第45話:下水掃除の誇りを胸に、最高の乾杯を
世界樹の天蓋が満天の星々を包み込み、夜風が心地よく吹き抜ける夜。
オアシスの最高峰、岩山の上にそびえ立つ【天空の展望大露天風呂】には、いつもの最高のメンバーが集まっていた。
乳白色に輝く極上の美肌炭酸温泉。
肩までどっぷりと湯に浸かったアッシュ、ガンツ、そしてグスタフ元帥の口から、同時に幸せに満ちた吐息が漏れた。
「「「ふあぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ」」」
「くふぅ……」
「ピピィ……」
「キュルルン……」
浅瀬では、コハク、ルビー、サファイアが体を寄せ合い、気持ちよさそうに目を細めて湯気に包まれている。
隣の女性専用浴槽からは、エレナと若返ったセリア大長老の楽しげな笑い声が聞こえてくる。
「元帥、工兵隊の調子はどうだ?」
「完璧だ、アッシュ殿」
グスタフ元帥が、手ぬぐいを頭に乗せて豪快に笑った。
「戦うことしか知らなかった我が兵たちが、今じゃスコップ一本で乾いた村に水を引いては、現地の娘たちに涙を流して感謝されておる。……軍人冥利、いや、職人冥利に尽きるというものだ」
「へっ、ドワーフの技術を盗もうって魂胆なら、まだまだ百年早いがな!」
ガンツが茶化し、男たちの笑い声が夜空に木霊した。
湯から上がったテラスには、今日も言葉にできないほど豪華な「サ飯」が並べられていた。
神聖水で打った極太手打ち麺の特製濃厚魚介豚骨ラーメン。
香ばしく炭火で焼き上げられた最高級の骨付きローストビーフ。
キンキンに冷えた神聖黄金生ビールと、湯上がりの天然氷淡雪イチゴかき氷。
「さあ、皆さん! 今日も一日、本当にお疲れ様でしたわ!」
エレナが眩い笑顔でジョッキを掲げた。
アッシュも、ガンツも、グスタフも、セリアも、全員がジョッキを高く掲げた。
コハクが「わふん!」と吠え、ルビーが「ピィッ!」と鳴き、サファイアが「キュルン!」と尻尾を振る。
「アッシュさん、そして世界一美しい私たちの街に――」
「乾杯だぁぁぁぁぁっ!!」
カチンッッッ!!!!
澄み渡る乾杯の音が、星空の下へと高らかに響き渡った。
アッシュは冷えたビールを一気に喉へと流し込み、熱々のラーメンを豪快に啜った。
「……美味いなぁ。本当に、美味い」
アッシュは夜空を見上げた。
地上数百メートルの世界樹の枝葉が、優しく風に揺れている。
十年前、暗闇の地下水路で一人、汚泥にまみれながら「無能」と罵られ、理不尽に追放されたあの日。
あの時、もし絶望して諦めていたら、この最高の瞬間には決して辿り着けなかった。
信じて磨き続けた職人の技術は、決して裏切らない。
どんなに地味で、どんなに汚れる仕事であっても、誇りを持ってやり抜けば、それはいつか世界中の命を救い、世界で一番温かい居場所を作り出すのだ。
「旦那、明日は帝都の第二バイパスの定期点検だぜ! 朝一番から出発だ!」
「ああ、任せろ」
アッシュは工具箱を愛おしそうに撫で、仲間たちに最高の笑顔を向けた。
「俺はどこまで行っても、ただの配管工で下水掃除屋だからな。……明日も美味い水を守るために、しっかり働くさ!」
「「「わははははっ!!」」」
歓声と笑い声が、世界樹の葉を揺らし、銀河の彼方へと溶け込んでいく。
追放された下水掃除人が、己の技術と仲間たちと共に築き上げた、世界一清潔で、世界一美味くて、世界一幸福な理想郷の伝説。
その奇跡の物語は、澄み切った清流のように、未来永劫へと語り継がれていくのであった――。
(第3章・完)




