第28話:敵国元帥と強欲教皇、並んで土下座の二重奏
ガルド軍事帝国の精鋭部隊がアッシュに心服し、戦闘が完全終結した翌日。
オアシス都市『アクア・リゾート』の広場では、二つの異なる運命が清算されていた。
広場の中央には、鉄の檻に閉じ込められた大司教マクシミリアンの姿があった。
髪も眉毛も丸焦げになり、純白のパンツ一枚に粗末な毛布を羽織った老人は、帝都から駆けつけた近衛兵と怒り狂う市民たちの前に引きずり出されていた。
「ひ、ヒィィィッ! お許しを! 皇帝陛下、民の皆様、どうかお慈悲をぉぉぉっ!」
マクシミリアンが泥土に額を擦り付けて命乞いをするが、市民たちから投げつけられたのは、腐った野菜と汚泥の雨あられであった。
「この悪徳坊主め! 泥水を聖水と偽って、俺の母親を殺しかけやがった!」「教会の財産を全部吐き出せ!」「死ぬまで帝都の下水牢で泥水を啜ってろ!!」
帝都裁判官の冷酷な宣告が下る。
全財産没収、大司教位の永久剥奪、そして終身地下汚水牢での強制労働。
神の名を騙って弱者を食い物にしてきた強欲な男に、最も相応しい因果応報の結末が下されたのであった。
一方――。
中央工房のテラスでは、グスタフ元帥がアッシュと対面していた。
鎧を脱ぎ、質素な作業着に身を包んだ元帥の背後には、アッシュの神聖水で命を救われた五千の兵士たちが、整然と直立していた。
「アッシュ殿。我が軍は、貴殿の配下として如何なる過酷な任務も引き受ける覚悟だ。……我が命を、どう使われるおつもりか」
グスタフ元帥の真摯な問いかけに、アッシュは一枚の巨大な設計図を広げてみせた。
それは、大陸全土を網の目のように貫く【大陸横断・神聖魔導水道パイプライン】の建設計画図であった。
「元帥。あんたたちガルド軍の重装甲車両と土木技術、そして屈強な兵士たちの腕力を貸してほしい」
「……なに?」
「戦争で人を殺すための力じゃない。砂漠を掘り、パイプを埋め、大陸中の乾いた土地に水を届けるための【平和の工兵隊】として、力を貸してほしいんだ」
アッシュの言葉に、グスタフ元帥は目を見開いた。
戦うことしか知らなかった軍人たちに、アッシュは『生命を繋ぐ仕事』を与えたのだ。
グスタフ元帥の目から、熱い涙が一筋こぼれ落ちた。
「……感謝する、アッシュ殿! 我が軍の全兵力を以て、必ずや世界一の水道網を掘り抜いてみせよう!!」
五千の兵士たちから、地響きのような大歓声が湧き上がった。
侵略の軍靴は、未来を切り拓く開拓の槌音へと、完全に生まれ変わったのである。




