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第35話:深海の守護竜と、汚染された水脈の底へ〜第三の神獣との遭遇〜

 アクア・ヘヴンの地下ドック。

 水深数百メートルの巨大なプールに浮かんでいたのは、ドワーフの超絶技巧と最高純度オリハルコンを惜しげもなく注ぎ込んで建造された深海探査艇――【神鋼アクア・ノーチラス号】であった。

 球形の分厚い耐圧ガラス、水流を推進力に変える魔導スクリュー、そしてアッシュの《真理の濾過》を展開するための特殊放水ノズルを備えた、水深一万メートルの水圧にも耐えうる究極の潜水艇である。


「アッシュさん、水深三千メートルの地底海は、光の届かぬ完全な漆黒と未知の水圧の世界ですわ。くれぐれもご無理をなさいませんように……!」

「ああ、行ってくるよエレナ。地上のバルブの監視を頼む」


 アッシュはコハクとルビーを連れて操縦席へと乗り込んだ。

 コハクは白銀の毛並みをキュッと縮めて助手席に座り、ルビーはアッシュの肩の上でパタパタと小さな赤い翼を羽ばたかせている。


「メインハッチ閉鎖! 注水開始だぁぁぁっ!!」


 ガンツの号令と共に、探査艇は地底水脈の竪穴へと滑り落ちていった。


 ズズズズズズズ……ッ!


 水深五百メートル、千メートル、二千メートル――。

 深度が深くなるにつれ、耐圧ガラスの外側は完全な闇へと沈んでいく。

 外気温は氷点下近くまで下がり、サーチライトの光の先には、何万年もの間手付かずだった太古の鍾乳石の回廊が続いていた。

 しかし――その美しいはずの地底水脈は、痛ましいほどに侵食されていた。


 ゴボリ……ゴボゴボッ!


 岩肌の割れ目から染み出しているのは、ヘドロのようにドロドロとした紫黒色の汚濁流であった。

 サーチライトの光を乱反射させ、探査艇の装甲板にドロリとへばりついてくる。


「ぐるるる……」

「ピピィ……!」


 コハクが低く喉を鳴らし、ルビーが警戒するように羽毛を逆立てた。

 そして――深度三千メートル。

 目の前に広がったのは、大陸の下に広がる広大な【内陸地底海】であった。

 何万トンもの海水と淡水が交わる巨大な地下空洞。

 その中央、地底深層の裂け目を塞ぐようにして――何かが横たわっていた。


「あれは……!?」


 アッシュはサーチライトの焦点を絞り、息を呑んだ。

 体長三十メートルを超える、青く透き通る鱗に覆われた巨大な龍――【碧海の海竜(アクア・リヴァイアサン)】であった!

 しかしその姿は、あまりにも過酷な現実を物語っていた。

 海竜の巨体には、地底の裂け目から噴き出す万年ヘドロが、まるで呪われた黒い鎖のように幾重にも巻きつき、美しいはずの碧玉の鱗をドス黒く腐食させていたのだ。

 海竜は自らの巨大な尾と身体を使い、地底の底から地上へ向かって噴き出そうとする猛毒の濁流を、たった一人で、何百年、何千年もの間、必死に食い止め続けていたのだ。


「グルゥゥゥ……ッ……!」


 サーチライトの光に気づいた海竜が、苦しげに巨大な黄金の瞳を開いた。

 その瞳に宿っていたのは、敵意ではなく――力尽き果てようとしている者の、深い絶望と孤独であった。



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