第39話:泥の巨龍ウロボロス・スラッジの顕現
ズドドドドドドドッ!!
荒野の地平線が、真っ二つに裂け落ちた。
天を突く紫黒色の瘴気の柱と共に、地底の底から這い出してきたのは――もはや生物という概念を遥かに超越した、悪夢そのものの具現であった。
「ゴオオオオオオオオオオオッ……!!」
大気を震わせる唸り声は、何百万もの死者の怨嗟が混ざり合ったような悍ましい重低音。
全長五百メートルを超える、ドス黒い汚泥の巨龍――太古の災厄【ウロボロス・スラッジ】であった。
頭部には無数の歪んだ角が乱立し、眼窩には紫色の燐光がギラギラと不気味に燃え盛っている。
その体躯を構成しているのは、人類が建国以来数万年間にわたって大地に垂れ流し続けてきた生活廃水、重金属、魔導兵器の残滓、そして死者の怨念が凝縮された『原初魔毒ヘドロ』そのもの。
巨龍が一歩足を踏み出すたびに、触れた岩盤がジュウウッと激しい音を立てて溶解し、周囲数十キロにわたって猛毒の酸性雨が降り注ぎ始めた。
「ヒッ……!? な、なんという悍ましい姿じゃ……!」
「あれが……星の底に封じられていた、人類の罪の結晶か……!」
迎賓館のテラスから見上げる各国首脳たちが、絶望に息を呑んだ。
通常兵器も魔法も通用しない。触れただけで武器が溶け、肉体が腐り落ちる死の権化。
巨龍は、美しく輝くオアシス都市『アクア・ヘヴン』を見下ろすと、その汚泥の顎を大きく開き、山をも消し去るほどの高濃度魔毒ブレスをチャージし始めたのだ!
「アッシュさん! あのブレスが直撃すれば、都市も世界中の水源も一瞬で強酸の海へ沈みますわ!」
エレナが叫んだ。
しかし――アッシュは作業着の胸元を正し、中央広場の最前線へと静かに歩み出た。
「コハク、ルビー、サファイア。……あいつを、これ以上暴れさせるな」
アッシュの呼びかけに応じ、彼の足元、肩、そして腕から――三色の眩い神光が弾け飛んだ!




