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第33話:神聖水で作る奇跡の和スイーツ〜極上天然氷のかき氷と抹茶パフェ〜

 エルフの大長老セリアが美少女へと若返って温泉の虜となった頃。

 迎賓館の隣にある屋外サウナテラスでは、もう一人の難敵が、全身から滝のような汗を流しながら猛烈な熱波と戦っていた。

 エルトリア海洋連合の最高司令官――ドレイク提督。

 五十を超える大艦隊を率い、大洋の魔獣どもをその剛腕で叩き潰してきた歴戦の海の覇者である。

 傷だらけの筋骨隆々の巨躯に、口髭をたくわえた厳格な軍人。

 彼はサウナと摂氏十二度の神聖水風呂を三往復し、荒野の涼やかな風を浴びながらインフィニティチェアに沈み込んでいた。


「ぐふぅ……っ! た、確かにこの風呂とやら、航海の疲労が一瞬で吹き飛ぶ恐るべき威力だ……。だが、ワシは騙されんぞ!」


 ドレイク提督はカッと目を見開き、テラスの木製テーブルを拳で叩いた。


「ワシは海に生きる男! 我が艦隊が求めるのは、過酷な長距離航海を支える真水の安定補給のみ! 風呂がどれほど気持ちよかろうと、国家の予算を平民の言い値で売り渡すような愚かな契約に判など押すものか!」


 強面をさらに険しくして仁王立ちする提督。

 そこへ――白い割烹着姿のアッシュが、木製のトレイを両手に乗せて涼やかな足取りで現れた。


「ドレイク提督。サウナ上がりの火照ったお身体に、こちらの冷たい甘味はいかがですか?」

「甘味だと!? フン、ワシのような荒海を生きる無骨な軍人が、女子供の食うような砂糖菓子など口にするか――」


 ドレイクの言葉が、トレイの上に置かれた器を目にした瞬間、喉の奥で凍りついた。


「……な、なんじゃ、これは……!?」


 ガラスの器の上に聳え立っていたのは、純白の雪山であった。

 だが、ただの氷ではない。

 アッシュが厳冬期の竜骨山の山頂で、神聖水を時間をかけてゆっくりと凍らせた【超高純度天然氷】。

 それを、ドワーフのガンツが極限まで研ぎ澄ました特殊なカンナ刃で、羽毛のように、絹糸のように、ミクロ単位の薄さで削り出した【奇跡の淡雪かき氷】であった。

 その純白の氷山の上から、トロリと回しかけられているのは、太陽の恵みを浴びた完熟イチゴを神聖水でじっくり煮詰めた、ルビー色に輝く濃厚な自家製果肉シロップ。

 さらに、搾りたての神聖ミルクを極限まで煮詰めた、純白の特製練乳が雪崩のように滴り落ちている。


「お召し上がりください。サウナで極限まで熱を帯びた身体のためだけに作った、【神聖淡雪イチゴ氷】です」


「……ぐ、ぐぬぬ……。一口だけじゃぞ! 礼儀として一口だけ味見してやる!」


 ドレイクは言い訳するように銀のスプーンを手に取り、山盛りの氷をそっとすくい上げた。

 スプーンに乗った氷は、触れただけで崩れそうなほどフワフワとしている。

 意を決して、大口を開けて放り込んだ。


「ぱくり……っ」


 その瞬間。

 ドレイク提督の視界が、真っ白な光に包まれた。


「…………っっっっっっっっっ!?!?!?」


 冷たいはずだった。

 だが――舌の上に触れた瞬間、氷はシャリシャリとした抵抗感を一切残さず、まるで春の陽光を浴びた新雪のように、スウッと跡形もなく溶けて消え去ったのだ!

 口いっぱいに広がる、完熟イチゴの瑞々しい甘みと華やかな酸味。

 そして、濃厚な練乳のミルキーなコクが、超純水の清涼感に乗って喉の奥へと滑らかに雪崩れ込んでいく。


「な……な、何だこれはぁぁぁぁっ!? 頭が……頭がキーンと痛くならんぞ!?」

「不純物を完全に濾過した天然氷ですからね。水分子の結晶が均一なので、血管が急激に収縮する頭痛が一切起きないんです」


「う……美味い……!! 美味すぎるぅぅぅぅぅぅっ!!」


 ドレイク提督は猛烈な勢いでスプーンを動かし始めた。

 サウナで極限まで脱水した身体の細胞一つ一つが、極上の冷涼な糖分と水分を狂ったように吸収していく。

 山盛りだったはずのかき氷が、わずか三十秒でドレイクの胃袋の中へと消え去った。


「ふ、ふふ……まだ終わりではありませんわよ、提督」


 トレイの横から、エレナがもう一つの漆黒の器を差し出した。

 そこに鎮座していたのは――神聖水で極限まで練り上げられ、水晶のように透き通るぷるぷるの【極上本わらび餅】。

 その上には、香ばしい黄金きな粉と、濃厚な黒蜜、そしてほろ苦い最高級宇治抹茶の特製ジェラートが添えられた【神聖抹茶パフェ】!


「ぬ、ぬおおおおっ!? このプルプルした透明な塊は何じゃあぁぁぁっ!?」


 ドレイクが箸でわらび餅を挟み、口へ運ぶ。

 チュルン……と喉を滑り落ちる官能的な食感。

 黒蜜の深いコクと、抹茶ジェラートのほろ苦さが、男の理性を完全にノックアウトした。


「う……ううっ……!」


 ドレイク提督の厳格な瞳から、大粒の涙がボロボロと溢れ出した。


「美味い……! 荒海で塩水を浴び、壊血病と渇きに怯えながら航海してきたワシの五十年間の苦労が……今、この甘味によって完全に救われた……!」


 ドンッ! と提督は立ち上がり、懐から海洋連合の全権委任状を取り出してテーブルに叩きつけた。


「アッシュ殿! 我がエルトリア海洋連合の全軍港に、この水を引いてくれ! 補給艦隊の全維持費を払おう! そして我が連合の全海域において、アクア・ヘヴンの商船に永久無税の特権を与えようぞ!!」


 海の猛将までもが、アッシュの極上サウナと和スイーツの前に、完全なる笑顔で全面降伏したのであった。



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