第30話:世界最強の温泉都市国家「アクア・ヘヴン」建国宣言
満天の星々が、銀河の帯となって夜空を彩る夜。
オアシスの最高峰、切り立った岩山の頂上に完成した【天空の展望大露天風呂】には、至福の湯気が立ち込めていた。
「くふぅぅぅぅぅ……っ!」
「ピピィ〜……♪」
特等席の浅瀬で、コハクとルビーが気持ちよさそうに目を細めて湯に浸かっている。
白銀のモフモフの頭の上に、深紅のフワフワがちょこんと収まり、時折コハクが大きな舌でルビーの羽毛を毛づくろいしてやる。
二大神獣が寄り添って寛ぐ姿は、神話の絵画よりも尊い平和の象徴であった。
隣の浴槽では、アッシュ、エレナ、ガンツ、そしてグスタフ元帥が、それぞれキンキンに冷えた神聖ビールのジョッキを手に持っていた。
眼下を見下ろせば、かつての死の荒野は、何万人もの開拓民と笑顔に包まれた光の都市国家『アクア・ヘヴン』として眩く輝いている。
水上マーケット、湯けむり横丁、ドワーフの最先端魔導工房、そして世界樹の若木。
「みんな、今日も一日……本当にお疲れ様でした」
「アッシュさん、そして私たちの愛する国に――」
「乾杯だぁぁぁぁぁっ!!」
カチンッ! と四つのジョッキが打ち鳴らされた。
アッシュは冷えた神聖エールを一気に喉へと流し込んだ。
「ゴクッ……ゴクッ……ぷはぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
身体の奥底から込み上げる熱い充実感。
湯上がり用のテラスには、神聖水で打った極上の中華そば、じっくり炭火で炙った最高級の骨付き肉、そしてエレナ特製のフルーツシャーベットが山盛りに並べられている。
「美味いなぁ……。本当に、美味い」
アッシュは夜空を見上げた。
十年前、暗闇の地下水路でヘドロにまみれ、理不尽に耐え続けていた自分に教えてやりたい。
お前が信じて磨き続けた配管の技術は、世界中の命を救い、こんなにも温かい居場所を作り出したのだと。
「アッシュさん、大陸中の国々から、水利同盟の加盟要請と観光ビザの申請が殺到していますわよ。明日からも大忙しですわね」
「ああ。いくらでも相手をしてやるさ」
アッシュは仲間たちに力強い笑顔を向けた。
「ここは俺たちの街だ。誰にも奪わせない。……世界一美味い水を飲んで、温泉に入って、明日も気ままに笑って暮らそう!」
「「「おおおおおおおおっ!!」」」
歓声が星空へ吸い込まれていく。
理不尽に追放された下水掃除が、己の技術と信念で世界を塗り替えた奇跡の英雄譚。
その伝説は、今まさに大陸全土を潤す大海となって、未来へと流れ始めていた――。
(第2章・完)
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