいてくれ。邪魔だからな」

「へいよ旦那! オリハルコンのスコップで引っこ抜いて、日陰に転がしときやす!」


 天界全軍の誇る最強の軍神が、工事現場の邪魔な瓦礫のように扱われ、スコップで片付けられた瞬間であった。

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