第38話:全大陸配管網、完全同期作戦発動〜工兵五万人とドワーフの総力戦〜
「全セクターの作業員へ告ぐ。これより、全大陸多重濾過グリッド(グローバル・フィルター・システム)を発動する!」
アッシュの声が、魔導通信網を通じて大陸中のスピーカーから一斉に鳴り響いた。
「一箇所の水槽で毒を受け止めようとするから決壊するんだ。……大陸全土に埋設した、十万キロに及ぶすべてのパイプラインを【巨大なバイパス循環路】として開放する!」
アッシュがコンソールに叩き込んだのは、流体力学の極致とも言える前代未聞のオペレーションであった。
地底深層から噴き上がる何十億トンもの魔毒泥流。
それを帝都やオアシスで堰き止めるのではなく、大陸中のパイプラインへ分散させて高速循環させ、各所に設置された数十万個の『スマート・バルブ』と『中継濾過フィルター』を多段同期させることで、圧力を分散しながら段階的に毒素を削ぎ落としていくのだ!
「グスタフ元帥! ガルド軍の工兵五万人を直ちに動員し、北部セクター第一から第三十までのバイパス減圧弁を全開放しろ!」
「応ッ!! ガルド全軍、工兵用スパナを構えよ! 一秒たりとも遅れるな、アッシュ殿の合図に合わせてバルブを回せぇぇぇっ!!」
グスタフ元帥が叫び、歴戦の兵士たちが砂漠の各地で一斉に巨大バルブへと飛びついた。
「ガンツ! ドワーフの鍛冶工団を率いて、帝都地下の破損配管へオリハルコン製バイパスパッチを溶接しろ!」
「任せときな旦那! ドワーフの魂を込めた溶接、一ミリの隙間も作らねえぞ!!」
「セリア様! エルフの魔術師団で、森の水門から浄化の魔力パルスをパイプライン内へ逆流させてください!」
「承知した! エルフの森の全エーテル、アッシュ殿に預けようぞ!」
かつて憎しみ合い、領土を奪い合っていた大国の軍隊、エルフ、ドワーフ、人間たちが――今、アッシュという一人の配管工の指揮の下で、完全に一つとなって命のインフラを死守するために動き出したのだ!
「――《真理の濾過・全大陸完全同期》!!」
カアァァァァァァァァァッッッ!!!!
アッシュの全身から、天を突くサファイアブルーの極太の光柱が立ち昇った。
その光はパイプラインのネットワークを通じて大陸全土へと伝播し、何十万本もの配管が、青白く神聖な光を放ち始めた。
ギチギチギチ……シュロロロロロロッ!!
決壊寸前だった帝都の地下水槽の水圧が、急速に低下していく。
噴き上がろうとしていた猛毒ヘドロが、網の目のように張り巡らされたバイパスへと吸い込まれ、数十万のフィルターによって段階的に解体されていく!
「やった……! 全セクターの水圧が安全領域まで低下しましたわ!」
エレナが歓喜の声を上げた。
しかし――アッシュの視線は、荒野の中央、地平線の裂け目へと注がれていた。
泥水は制御できた。
だが――その汚泥を生み出していた【大元の怪物】が、ついに地上へと姿を現そうとしていたのだ!




