第42話:星のデトックス完了〜黒い巨龍から生まれた奇跡の世界樹〜
その光は、地上で見守るすべての人々の瞳を優しく染め上げた。
五百メートルもの巨躯を誇っていた泥の巨龍【ウロボロス・スラッジ】の身体が、頭の先から、足元から――サラサラとした純白の光の粒子へと変わっていく。
強酸の雨は止み、悪臭を放っていた紫黒色の煙は、甘やかな森の香りをまとった清涼な白煙へと姿を変えていく。
「見よ……! 怪物が……消えていく……!」
ドレイク提督が叫び、セリア大長老が両手を組んで祈りを捧げた。
そして――巨龍の身体が完全に光の粒子となって雲散霧消した、その瞬間。
ドズゥゥゥゥゥゥン……!!
荒野の中央の岩盤が、心地よい音を立てて隆起した。
怪物の中心核があった場所から、一筋の瑞々しいエメラルド色の若木が芽吹いたのだ。
若木は、アッシュの放った無尽蔵の純粋マナを吸い上げ、天に向かって驚異的なスピードで成長を始めた!
十メートル、五十メートル、百メートル、五百メートル――!
巨大な幹が天を支える柱となり、広げられた無数の枝葉は、大陸の空を覆う巨大な緑の天蓋を形成していく。
神話の時代に失われたとされる伝説の巨木――【神聖世界樹】の再誕であった!
ザアァァァァァァァァァッ……!
世界樹の無数の葉から、キラキラと輝く朝露のような光の雨が、大陸全土へと降り注いだ。
その雨が大地に触れた瞬間――。
帝都アルカディアの地下水路にこびりついていた何百年分のヘドロが一瞬で清流へと洗い流され、ガルド軍事帝国の荒れ果てた鉱山跡地に花々が咲き乱れ、エルフの森の聖なる泉が眩いばかりの輝きを取り戻した。
「奇跡じゃ……! 大陸中の水脈の毒が……完全に消え去ったのじゃ……!!」
セリアが涙を流して崩れ落ちた。
数万年間にわたって人類を苦しめ、大地を蝕み続けてきた「水脈の呪い」が、たった一人の元下水掃除人の手によって、完全に消滅したのである。
そして――世界樹の根元。
立ち込める白い蒸気の中から、作業着の煤をパパッと払った青年が、変わらぬ足取りで歩み出てきた。
その足元には、すっかり子犬サイズに戻って嬉しそうに飛び跳ねるコハク。
肩には、誇らしげに胸を張る小さな赤い小鳥ルビー。
そして腕には、気持ちよさそうに巻きつく青いミニドラゴンのサファイア。
「ふう……。やっぱり、詰まりを抜いた後の水は最高に気持ちいいな」
何事もなかったかのように微笑むアッシュの姿に、世界中の人々から――大地を割らんばかりの大歓声と拍手の嵐が巻き起こったのであった。




