第44話:世界樹の麓に誕生した【究極のアクア・リゾート】
世界水利サミットの成功から数週間。
アクア・ヘヴンは、世界樹の恩恵を受け、もはや地上の楽園と呼ぶにふさわしい【世界最大級の神聖アクア・リゾート】へと進化していた。
「わふっ! ばしゃばしゃ!」
「ピピィ〜♪」
「キュルルルンッ!」
世界樹の根元をぐるりと一周するように作られた、全長一キロメートルに及ぶ【流れる神聖温水プール】。
そこでは、すっかり仲良しになった三大神獣たちが、無邪気に水遊びを楽しんでいた。
白銀の天狼コハクが犬かきで優雅に泳ぎ、その頭の上で不死鳥ルビーが気持ちよさそうに羽を休め、海竜サファイアが水底からピョンと飛び跳ねて水飛沫を上げる。
世界最強の神獣たちが、ただの愛らしい子犬、小鳥、ミニドラゴンとしてじゃれ合う光景は、訪れる観光客たちを骨抜きにしていた。
「ふふ、本当に平和ですわね、アッシュさん」
プールサイドのデッキチェアで、エレナがグラスを傾けていた。
グラスの中でシュワシュワと弾ける黄金の泡。
世界樹の葉から滴り落ちる奇跡の朝露と、神聖麦で仕込んだ究極のシャンパン――【神聖世界樹スパークリング】である。
「ああ。最高だな」
アッシュも隣のチェアで、冷えたシャンパンを一口含んだ。
口いっぱいに広がる、花のような高貴な香りと、シルクのように滑らかな喉越し。
目の前には、ガンツたちドワーフが開発した【超炭酸ジェットバス】や、エルフの森の薬草をふんだんに使った【世界樹アロママッサージ殿】、そして湯けむりを上げる無数の露天風呂が建ち並んでいる。
「おい旦那! 世界中から届いた観光予約で、ホテルの部屋が向こう十年分まで全部埋まっちまったぞ!」
台車に山盛りの予約手紙を積んだガンツが、汗を拭いながら笑い声を上げた。
「帝都の元貴族どもも、ガルドの屈強な戦士たちも、みんなここで風呂に入りゃあ笑顔で肩を組んで酒を飲んでやがる。……旦那の作った水は、本当に世界を変えちまったな」
「俺一人の力じゃないさ。ガンツやエレナ、グスタフ元帥や神獣たち……みんなが力を貸してくれたからだ」
アッシュはグラスを掲げ、仲間たちと目を合わせた。
かつて冷たい地下牢で一人きりだった男の周りには、今、かけがえのない最高の家族が集まっていた。




